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2022/5/12 19:30

絶やすな祭りの火! 太鼓・神輿を作り続けて161年!!「宮本卯之助商店」の奮闘を玉袋筋太郎が応援

〜玉袋筋太郎の万事往来
第17回宮本卯之助商店・田口なみ

 

全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。第17回目のゲストは、文久元年の創業以来、太鼓・神輿・祭礼具の製造と販売を行う「宮本卯之助商店」営業部の田口なみさん。コロナ禍で自粛に追い込まれた祭りの火を絶やさないように奮闘する同社の歴史を紐解く!

宮本卯之助商店 公式サイトはこちら

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

一通りの工程を把握して一人前と言われるのは十年ほど修業してから

玉袋 今日は宮本卯之助商店さんの西浅草店にお邪魔しましたが、お店に入るなり昂るというか、血が騒ぐというか、ここは浅草のランドマークだよ!

 

田口 そんなそんな……ありがとうございます!

 

玉袋 宮本卯之助商店さんは創業して何年になるんですか?

 

田口 今年で161年目になります。

 

玉袋 すげーな! ずっと、浅草の地で?

 

田口 もともとは茨城の土浦で太鼓屋を創業して、明治の終わりぐらいに浅草の地に移ってきたそうです。その後、太鼓だけではなく、神輿も手掛けるようになりました。

 

玉袋 いわばオールインワンだ。そもそも創始者が太鼓屋を始めた流れは?

 

田口 山城屋太鼓店という屋号で茨城県の土浦の地で創業しました。

 

玉袋 宮本卯之助商店という屋号もすごいけど、代々、宮本さんが経営しているんですか?

 

田口 そうです。今の社長が8代目になります。4代目の宮本卯之助から「宮本卯之助商店」と名乗り、代々襲名しています。現在、会長職に就いている7代目は、正式に名前も変えられました。

 

玉袋 名跡を継ぐってことか。

 

――太鼓も神輿も自社生産ですが、どこに工場があるんですか?

 

田口 同じ浅草にありまして、言問橋のほうなんですけど、西浅草店から歩いて20分くらいの場所です。

 

玉袋 どれぐらいの人数で太鼓を作っているんですか?

 

田口 職人さんは30人弱です。親方と言われる上の世代は60代で、下は20代ですね。

 

玉袋 人生が二度あれば、ここで勤めるよ!

 

田口 こういった業種は、なかなか若い人が入ってこないんですけど、ありがたいことにうちには来てくれますね。寡黙な職人のイメージが大きいですが、実際は見た目に反してお優しい方ばかりで(笑)。

 

玉袋 どういう流れで若い人は入ってくるんだろう?

 

田口 昔は親を継いでとか、親戚などの人伝で職人になるというケースが多かったんですけど、今は全国に募集をかけています。もともと神輿が好きで担いでいたという者もいれば、昔からお囃子が好きで太鼓をやっていた者、あとはものづくりが好きな者もいます。太鼓も神輿も、そう簡単にはなくならない、長く使われるものですからね。

 

玉袋 一人前の職人さんになるには、どれぐらいかかるんですか?

 

田口 一通りの工程を把握して、一人前と言われるのは、だいたい十年ほど修業してからですね。うちは太鼓とお神輿の制作部門がはっきりと分かれていなくて、たとえば太鼓が作りたくて入った者も、神輿製作につくこともあります。いろいろな経験を積んで適性を見ながら一通りのことを覚えていくんです。

 

玉袋 田口さんは、どうして宮本卯之助商店さんに入社したんですか?

 

田口 私は地方の出でして、進学で関東に出てきたんですけど、地元にいた頃からお祭りが好きだったんです。それで5、6年前に「こういう会社があるよ」と紹介を受けて、こんなお仕事があるとは知らなかったですし、なかなか出会える業界ではないなと思って、好奇心もあって入社しました。

 

神輿を1基作るのにかかる期間は約1年

玉袋 このコロナ禍で、祭囃子の音が聴こえなくなって久しいですよね。どうも、モヤモヤするんですけど、こういうお仕事は大変な時期じゃないですか?

 

田口 厳しいところではありますね……。お客様もお祭りができない、中止が続いて今年もダメ、来年も「うーん……」みたいな感じで。この状況が続くと、祭りを知らない世代の子どもが出てきちゃいますよね。

 

玉袋 当然、テキ屋も知らないだろうしね。なんか今の世の中に足りないなと思っていたら、ドンドコドンドコ太鼓が足りないんだよ。祭囃子が聴こえてこないことで、こんなにツマらない世の中になるとは思わなかったね。俺の中でも必ず何かあると、心の中で太鼓を鳴らして「よし行くぜ!」って自分を鼓舞させているからね。そもそも人間なんて、お祭りのために生きているんだからさ。

 

田口 本当そうなんです! 特に浅草が地元という方にとっては、三社祭は1年のメインイベントですから、それに合わせて動いているんです。なのでコロナ禍前なら、今頃は浮き足立っている時期のはずなんですけどね。

 

玉袋 お祭りで溜まっていたものを一気に出さないとね。それが、あんな汚い病原体にやられちゃってさ。そんなもんは太鼓を叩きゃあ、悪霊退散、病も退散するはずなのにな……。もう、こうやってお店に並んでいる太鼓を見ているだけでウキウキしてくるからさ。やっぱ俺もモヤモヤしてたんだよ。ドーン! と一発、太鼓の音を聴けば気持ちも晴れるよ。それに神輿も見るだけでグッと気分が上がるよね。

 

田口 玉袋さんは神輿を担がれるんですか?

 

玉袋 俺は担がない。ビールを飲みながら眺めている側だね。毎年、花園神社のお酉様で熊手を買っているんだけど、熊手の中には必ず神輿を入れてくれって職人さんに言ってんだ。神輿をアートトラック・デコトラと並べちゃいけないかもしれないけど、デコレーションっていうことで考えると通じるものがある。デコトラを見てテンションが上がるのは、おそらく神輿からきてるんだろうな。俺の知り合いで、個人で神輿を持ってるのは、LUNA SEAの真矢君ぐらいしかいないんだけどさ。

 

田口 え! 個人で持ってらっしゃるんですか?

 

玉袋 そうなのよ。あと鷺ノ宮に、店内にでっけえ神輿が置かれた居酒屋もあるんだ。俺もいつか欲しいね。男の最後の目標は神輿だよ。

 

田口 ぜひ当社の神輿を車と一緒に並べていただいて(笑)。

 

――個人で神輿を買う方はいるんですか?

 

田口 さすがに個人はなかなかないですね。神輿って昔は神社に1基だったんですけど、今は町神輿と言って、町会で神輿を持っているので、神輿の数は増えています。あと海外の方で、コレクション用に買われた方がいらっしゃいましたね。

 

玉袋 自分に財があったら、絶対にオリジナルの神輿を作るよ。神輿って1個1個の物を、工夫を凝らして飾り付けて、すべての縁起物が入っているんだもんね。贅沢過ぎるよな。見れば見るほどすごいよ。神々しい! 神輿の制作期間はどれぐらいなの?

 

田口 1基作るのに1年ぐらいかかります。たとえば漆を塗る作業にしても、何度も重ね塗りをするので、一つの工程だけでも時間がかかるんです。

 

玉袋 生臭い話しちゃうけどお幾らぐらいなの?

 

田口 物によって違いますが、おうちを買えるぐらいのお値段ですね。

 

玉袋 大金が手に入ったら、スーパーカーを買うよりも、お神輿を買ったほうがセンスいいよね。ずーっと見てられるから、これでお酒が飲めるよ。まあ神輿は実際に担がれて、ワッショイワッショイされるのが一番だけどさ。神輿はメンテナンスも必要でしょう?

 

田口 小さな修理を別にすると、総修理は25年~30年サイクルです。そうすると、もちろん世代が変わりますよね。職人は自分の作った物が100年後、200年後も残る。そこに携わることができるのは、もちろん責任感もありますけれど、やりがいを感じますよね。

 

――神輿の修理にはどれぐらいの時間がかかるんですか?

 

田口 総修理の場合は半年ぐらいお預かりすることが多いですね。基本的にお祭りの後引き取り、次年のお祭りに合わせて納品させていただきます。経年劣化で中の木が痩せちゃうんですよね。そうすると漆を剥がして、木を洗ってなど、たくさんの工程があるんですが、修理後は新品同様に生まれ変わります。

 

玉袋 今日は新しい自分の夢ができたよ。ウイスキー工場でバレルを買うとか、いろんな夢あったんだけど、それらを超えたね。

 

田口 紋などもオリジナルの物をつけていただいて、全部玉袋さん仕様にした神輿をお作りしますよ。

 

玉袋 神輿のためにも、もっと仕事しなきゃな。

 

和太鼓の海外需要は増えている

――太鼓を買うのはどんな人が多いんですか?

 

田口 郷土芸能や和太鼓演奏者を始め、(和洋音楽問わず)楽器の一つとして使われる方が増えていますね。あと、高校や大学の和太鼓部などで購入されています。

 

玉袋 太鼓をやってる奴にデブは少ないことから、和太鼓がダイエットに良いって話もあるから、そういう需要も今はありそうだね。太鼓のメンテナンスはどうなんですか?

 

田口 使う頻度にもよりますが、プロの方は毎日使いますし、皮は消耗品なので張替は多いですね。太鼓の販売もしていますけど、修理の方が断然多いんです。太鼓の中には職人の名前が墨書きされているんですが、張替えしたときに、「実は江戸時代の太鼓だった」と判明することもあります。そういう100年、200年の歴史がある太鼓をお預かりするので、緊張感や責任感も大きいですね。

 

玉袋 宮本卯之助商店さんで扱っている太鼓の種類はどれぐらいあるんですか?

 

田口 約30数種類ですけど、そこからサイズ展開があるので、小さいものは一尺、大きくて三尺四尺。たとえば同じ長胴太鼓でも、木の素材によって値段が変わります。一番太鼓にいいのは丈夫で木目も綺麗な欅の木が良いとされています。

 

――皮の種類は?

 

田口 大半が牛ですが、一部で馬もあります。

 

玉袋 命をいただいて、皮を使って、そりゃあ叩けば響くよね。「打てば響く」とよく言ったもんでさ。太鼓はドラムとかジャンベとか世界中にある訳じゃない。でも、やっぱり日本の太鼓がいいよな。一番俺にはドン! と来るね。

 

田口 海外の太鼓は、わりと木の部分を塗装するんですけど、和太鼓は木目を出して、木の素材を残すんです。あと、うちの皮を見てもらうと、茶色いと思いませんか?

 

玉袋 確かに茶色いね。

 

田口 太鼓のイメージは白という方が多いと思うんですけど、弊社では、基本的に米糠を使った加工をすることで、皮を痛めない昔ながらのやり方を行なっているのでより自然の色合いの仕上がりになります。手間はかかりますが、丈夫で余韻の深い音を目指しています。

 

玉袋 こっちの色のほうが、ぬくもりがあっていいよ。胴の部分は、木をくりぬいていくの?

 

田口 そうです。木に水分があるので、乾燥させる期間が必要だからです。ある程度くりぬいた木を自然乾燥で3~5年ぐらい乾燥させてから手鉋で表面を仕上げて、皮を張って完成です。

 

――工場には乾燥中の木がたくさんあるということですか?

 

田口 5年後、10年後と、次の世代が作るための太鼓の胴が何百個もあります。

 

――太鼓は海外輸出もしているんですか?

 

田口 はい。海外の太鼓チームが増えていますし、アメリカには日系人の方々のコミュニティーもたくさんあります。うちではアメリカに支社を置いていて、製作は浅草なんですが、そこ経由で注文が入ります。ヨーロッパも太鼓奏者の方が増えているので、そこからの注文も多いです。

 

玉袋 ジャパニーズカルチャーってことか。

 

田口 伝統というよりは、アクティビティなイメージですね。

 

玉袋 太鼓は年を取っても叩こうと思えば叩けるし、老人ホームなんかにあって叩いたら、お爺ちゃんお婆ちゃんもワクワクするだろうし。やっぱ太鼓は発明だな。

 

田口 他の楽器と違って叩けば音になりますからね。

 

玉袋 お祭りももちろんだけど、戦にも太鼓があって、人を鼓舞する訳だ。「鼓舞」ってまさに「鼓」が入っているもんな。そう考えると、なんか深く感じるね。

 

神輿を担がれるには風格が必要

玉袋 昔話になるけど、俺んちは新宿にあって、熊野神社から神輿が出るんだ。親は雀荘をやっていたんだけど、うちの前に神輿が来るの。もうその日は、母ちゃん、爺ちゃん、婆ちゃんまで出てきて、子どもにはカルピス、大人には瓶ビールを振る舞うんだ。とにかく家の前に神輿が来るのがうれしくてね、ああいう気持ちはDNAに入ってるんだな。だから俺も担ぎはしないけど、神輿が好きなんだろうね。

 

田口 皆さん子どものときに、そういう思い出があって、大人になってから子どもにお祭りの良さを伝えていくんでしょうね。

 

玉袋 お祭りは商売繁盛、五穀豊穣とか、人間の全てが入っているからね。神輿といえば、「神輿を担がれちゃった」って言うけどさ、いつ玉袋筋太郎に神輿を担いでくれるんだろうね(笑)。もうすぐ55歳になるけど、いつか担がれたいね。かと言って、頭をかきながら担がれるような人にはなりたくないんだ。風格っていうものがなきゃダメだろうね。

 

田口 神輿は一人じゃ担げないので、大勢の人から担がれないといけないですからね。

 

玉袋 こうしてお話を聞いて、忘れていた祭囃子がピーヒャラピーヒャラ聴こえてきたよ。あれが聴こえない世の中は嫌だね。

 

田口 神輿って3密の最たるもので、大勢が密着しますし、大声も出します。でも、くじけてはいけないんですよね。

 

玉袋 うん。お祭りがなかった時代に育っちゃった子たちにも、我々が伝えていかなきゃいけないよね。

 

田口 このまま衰退させる訳にはいかないですし、どういった形でも、少し変わりながらでもお祭りをやりたいという声は大きいですから。作り手も衰退させてはいけないので、宮本卯之助商店としても、もっともっとお祭りを盛り上げていきたいです。

 

玉袋筋太郎

生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中

一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階 )

<出演・連載>

TBSラジオ「たまむすび」
TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」