ライフスタイル
2020/4/17 17:30

「セックスしたい」と伝え合える関係を作るには――「性的同意」を巡る課題についてパックンことパトリック・ハーラン氏の思い

パックン:話は変わるけど、日本のAVは断ろうとしている女性を押し倒す演技が多い。それに興奮する人が多いという証だと思うけれど、それは直すべきです。アメリカのAVみたいに「YES! YES!!」とか言わなくてもいいけれど、僕は「お互いにしたいことをしている」という流れがないとまずいと思う。「それは性的同意じゃないじゃん」って。「『いや!』って言っているのに止めない映像を流すのはけしからん」って意見があるべきだと思うんですよ。

 

ーーでも、自分としてもやっぱり好きな男性に強く押して欲しい気持ちはすごくあるんですよね。

 

パックン:交渉はしていいと思うんですよ。日本人女性は本当はやりたいときでも「やりたい」って言いにくいでしょう。だから、男性は自分だけじゃなくて、本当はやりたいと思っている相手の希望も叶うように強く押さないといけないことになる。でも逆に、本当にやりたくなくて「ごめん、無理だ」と言っても「言っているだけでしょう?」って、空気を読めない男性も絶対にいる。

 

ーー「またまたー」みたいな人? いそうですね。

 

パックン:そう、だから女性の習慣も変えなければいけないと思うよ。「あなたとしたい」でも「ごめんなさい」でも、暗号なしにはっきりと言う。そして、同じことを男性にも求める。お互いに「やりたい」って伝えない相手には「やらない」という意識を持つ。

 

ーー女性が積極的になったとして、セックスした後に「あれ、付き合うんじゃなかったの?」みたいな空振りが怖いというのもあります。

 

パックン:逆に「明日も会いたいのになんで帰るの?」っていう男性も絶対にいるんですよ。だから男女の典型として話すけれど、おっしゃる通り、女性はすぐ快諾しちゃうとそれこそホテルでバイバイされるかもしれない。

 

ーーそうですね。多分そこから始まると、大概付き合わないですよね。ところが女性向けのティーンズラブコミックはそこから愛が生まれてくるというパターンが多いんですよね。それもいけないなと思うんだけれど。

 

パックン:いろんなところで神話がまだ生きているんですよ。恋愛神話、結婚神話もあるし、男女の理想という神話もある。コミュニケーションを取らずに理想通りに動く以心伝心という神話も。夢を見続けると、口で交渉をしたくなくなるんですよ。でも、口頭で交渉をするのも素敵だと考えを変えることができたら嬉しい。そうすると、それこそ性的な付き合い方の幅も広がるかもしれない。女性だって一夜限りの付き合いをしたいときはあるでしょうし、男性だって初デートでSEXはしたくない男性もいっぱいいる。はっきりと交渉をし合えて、条件だけじゃなく希望を見せ合えるぐらいの付き合い方になってほしいな。

 

――それが理想ですね。

 

YesとNoをはっきり伝えられる関係作り

パックン:僕はもう結婚していて、妻との間では何でも話せる。何に対しても「したい」も「したくない」も話せる。「したいけれど、こういうのは嫌だよ」とか「もっとこうしてほしいよ」とかね。このステージにたどり着いて幸せだと感じます。

 

ーーどの関係においてもコミュニケーション不足だなって思いますね。日本だからなのか、世界的にそうなのかは知らないですけれど。

 

パックン:やっぱり日本語は主語を抜くし情報を抜くから、省くコミュニケーションスタイルが身に付いているんですよ。空気を読み合う前提で、日常生活上のコミュニケーションが成り立っている。それが男女だと、もちろん空気を読み合っていれば、はっきり伝えられるかもしれないけれど、空気を読めない相手とか波長が微妙に合わない人だと、伝えているつもりが伝わっていない。それが商談とか友達同士の話だと、ちょっとしたギクシャクが生まれる程度で済むかもしれないけれど、性的な同意においての勘違いだと、生涯引きずる嫌な思い出になり得る。リスクがより高い場面だからこそもう少し丁寧なコミュニケーション、もっとはっきり言い、はっきり聞くコミュニケーションを目指すべきではないかと思うんですよ。

 

ーーいくら空気を読み合うと言っても、「部屋飲み」は決して誘い文句ではないと思うのです……。

 

パックン:そう。レイプの口実としても「部屋飲みしよう」と言って快諾されたから「していい」と判断したという話は、よく聞きます。「二人で飲んだ」イコールセックスしていい、もしくは「男性がご飯を奢ったんだから、女性は身体で払え」は性的強要に近い。セクシーな洋服を着ているから「していい」とか、1回OKを言ったから、ずっと「ダメ」とは言えないのも。

 

ーーイギリスの警察が、性的同意を紅茶に例えて啓発した動画が話題になりました。日本では女性が女性を非難する傾向もあって悲しいです。

 

 

パックン:男の家に行ったとか、クルマに乗ったというのが同意だっていう神話。女性が「キャー!もうやめてー!」と叫び出し、殴り出さない限りはレイプじゃないとかね。「ダメ」って言ってるだけではダメ。自分の娘には「絶対に思っていることははっきり言いなさい」って5~6歳の時から言っているからね。少なくとも性的なことに関しては「誰かが触ってきたらその場で「止めろ」って言ってね。1回小さい声で言って聞かなかったら大声で叫んでいいよ」って。

 

ーーそういう教育はとても大事だと思います。

 

パックン:女性の社会的進出も、性の価値観を進展させるのに大事なファクターだと思うんですよ。例えば、組織のトップが女性というだけでも、部下の男性が同僚の女性に接する態度も変わるんじゃないかと思うんです。あとはAVも含めて、メディアでの伝え方です。常識はなんなのか。日本のドラマとかそれこそ漫画とかアニメの作家は凄く優秀な人がたくさんいて、今の台本の中では、差別的な発言はほとんどないと思うんですよ。

 

ーーいわゆる放送禁止用語になっているような類のことですね。

 

パックン:そういうのが昔はテレビや映画にもあったけど、それが消えたと同じように、性の伝え方も変えるべきだと思うんですよ。ドラマだと、だいたいセックスする前から「セックスをしたんだろう」と思わせるようなシーンに飛んでしまう。セックスシーン自体を流したくないなら、同意シーンでいいじゃん。「あなたとしたい」「私も」でいいと思う。セクシーだし、10秒で終わるよ。でも効果は大きい。「そっか、口に出すのが当然だ」って見ている人が思うようになったら数年で絶対に変わりますよ。

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