ライフスタイル
2022/6/19 20:00

誰よりもTDSではしゃぎ過ぎ、子どもたちに引かれる映画監督の日常

「足立 紳 後ろ向きで進む」第26回

 

結婚20年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

【過去の日記はコチラ

 

5月2日(月)

今朝はめちゃくちゃ緊張している。いよいよ編集部さんがつないでくれたラッシュを見るのだ。脚本の第一稿を読んでもらうときよりも百倍緊張する。脚本はこれから書き直しがきくがラッシュはもうほぼ撮り直しはきかない。私だけでなく編集部さんも緊張している(ように見受ける)。どんなふうにつなげたのかスタッフに見せるのだからそれは緊張するだろう。

 

第1回目のラッシュは2時間36分。台本が141ページあったから2時間をゆうに超えることは予想していたので、この尺(長さ)にはさほど驚きはない。問題は面白いかどうかだ。もちろん撮ってるときは面白いと思って撮っているのだが、ある種お祭り気分のようにハイテンションになっている現場から、数週間の時間を置くと冷静さを取り戻している。ラッシュを見て「あの時の俺はどうかしてた……」そんなふうにだけは思いたくない。

 

「……面白いのかどうか分からない」

 

2時間36分後、ラッシュを見終わった私はやっぱりそう思っていた。「やっぱり」というのはいつもそう思うからだ。監督したときも脚本だけのときも、最初のラッシュなどとても冷静に見られないから「……分からない」となる。

 

一緒に見ていたスタッフたちは私から逃げるようトイレに駆け込んでいく。いや別に逃げているわけではないだろうし、初老のスタッフには2時間半超えはおもらしの心配もあるだろうが、私には逃げてしまったように見える。こんなときくらい「最高でした!」と言ってほしいが、誰もそんなことは言わない。と言うか、この業界に入って1回目のラッシュを見て「最高でした!」という言葉は聞いたことがないからそれが普通なのだが、でもやっぱりウソでもいいから言ってほしい。とても不安なのだ。

 

トイレから戻ってきたスタッフたちはポツポツと感想を言い始める。彼らの話を聞きながら、これからひと月の編集でこの映画がどう生まれ変わるか。傑作に生まれ変わらせてほしいと切に思う。自分の力量は棚に上げて。

 

激烈に集中して2時間半超えの映画を見たからか、頭がものすごく痛くなり、夜はマッサージ120分コースに行く。だがものの10分で撃沈。自分の鼾で目が覚めた。せっかくマッサージを受けているのにものすごくもったいないことをした気分になる。

 

5月3日(火)

ウチの2階に編集室を作り、そこに編集部さんに来ていただいて朝から晩までずーっと編集作業。楽しみは飯のみ。近所のちょくちょく行く定食屋さんがお弁当も作ってくれるので、昼飯はそこのものを食べ、夜は中華系にした。ひと月後にどのくらい太ってしまっているだろうか……。

 

5月4日(水)

ジョビジョバの公演を見るために妻と新宿へ行く。

 

復活したシアタートップスに来るのは初めて。20代のころはカクスコをよく見に来ていた。カクスコを初めて見たのは多分20歳くらいだったと思うが衝撃的に面白かった。高校生のころからジョビジョバが好きだった妻も、芝居を見ながら大笑いしていた。私と年が変わらない6人のオッサンが、ワイワイと楽しそうに舞台をやっている姿は羨ましくて眩しかった。

 

舞台が終わると妻の携帯に息子から何度も着信があった(もちろん私の携帯には着信はない)。すぐに私が折り返す。息子は9時から友達と遊んでいたのだが、行きたい公園の食い違い(多分それは原因の一つに過ぎないが)で、友達とケンカしてしまったとのこと。家に帰ってもうまく遊べなかったことを私たちから説教されると思ったようで、図書館で漫画を読み、公園で一人お弁当を食べ、その後ケンカをしてしまった友達を探したが見つからないから、もう帰ってもいいか……? とのことだった。

 

もちろん帰ってきていいに決まっている。聞くまでもないことだ。だがしかし、いままでそういうつもりは全くなかったが、息子が友達とトラブルを起こして家に帰ってきてしまったときに、もしかしたら息子を責めたり怒ったするような口調になっていたのかもしれない。いやきっとなっていたのだろう。なんだか気分が凹み、反省して新宿駅で期間限定販売していた大阪の高級ロールケーキを買って帰った。が、甘味が苦手な息子は結局一切口を付けず、私と娘で貪り食った。

 

5月5日(木)

朝から晩まで編集作業。昼はタイ料理、夜はピザ。

 

5月6日(金)

下北沢で「ケダモノ」鑑賞。アメクミチコさんの独身熟女の熱を帯びたお芝居がとても良かった。

 

斜め前の席に、私が脚本を書いたドラマの原作者の方が座っていらした。ご挨拶し、終演後にその原作者の方と妻と町中華で軽く飲んだ。楽しい時間だった。こういうとき、この日記に原作者の方のお名前を出してしまっていいものかどうか私はよく分からない。もしかしたらその方は、その日その時間にそこにいてはいけないことになっているのかもしれないなどとも思う。私はウソつきだから、よくそういう状況がある。

 

帰宅後、編集ラッシュの確認。

 

5月7日(土)

娘、午前中部活。息子、朝から友達と公園。

 

明日はディズニーシーに行く。本当は今年の1月6日に行く予定だったが大雪でキャンセルしていたのだ。

最近あまりに疲れているし、撮影準備や撮影などで家族と過ごす時間も少なかったから、妻に懇願してディズニーシー近辺のホテルに前泊する許可を得た。子どもたちも大喜びであったが、妻のケチスイッチが入ってしまい(私や子どもがはしゃぎモードになると妻は途端にケチケチモードになる)ホテルは4人で2万円以内の制限が課せられた。だが、私は最近検索能力が爆上がりしているので、朝食ビュッフェ付き・温泉大浴場ありのホテル4人で2万5000円のホテルを難なく発見。なぜか舌打ちする妻の許諾を無事獲得。

 

※妻より

夫は私が舌打ちした理由が分からないようですが、まず、「2万円以内」と言っているのに「2万5000円」で交渉してくる姿勢に呆れます。そして、予算オーバーしているのに「検索能力爆上がり」とはどういうことでしょう? 本当にため息が出ます。

 

14時に我が家を出発し、ホテルへ向かう。途中のイオンで寿司やらピザやらスイカやらハーゲンダッツやらホテルで食べるものを買いあさる。ホテルに到着するなり娘はキレイな部屋にテンションが上がるも、息子は「なんだかゾンビが出そうな気がする。多分出る! 怖い、帰りたい!」と泣きながら連呼し始める。これはまずいパターンになるかも、と思ったが、偶然にも息子の好きな「スポンジボム」がテレビで放送したので、どうにか持ち直した。

 

娘は部屋の風呂をプリティウーマン張りの泡ぶろにしてご機嫌にはいっているので、私は妻を誘い大浴場へ。すると大浴場はまさかの別料金。「なんで大浴場に金払わなきゃならないんだ」と妻は一気に不機嫌になり、入らないと言う。そして私を一瞥し「あんた、どうせ入るんでしょ。お好きにどうぞ」と言い捨てて部屋に戻って行った。数百円なんだからいいじゃないかと思うのだが(※妻からの注:1800円です)、まあ今回は気持ちも分からなくはない。なので妻の分も2時間存分にサウナと温泉にゆっくりつかり、撮影と編集と疲れを癒す。

 

部屋に戻ると、妻は日本酒飲みちらかして爆睡。息子はテレビで「ミッションインポッシブル」を見ていて、娘はスマホ。いつもと変わらない我が家の光景だ。仕事熱心な私は持ってきた資料を読みつつ、5分で寝落ちした。

 

5月8日(日)

多分入場制限されていたはずだが、ディズニーシーは予想外に混んでいた。ファストパス的なものもなくなっていたので、人気アトラクションはどれも1時間は並ぶ。最初はたいして乗りたくない「海底200万マイル」という潜水艦に乗る。加齢で三半規管をすぐやられてしまう私は乗ったそばから気持ち悪くなるのだが、息子がいつも乗りたがるので仕方なく乗っている。次は娘が一番楽しみにしていた「インディ・ジョーンズ」に70分待ちで乗って、こちらも揺れに揺れ、ますます気持ち悪くなる。息子も酔って、船や列車とかで休憩したいと言い始めたが、私はたとえ酔っていても来たからにはどうしても絶叫系に乗りたい。

 

娘も息子も絶叫系が大の苦手なので、私が乗りたいものと意見が一致せず、「センター・オブ・ジ・アース」に乗るか乗らないかで大ゲンカに発展(妻はどちらでもよい)。こういうときに、私はついつい無理に乗せる方向に話を持って行くから、乗りたくない娘が不機嫌になり険悪になってしまうのだ。娘は乗らず嫌いだから、きっと一度乗れば絶対に好きになるはずなのだ。その第一歩を踏み出させるのが本当に難しい。「人生はチャレンジだ」とか「一歩を踏み出す勇気を持て」とかいい加減なことを言っていると、娘は父親のマイペースぶりにどんどん不機嫌になり、妻からも「あんたはなんでもかんでも自分の思いを押し付ける」などと腹の立つことを言われて、私まで不機嫌になり、せっかくの家族でディズニーも最悪の雰囲気になっていく。誰が悪いのかアンケートをとればきっと私がぶっちぎりの1位なのは分かっている。

 

結局息子と娘は妻のスマホを持たせてなんとかという海の中の子ども向けのような場所に行き、私は険悪な妻とともに「センター・オブ・ジ・アース」に80分並ぶ。その間、会話はない。その後、また子どもたちと合流するも私は直下型の「タワー・オブ・テラー」と360度回転型の「レイジングスピリッツ」に乗りたくて頭の中はそれでいっぱいで、「乗ろう乗ろう! 乗ったらお小遣い上げる! 好きなもの買ってあげる!」とあの手この手を使い、物で釣ろうとするが、子どもは断固拒否。子どもたちはやっぱりユルいものばかり乗ると言うから、私も意地になって子どもに説得を試みる。またも雰囲気が悪くなっていく。

 

「お前が我慢すればすべて解決なんだよ!」と、妻がとうとう他のお客の目を気にせずに私を怒鳴り始めたので慌てて私は折れて、「レイジングスピリッツ」のみで我慢した。あとはこんなダメな私も少しは大人になり、ひたすら子どもたちの乗りたいものに付き合った。結果、子どもたちが一番楽しみにしていた2時間並んで乗った「ソアリン・ファンタスティック・フライト」というやつが一番面白かった。

 

朝9時に入って、結局閉園の21時までいた。ものすごく疲れた。おかげで昨日の温泉&サウナ2時間で癒した心身が、元に戻ったどころか疲労3倍増くらいで帰宅。

 

娘が撮ってくれた写真

 

※妻より

「乗りたいものは意地でも乗りたい!でも一人じゃ乗りたくない、皆で乗りたい! 絶対乗ろう! 皆で乗ろう!」という夫の異常な押し付けハイテンションに振り回され、子どもも私も大変疲れました。「ちょっとのんびり系で休憩したい」などと言っても我々の意見には一切耳を傾けず、何が何でも己の欲望は貫き通すので本当に困ります。夫が誰よりもはしゃいで、最後まで帰りたがりませんでした。

 

5月9日(月)

7時20分に出発して児童養護施設のXちゃんの送迎ボランティア。なんと今日はXちゃんの誕生日だった。知っていればカードくらい書いたのに(物をあげるのは禁止だし、なんなら、引いた自転車の後ろに乗せるのもキシリトールガムをあげるのも禁止)。プレゼントは何をもらうの? と聞くとキティちゃんとマイメロちゃんのぬいぐるみとのこと。そのぬいぐるみたちと一緒に寝たいんだと言っていた。Xちゃんは幼いころからずっと一人で寝ているらしい。うちの小4の息子などいまだに妻にしがみついて寝ている。しかもフルチンで。

 

その後、夕方まで編集作業。

 

5月10日(火)

朝10時より編集プレビュー。皆さん、いろいろ意見を言ってくれる。人によって同じシーンをいいと思ったり、ダメだと思ったりするのはもちろんあることなのだが、私も「こっちのほうが絶対によい!」という確信がないから、いろんな人の意見に迷い悩む。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
全文表示