共に涙を流すことでチーム力が格段にアップ!?
ーー今、吉田さんが各地で行っている涙活セミナー、講演ですが、どんなところから呼ばれることが多いのですか?
吉田 これまでは全国の小・中・高の学生からPTA、教育委員会、看護師を多く抱える病院の方から呼ばれることが多かったのですが、最近は企業研修の一貫として涙活セミナーをやらせていただく機会も増えました。
吉田 企業の方に呼ばれるようになった理由の一つが、2015年に公布されたストレスチェック制度というものです。従業員50名以上を抱える事業所では、従業員のストレスチェックと、医師によるストレスチェックに基づいた面接指導が義務付けられたのですが、その一貫として涙活に白羽の矢が立ち、昨年は80社近くの社員研究に呼ばれました。
これまでにお話した、「泣くことで副交感神経が優位に切り替わり、ストレス解消になりますよ」といった解説から、「なみだ作文」という泣ける話を創作するワークショップもやっています。
吉田 例えば、「その企業に入るまでの苦難を、感動チックに書いてください」というお題を出して最後に発表してもらうんですけど、話を創作した方ご自身も、聞いている方々も皆すごく泣かれます。きっと皆さん同じような思いを持って、その企業に入社してきたのだと思いますが、ここで共感脳が震えるんですね。
また、「泣き言セラピー」というワークショップもあります。これは涙の形をした紙に、普段はなかなか言えないような「泣き言」を書いてもらい、涙腺箱に入れていただくというもの。
吉田 人のストレスは、文字化することによって整理されるメリットがあると言われています。さらに、ストレスを書き出し発表することで、その状況を客観的に見てもらえるメリットもあります。
要はネガティブな問題を、ポジティブに変えていこうという試みなので、特に企業ではウケが良いですね。例えば、普段は多くを語らない上司にも、その心の中では多くの悩みがあることを知ることができます。その結果、「チーム力が上がった」「職場環境が良くなった」という報告を多くいただくようになりましたよ。
ーーなるほどですね。「皆で泣く」ということも、チーム力が高まる気がします。
吉田 そうなんです。涙にはチームワークを高める力があります。20〜30年以上の前の話ですが、早稲田大学のラグビー部では試合直前に、監督が選手を集めて「熱い話で泣かす」ということをやっていたそうです。この監督が、「涙を流すことで、副交感神経が優位になる」ことを知っていたかどうかは分かりませんが、体感的に「皆で泣くと、良い結果を出せる」ことを分かっていたんだと思います。
また、涙活セミナーでたまたま隣になり、一緒に同じ時間に泣いたおばあちゃんと若いシングルマザーの方が、その後すごく仲良くなり、おばあちゃんが子育ての知恵を教えてあげるようになった……なんていうエピソードもあります。このように涙には関係性を近づける力もあるので、今は「涙活アプリ」というものを作ったり、涙活と旅行を組み合わせたツアーを考えたりしています。こういうサービスも今後行っていければ良いなと思っています。
リモートワークで辛い思いをしている方こそ「涙活」を!
ーーコロナ禍の今は、特にストレスを抱えている人が多いと思いますが、そういった方に涙活をどうおすすめされますか?
吉田 リモートワークなどで人同士の距離感がある分、ストレスを感じる人は多いと思いますが、そういう方にこそ日々泣いていただきたいです。「泣く」ということは、ありのままの自分が出すことができ、「自分が一番大切にしている価値観」を知ることもできますから。また、よく「歳を取れば取るほど涙もろくなる」という言葉を耳にしますよね。あれを解釈すると、人は歳を取ったり、様々な経験を重ねることで共感脳が震えやすくなるんだと思うんです。
涙活セミナーで小中高生に結婚式の動画を流しても、よほど想像力豊がかな人以外、泣く人は少ないですけど、それは自分が経験していないことだからです。しかし、年齢を重ねて様々な経験をしてきた人は、たいてい泣くんですね。これを転じて考えれば、今辛い生活を送っている人は、「それまでよりも共感脳が震えやすくなった」と考えて、どんどん泣いてほしいなと思います。ストレス解消にもなりますし、自分自身を見つめ直すこともできますので。
「泣く」「涙を流す」という人間なら誰しも経験がある行為が、脳と深く関係し、人間の体にとってここまで有意義だとは思いませんでした。「最近、泣いていないな」という方、意識的に涙を流してみてはいかがでしょうか。日頃感じているストレスがスッキリ解消できるかもしれませんよ。
撮影/我妻慶一
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