「からだ」と「こころ」を整える方法がまとめられている書籍『からだとこころを整える』。「これをしよう!」とか「こうすれば体にいい!」という類の健康本とは違い、料理家や整体師、セラピストなどさまざまな業界で活躍している女性が、普段どのような毎日を過ごしているかを、編集・ライターである田中のり子さんの視点から紹介しています。
毎日を健やかに過ごす女性たちが日常的に行う
「からだ」と「こころ」の整え方
著者の田中のり子さんは、暮らしに関する雑誌や書籍の編集に携わるフリーランスの編集・ライター。『からだとこころを整える』には、田中さんが仕事を通じて出会ったさまざまな業界で活躍する9人の女性と、田中さん自らが紹介する“心地いい”暮らしのコツが紹介されています。
同書では「健康のために〇〇をしましょう」というような提案は書かれていません。「私は〇〇をしている」「私には〇〇が心地よい」と、それぞれの整え方が紹介されているため、アロマを使う人がいればお香を使う人もいて、果物を食べる人がいれば野草酵素を飲む人もいて、これが正解という答えは書かれていないのです。
田中さんを含む10人の女性の整え方を読み進めていくうちに、「それなら自分には、これが合っているかも」と、自分なりの正解を導き出せるようになり、整え方にも多様性があることに気づかされます。
今では体の声に耳を傾け、自分らしく健やかな暮らしを送るようになった田中さんですが、若い頃は「からだ」も「こころ」も置いてきぼりにしたまま、がむしゃらに仕事に没頭していたのだとか。
そんな田中さんに、からだについてより深く考えるきっかけをくれたのが今回取材で訪ねた、下北沢の路地裏にある「マヒナファーマシー」の店主・中山晶子さん。中山さん自身も、20〜30代は音楽業界で働き、ハードな日々を過ごしていたそうです。体調を崩したことをきっかけに退社し、ハワイのロミロミと出逢ってセラピストとして活動を始め、2011年にウェブマガジンを、2015年に同店を立ち上げました。
田中さんもよく足を運んでいるという「マヒナファーマシー」。中山さんから“緑のお薬箱”という、植物由来のもの(ハーブサプリやアロマ、フラワーエッセンス等)だけで作るオリジナルの薬箱との考え方を教わり、お店の商品を中心にさまざまなアイテムを試しながら自分に合う・合わない、効く・効かないを繰り返し、作り上げていったそうです。
今回は、同書にあるような「自分のからだと向き合う大切さをもっと多くの人に知ってもらいたい!」と願う、“ブックセラピスト”の元木忍さんが、田中さんの「からだ」と「こころ」の整え方についてじっくりとお話を伺いました。
生きていればみんな辛い思いはする
元木 忍さん(以下、元木):現在はフリーで活躍されていらっしゃいますが、元々出版社で働かれていたんですよね。以前から『からだとこころを整える』に掲載されているような暮らしだったのでしょうか?
田中のり子さん(以下、田中):いえいえ、当時はボロボロでした(笑)。10時から23時まで働くのが当たり前の生活で、今考えると「どうしてあんなに会社にいたのだろう?」と不思議に思ってしまうくらいです。雑誌編集者時代はたまたま、20代の頃からデスクのような仕事も経験したので、ページを作成する仕事以外にも予算管理や、ギャランティ、経理まで担当していたこともあり、あと単純にお酒が好きで、ストレス発散もかねて、毎日のように飲んでいました。
元木:わかる気がします(笑)。「私がやらなきゃ!」っていう気持ちも強かったんでしょうね。
田中:31歳の時に会社を辞めて独立したのですが、辞める時に3つの誓いを立てたんです。会社員時代より健康になって、収入も上げて、幸せになろう、と。もちろん最初はうまくいかなかったこともあるし、今でも苦労の連続ですが、収入については1回しか下がることなく、好きな仕事ができているのは、ありがたいことだと日々感じています。
元木:“誓い”とはかっこいいですね。「健康になる」というのはすぐにできたのでしょうか?
田中:通勤時間がなくなった分、からだは楽になったのですが、元々が不健康だったし、低血糖症の気もあり落ち込みやすくなっていて。仕事で何か問題があると「なんで私はこんな人間なんだろう……」ってクヨクヨしたり、お酒に気分を振り回されていました。そんな時、雑誌の仕事で取材した自然療法家の方から「あなたは今まで、食べたいものを好き勝手に食べてきた、だらしない顔をしている。あなたは自分のからだに敬意を持っていない」と言われまして。そこから、自分のからだの声を聞かねばと真剣に向き合うようになったんです。
元木:すごく強い言葉ですね。
田中:本にも書きましたが、言われた時は衝撃で体が震えました。当時私は、子どもが欲しくて、いわゆる“妊活”をしていたんです。それから体質は少しずつ改善されてきましたが、なかなかうまくはいかなくて。40歳を過ぎてから体外受精などもチャレンジしましたが、残念ながら流れてしまって。その時に「死にたい」「消えてなくなりたい」……と、もう記憶喪失じゃないけど、その時期のことを思い出せないくらい、辛い思いをしました。でも時間をかけて徐々に、「今の私は不幸のどん底にいるの? 違うんじゃない?」と思えてきて。たまたま子どもはできなかったけど、ありがたいことに仕事もいただけているし、家族や友人もいる。今手元にあることを感謝して生きていかねばと、少しずつ気持ちを切り替えていきました。
元木:誰かから求められているっていうのを実感できたんでしょうね。
田中:周囲には恵まれていたと思います。あと、「辛いのは私だけじゃない」とも思ったんです。どんな人にだって、人生には必ず悲しい別れとか、喪失とか、挫折があるし、それからは逃げられないのだと。そうした時に、自分を癒してくれるもの、自分を大切にする手段があるかどうか、感謝の気持ちを持てるかどうか。どんな状況にいても、幸せと思えるかどうかは、自分自身なんだと思ったんですよね。
元木:たしかに、ギラギラの宝石を身につけて毛皮のコートを着ている人が向こうから歩いてきても、その人が「私は幸せじゃない」と思っていたら、他人がいくら「幸せですね」と言っても違う。幸せになるために、自分は何が必要かわかっていることが大事なんですね。
どうして今の女性は「頑張っちゃう」のか?
元木:そして、そんな思いをまとめた『からだとこころを整える』を出版されたわけですね。
田中:この本の編集者さんと、とにかく「女性を助けたり、楽にさせてあげたり、そういう知恵を集めた本を作りたい!」と盛り上がりました。女性って結婚したら家事もしなくちゃいけないし、子育てをしながら働いている人もいる。心身のバランスを崩してまで、頑張ってしまう人が多いと思うんです。
元木:どうして今の女性たちってそんなに頑張っちゃうのでしょうか?
田中:ね、なんででしょうね。結婚して、子どもも産んで、仕事もバリバリやって、お洒落で、センスも良くて、リア充なんて……冷静に考えれば「無理!!!」と思うんです(笑)。でも私たちが触れるメディアには、あたかも全部実現しているような方がいっぱい出てくるから、「私には足りていない」「まだまだだ」と、基本設定がかなり上になっている女性が多いのかも。この本の出版記念イベントをした時にも、子育て中のママさんから「どうしたらもっと田中さんみたいに、バリバリ仕事ができるようになりますか?」と質問がきて、驚いたんです。
元木:人間が平等に与えられているものって、24時間っていう時間なんですよね。仕事を頑張れば、家庭での時間は少なくなる、これって当然のことなんだけど、気がついていない人が多いのかもしれません。損得ではなくて、何を選ぶかだと思います。
田中:頑張るのが張り合いになるならいいと思います。人間、欲張りなことは生きる原動力になるし、物欲があることも元気な印ですから。でも、その欲望が本当に自分の内側から出てきたものなのか、単に周囲にあおられたり合わせたりしているだけなのか、その見極めを間違ってしまうと、こころとからだを損なうことになってしまうと思います。
次のページでは、具体的に田中さんが実践されている「からだ」と「こころ」の整え方と、取り入れているアイテムを紹介していただきます。