世界的に“脱・使い捨てプラスチック化”が進む昨今。飲食店を中心に、プラスチックストローを廃止する動きが出ているなか、グラスにも画期的なプロダクトが生まれていました。今回は最前線の現場から、一例をお届けしたいと思います。
微細化されたパルプを使った自然にやさしいタンブラー
訪れたのは、10月4日~6日で開催された「つくばクラフトビアフェスト2019」。会場は駅からすぐの「つくばセンター広場」で、「森のタンブラー」は5000個を採用とのこと。実物を見ると、自然に溶け込むデザインが印象的です。
「高濃度セルロースファイバー成形材料」は、パナソニックが独自に開発した新開発の樹脂。ナノレベルに微細化されたパルプ成分を55%以上含有しており、昨年8月に発売されたコードレススティック掃除機「MC-SBU820J/MC-SBU620J」でも採用されています。
この素材に着目したのがアサヒビール。屋外イベントや店頭での持ち帰り用ビール類の提供を想定し、今夏からテスト展開をスタート。千葉・小湊鉄道線の人気クルーズトレイン「SATOYAMAトロッコ『涼風ビール列車』」や、Jリーグ・ガンバ大阪の試合でアサヒスーパードライを限定発売し、今回のビールイベントではタンブラーの提供で参加したという流れです。
会場にはタンブラーの技術者も参加していて、話を聞いてきました。開発秘話を教えてくれたのは、アサヒビールのイノベーション本部、パッケージング技術研究所の小原徹さん。
「ともにオリンピック・パラリンピックのパートナー企業であったことが、開発のきっかけです。昨夏、技術者同士の交流会をした際、双方の取り組みを紹介していくなかでタンブラーの発想が挙がりました」(小原さん)
「つくばクラフトビアフェスト2019」では約1万人の来場を想定。そこで5000個を配布することで、会場で排出されるプラカップごみを最大約2万個削減できる見込みだとか。
「ここまでの大規模でやるのは初めてですね。今後、秋以降のいろいろなイベントで採用が決定しています。実用テストも行っており、500回連続で洗浄してもタンブラーの性能は変わらず、弊社運営の飲食店では10か月ほぼ毎日連続使用しても問題ありません。一般採用はこれからですが、来年はさらに広げていきたいと考えています」(小原さん)
繊維の凹凸がきめ細やかな泡を生む
パナソニックの開発者にも話を聞きました。対応してくれたのは、先行成形技術開発部の峯 英生さん。
「弊社では家電を中心に『高濃度セルロースファイバー成形材料』のさらなる広がりも考えていますが、タンブラーとしての開発には興味深い発見もありました。それがビールの泡立ちです。内側は一見ツルツルなのですが、電子顕微鏡レベルで見るとファイバーなので凹凸になっているんですね。アサヒビールさんによると、これがきめ細やかな泡を作るそうで。ビールのプロも納得する、素晴らしいタンブラーができてうれしいです」(峯さん)
アサヒビールは初期開発時以降何度も改良を重ね、よりビールをおいしく飲める形状を追求したとか。そのひとつがグラスのサイズ。490mlになっているのですが、これは利用者が自宅に持ち帰って飲んだときのことを想定したから。缶ビールを注いだ時に7:3になるように設計されているそうです。
リユースカップは10年以上前からあり、ライブハウスやイベントなどで採用されてきましたが、よりエコな素材というのは画期的。しかもビールメーカーが開発したタンブラーということで、性能もお墨付き。ビール好きにとってはうれしい限りです。
使い捨てカップはこれまで無償が当たり前で、タダだからこそ捨てられてきた背景も。「森のタンブラー」のような取り組みが広がっていけば、エコバッグがそうであるように、イベントなどにマイグラスを持参することが普通になっていくのでは、と思いました。今後の拡大が非常に楽しみです。
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