ヨシムラヒロムの一階通信 第十三階 エステー株式会社
連載「一階通信」ではエントランス部分から見える企業の顔を取り上げる。1階にエントランスがない企業も多々あるが、それはご愛嬌。受付や入口があるフロアを総じて「1階」と呼び、エントランスから企業を紐解く。今回は「消臭力」でおなじみのエステー株式会社を一階通信させてもらった。
■ヒヨコのキャラクターでお馴染みのエステー
生まれてこの方、筆者は西武新宿沿線の鷺ノ宮駅周辺に住んでいる。特に刺激もないが住みやすい住宅地だ。逆に歓楽はなく、何をするにも西武新宿線に乗り新宿方面へ行く必要がある。
車窓から外を見ていると、高田馬場駅手前である建物が目に止まる。いや、目が合うと言った方が正しいか。ビル壁に大きく描かれたエステーのヒヨコとアイコンタクトする。そのたびに「エステーって高田馬場にあるんだぁ」とボンヤリ考えていた。
車窓で見ていたのが本社だと勝手に勘違いしていたが、ここはR＆Dセンター。本社は高田馬場駅から徒歩5分ほど、細い路地を抜けた神田川沿いにある。目印は、ビルに併設された水場に鎮座するヒヨコのモニュメント。半分割れた地球の上にヒヨコが乗る独特の造形美だ。
■香りが異なる3種類の応接室を常備
玄関で広報の高橋さんが出迎えてくれた。「こちらへどうぞ」とエントランス横の応接室へ案内される。「ん、良い匂いだ」部屋全体から柑橘系の香りが満ちている。「ここはシトラスルームなんですよ」と高橋さん。
エステーは、空気を通してお客様の暮らしを明るく元気にすることを目指しているという。当然、本社の空気は澄んでいる。その空気へのこだわり極まっているのが、3つある応接室。「シトラス」「フローラル」「クリアフォレスト」とそれぞれの部屋の香りが異なる。香りに合わせてインテリアも一部屋ごとに違う。せっかくなので、全部屋の香りを覗き嗅がせてもらう。
続いては、エントランスへ。大きなガラス窓や吹き抜けから入る光で社内は明るい。竣工してから3年なので新築感も残っていた。草木も置かれ、全体的に爽やかな印象だ。そして、視線を奪われたのがミゲル君のサイン入りパネル。エステーと云ったら消臭力。消臭力と云ったらミゲル君のCM。エステー＝ミゲル君をイメージする方も多いはず。
「ラ〜ラ〜ララ〜 ララララララ～ラ ラ〜ラ〜ララ〜 ショウ、シュウ、リィキ〜♪」
と、CMソングを口ずさんだ人もいるだろう。僕もその1人だ。思い返してみれば、消臭力のCMは変わっている。消臭力の能力がいかに優れているかを語らず、外国人の少年が歌っているだけ。他のCMとは一線を画す。
■インパクトが強いあのCMの誕生秘話は……
「なぜ、外国人の少年が歌う独創的なCMを考えたんですか？」と聞いた。「うちのCMを作っている鹿毛が、眠りから覚めた時に浮かんだイメージがそれだったんですよ」という。ビートルズのポール・マッカートニーが「イエスタディ」を夢の中で作ったエピソードと似ている。
続けて「ミゲル君のCMは震災の翌月、2011年4月に放映開始なんです。震災に傷ついた心を少年の歌声で応援したい。そんな気持ちも込めています」と高橋さん。
ただの面白CMとして見ていたが、深い意味が込められたのだ。現在もミゲル君はエステーのCMに出演している。我々はポルトガル人の少年、ミゲル君の成長をCMを通して見ている。もはやCMの枠を飛び出し、一種のドキュメンタリー的になっている。
他にも、消臭力のCMに出演している西川貴教氏、ムシューダのCMキャラクタームッシュ熊雄のパネルが置かれていた。ミゲル君、西川貴教氏、ムッシュ熊雄を見て、本当にエステーって独自のセンスだなと。すべてのCMが、エステーらしさとしかいえない奇妙な世界観を共有している。大衆に向けて作りつつも、アヴァンギャルドな映像作品的な鋭さを持つ。1度見たら忘れない、心に引っかかりがあるんだよなぁ本当に。
最後に、歴史を重ねた企業だけが置ける特権である創業者の銅像を拝見。
エステーはセンスが良い。今の時代、ナンセンスも多いのでこのユーモアに満ちた空気も、もっと世の中に広めて欲しいと思った。
【エステー株式会社の一階通信見どころまとめ】
①ひよこのロゴマーク
②ミゲル君
③創業者鈴木誠一氏之像