日本将棋連盟が主催する子どもの将棋大会「テーブルマークこども大会」東京大会が、「将棋の日」である11月17日に開催されました。2494人もの子どもが集い、ブロック対局とトーナメントで低学年と高学年、それぞれの優勝者をなんと「1日」で決める同大会は、国内最大の将棋のこども大会でもあり、今回19回目となります。
真剣勝負から多くのことを学ぶ
今大会は、「ひとつ前に進む。ひとつ強くなる。」をキャッチコピーにしています。勝つだけでなく、負けて悔しくても一戦一戦将棋と向き合うことで強くなっていける、そんな将棋の良さを表すこのキャッチコピー。開会式で挨拶した、日本将棋連盟会長の佐藤康光九段は、前にしか進めない「歩」も成ることで「と金」になり”成長”できることになぞらえ、その意義を語ります。
また、子どもにとって、将棋は礼節も学ぶ場にもなります。対局開始の「お願いします」、そして勝っても負けても気持ちよく終局時に「ありがとうございました」を言えるようになることは、子どもたちにとって、大切な経験と習慣となることでしょう。
開会式には、なんと体操のオリンピック金メダリスト・内村航平選手が登場。幼少期から「将棋が好きだった」と語る内村選手の好きな駒は、やはり(?)「金」だそう。将棋においては攻守の中心となるこの駒ですが、内村選手がこれを好む理由は、「金メダルだけを目指して競技をやっているから」。体操と将棋、ジャンルこそ違えど、真剣勝負であることは一緒、と子どもたちに説いていました。
さて、その内村選手が開幕の太鼓を打ち鳴らすと「ブロック対局」が始まりました。ここで3連勝した選手は、次の「トーナメント対局に進み、そこで最後まで勝ち残った2名が、ステージ上での決勝対局に挑みます。
1回の対局は長くて約20分。場合によってはチェスクロックが設置され、持ち時間は各選手3分しかありません。短時間で、勝敗を左右する判断のひとつひとつをクリアしていく必要があります。局面によっては、100をゆうに超える選択肢がある将棋。難しい選択の連続に対して、真剣に向き合う彼らの姿が印象的でした。eスポーツの大会など、真剣勝負の舞台をほかにも取材している筆者も、子どもたちの鬼気迫る表情には、年齢とは関係ない”勝負師”としての眼差しを感じさせられました。
長い予選を経たあとの決勝対局は、プロと同じ将棋盤・駒を使用して行われます。その舞台まで進んだ2人の子どもたちは羽織袴姿で、大盤解説・読み上げ・記録もつくなか、プロのタイトル戦さながらの対局を行います。その結果、今回優勝の栄冠を手にしたのは近藤啓介くん(低学年の部)と、北原優くん(高学年の部)。
なお、同時開催で行われた、JTが協賛している将棋日本シリーズに出場しているトップ棋士12名のうち4名が本大会の出身者だそう。実際にプロになるには、奨励会に入って厳しい勝負に勝ち続ける必要がありますが、今回優勝を果たした2人も、その入り口に立ったといえるのではないでしょうか。
羽生善治九段が子どもにやっぱり人気!
当日は、JT杯将棋日本シリーズの決勝・渡辺明JT杯覇者 vs 広瀬章人竜王の頂上決戦(渡辺JT杯覇者が2連覇を達成)のほか、鈴木環那女流二段などによる指導対局も行われました。どのイベントも大勢の参加者で賑わいを見せ、将棋人気の高さをうかがい知るには十分なものでした。
会場に訪れた親子に話を聞いてみました。
「教室に通っていて、毎日のように家でも将棋を打っている」という澤田さん親子は横浜から初めての参加。小学3年生と年長の兄弟で将棋を楽しんでいるそうです。教室にも通っていて、棋力上達にとても熱心なようでした。
「知らない人と打って、友達を増やしたい」と語るのは、埼玉県から参加の山本さん。将棋を始めてから1年半ほどという小学3年生の女の子は、午後に行われる自由対局でたくさんの人と出会うのを心待ちな様子でした。
また、子どもたちに「好きなプロ棋士は?」と聞くと、「羽生さん!」という答えが最も多く聞かれました。その答えを返してくれた一人である、小学4年生の杉澤くんは大会3度目の参加です。「羽生さんの寄せの速さが好き」という彼は、トーナメント対局に進むのが目標でしたが、惜しくも予選敗退となってしまい、笑顔のなかにも悔しさを滲ませていました。
どの子たちも、将棋を”心の底から”楽しんでいる姿が筆者の印象に残りました。大人のみならず、多くの子どもたちをも魅了してやまない将棋。あなたのお子さんにも、ぜひ教えてみてはいかがでしょうか。子どもが将棋で強くなっていくなかで、成長を感じることができるはずです。