そんな慌ただしい中でも、時間の使い方を意識してデザインすることで、一日を有効に使えるようになります。今回は、時間の特性や時間心理学など、「時間学」について研究している千葉大学大学院人文科学研究院の一川誠教授に、時間を上手に使う方法を教えていただきました。
時間の感じ方が変わる3つの要因
時間の流れは、年齢や代謝の状態、そのときにしていることなどによって感じ方が違います。時間の流れが早く感じる理由の中でも、主な3つについて探ってみましょう。
1. 代謝が落ちているとき
「代謝が落ちると、体内にある時計の進み方が遅く感じられるようになります。つまり、時間が早く過ぎ去っていくと感じるのです。まだ代謝が激しい子どもと、代謝が低下しつつある大人では、大人のほうが時間の流れは早く感じます。また、運動をしたり健康的だったりと代謝が上がった状態である方が、時間の流れが遅く感じられるようになります。
代謝の状態は、体温を測るとわかります。一日の中でも、体温が低いときのほうが時間の流れが早く感じます。一般的には朝と晩に体温が下がっていきますので、日中はゆっくり、朝晩はあっという間に過ぎる感じがするかもれしません。朝、支度で急がなければならず、時間の流れも早く感じるからといって、急ぐのは危険です。朝7〜8時は心不全が起こりやすい時間帯でもありますから、体のことを考えてゆっくり動き始めましょう」(千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授、以下同)
2. 楽しいことをしているとき
「こちらは心的要因で、楽しいことや興味のあることをしているときは時間が早く経つ感覚があります。一方、痛みや苦痛のあるときや退屈なときは、長く感じられるものです。これは、時間が経つのが遅いなあと時間について注意が向けられる回数が多いほど、長く感じられてしまうことからくるのです」
3. 慣れていることをしているとき
「日常的な仕事や家事など、いつもしていて慣れていることに取り組んでいるときは、時間が短く感じられます。工程を覚える必要がなく、大変さや困難を感じることが少なく、さっと終わらせることができる感覚が生まれるからです。このような作業は無理にがんばらなくてもできることなので、頭がまだぼんやりしている朝や、疲れた晩にするのがおすすめです」
時の流れが“代謝”によって変わるとは驚きです。このように時間を長く感じるとき、逆に短く感じるときの特性を知った上で、では私たちは時間をどのようにデザイン、またマネジメントしていけばいいのでしょうか? 次のページでは、心がけるべきコツを教えていただきます。
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時間をデザインするために意識すべき7つのポイント
日々、やらなければならない事柄ややりたいことが多くなると、実際に割ける時間よりもやりたいこと、やるべきことの方が多くなり、“時間が足りない”という感覚が強くなってしまいます。
「限られた時間の中で、やりたいことややるべきことをすべて行うのはなかなか難しいものです。そもそも人はやりたいことが年々増えていきますから、やりたいことのうち実現できるのは3割くらいだと考えるとよいでしょう。また、スケジュール調整や目標設定の仕方などで時間を有効に使うことはできますから、ポイントをおさえて過ごし方を考えてみてください」(千葉大学大学院人文科学研究院 一川誠教授、以下同)
1. 締め切りに合わせて動かない
仕事や家事など、この日(時間)までにしなければならないという締め切りが決まると、人はそのゴールに合わせて動くようになります。「これはパーキンソンの第一法則といって、たとえば土曜日までに提出しなければならない課題に着手するとき、月曜日に作業できる時間があっても“まだ先のことだから……”と、手をつけるのを遅らせてしまいますよね。そうすると必然的に作業時間は長くなってしまいます。まだ先の締め切りに合わせてのんびり動くことなく、最初からエンジンをかけて目標設定に向かって動く癖をつけておくと、クオリティの高い作業をしやすくなるでしょう」
2. 細かく目標を定めて動く
人は、ゴールに近づくとその作業が楽しくなり、積極的に動ける性質があります。「反対にゴールが遠いといつまでたっても積極的に動けず、その作業がつまらなく感じてしまうのです。ゴールが見えにくいものに着手するときは、最終ゴールに行き着くまでにも細かく目標を設定しておき、ひとつひとつクリアしていく意識を生むことで、楽しく作業ができ、効率よく時間を使えるようになります。目標を達成するごとにシートにチェックしていくなど、視覚化できると自分の居場所がよりわかりやすくなります」
3. ネットサーフィンは20分に留める
寝しなに携帯電話をいじったり、作業をしている合間にSNSを眺めたり、インターネットを見ている時間はあっという間に過ぎてしまうものですよね。「何かひとつのことを調べていたつもりでも、検索してまたそこからどこかに飛んで……、と繰り返しているうちに、得られる情報の精度は下がっていきます。また、高速通信とはいえ、読み込みを待つ時間もとられています。終わりの時間を決めてネットを利用するのがいちばんいいでしょう」
4. 前もってできる準備はしておく
明日の洋服を決めたりバッグの中身を整理しておいたりと、子どものころにやったような“明日の準備”は、どの場面でも大切です。「前もって準備しておくことでことがスムーズに進み、気持ちにもゆとりができます。特に “選ぶ”という行為は、人によってはとても時間がかかり、予定通りに進まないこともありますから、事前にしておきましょう。明日一日で何をするべきかを考えて、予定に向けて気持ちの準備をしたり、優先順位を考えたりしておくことも、時間を有効に使える手立てになります」
5. 自分が動ける時間帯を知っておく
頭がすっきりして動ける時間帯は、人によっても違います。自分が動きやすい時間帯を知ってスケジュールを組むことも意識してみましょう。「一般的には、午前中は頭を使う勉強や読書などに向き、午後から夕方にかけては、運動や体を使うことに向いています。ただ朝型・夜型、というように人それぞれに得意な時間帯を持っていて、それに合わない予定の組み方をしてしまうとストレスになります。どの時間帯が自分にとって動きやすいかを調べてみてください」
6. 休憩をしっかり挟んで効率よく動く
眠気を感じたり集中力が落ちたりするときは、だらだらと作業を続けるよりも、思い切って休むほうがよいでしょう。「午後1時から3時ごろにかけては、だいたいの方が眠気を感じます。それは人の覚醒と眠気のリズムに12時間周期のものがあるからです。この時間帯は交通事故が多くなったり人的エラーが起こったりしやすいので、仮眠をとれなくても、15〜20分ほど目を閉じて休めるだけで眠気をリセットし、効率よく動けるようになると思います」
7. 逃避している時間を意識する
やらなければならないことが目の前にあるのに、別のことに興味がいってしまったときは、自分が課題から逃げていることを意識しましょう。「逃避の時間は、心の健康を保つために必要でもあるので、一概に時間の無駄とは言えません。しかし、逃避したままだと課題は終わりませんし、作業に使える時間はどんどん短くなってしまうので、逃げている自分を意識して、『このくらいで戻ろう』と“おしり”を決めるのがいいでしょう」
時間は、限られているからこそ有効に使いたいもの。そう思っていても、ついつい流されるように過ごしてしまいがちです。時間の使い方を能動的に捉えていくことで、一日一日を充実させることができるのではないでしょうか。
【プロフィール】
千葉大学大学院人文科学研究院教授 / 一川 誠
心理学者。時間の特性や時間心理学など、「時間学」について研究している。著書に「大人の時間はなぜ短いのか」(集英社新書)、「時計の時間、心の時間-退屈な時間はナゼ長くなるのか?」(教育評論社)などがある。近著は、ちくま新書から出版した「ヒューマンエラーの心理学」。
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