〜玉袋筋太郎の万事往来
第19回 米専門店「スズノブ」西島豊造
全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。第19回目のゲストは、五ツ星お米マイスターの資格を持ち、こだわり米専門店「スズノブ」を経営する傍ら、様々なメディアでお米の情報を発信、さらに地域ブランド米作りや商品開発などにも携わるなど多岐に渡って活躍する西島豊造さん。日本人にとっては生まれた時から身近な存在のお米だが、西島さんから飛び出すお米業界の話は一般的に知られていないことばかりで、玉ちゃんも目からうろこが落ちっぱなし!
スズノブ公式サイト:https://www.suzunobu.com/
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)
若い世代はお米に対する固定概念がない
玉袋 スズノブさんでは全国津々浦々のお米を扱っているそうですが、どのぐらいの種類を扱っているんですか?
西島 常時66種類で、期間限定なども含めると90種類ですね。
玉袋 すごい数だ!
――お店では、「柔らかい」「硬い」「あっさり(朝ごはん)」「もっちり(夜ごはん)」という4項目によるお米の「食味チャート」を配布していますが、これも西島さん自身が味見をしてチャート化しているんですか?
西島 そうです。実際の食べ比べ以外に、全て食味計で測って数値も出しています。同じ条件で炊かないと違いが出ないので、同じ炊飯器を4台持っているんです。特に新米が出る10月後半になりますと、毎日炊飯器4台がフル稼働しています。同じお米でも炊き方によって味が全く違うので、土鍋や普通の圧力釜など、一通りは揃えています。後ほど、とある食べ比べもしていただきますので楽しみにしていてください。
玉袋 そもそも稼業がお米屋さんだったんですか?
西島 そうです。私が3代目になります。でも学生時代は全く継ぐ気がなかったんです。ずっと環境保全の仕事に就きたかったんですよね。ダムや道路を山に作ったりすると環境を破壊しますよね。それを元に戻して、自然と同和させるという仕事をやりたかったので、北海道の北里大学獣医畜産学部畜産土木工学科を卒業して、1986年に「北海道農業近代化コンサルタント」(現・一般財団法人北海道農業近代化技術研究センター)という財団法人に就職しました。しかし母親がメニエール病という病気にかかりまして仕事ができなくなってしまい、しょうがなく1988年に家業を継いだんです。
玉袋 でも小さいころからお米屋さんのお手伝いもしていたんですよね?
西島 していましたけど、そんなに商売は好きじゃなかったですね。
玉袋 お米屋さんというと、お米の配達をイメージしますけど、スズノブさんも配達が多いんですか?
西島 配達は10分の1ぐらいです。うちは来店がほとんどで、主に一般家庭のお客さんが相談に来てお米を選ぶんです。
玉袋 そこまでお米にこだわっている人たちがいるってこと自体が驚きです。何も考えずに「ご飯だ!」って食べてた自分が恥ずかしいね。
西島 でもお仕事柄、玉袋さんは日本中を巡っているじゃないですか。そうやって全国に行く方は、いろいろな土地で美味しいものを食べているので、自然とお米の美味しさも分かっているんです。ただ頭の中で、お米はこういうものなんだって考えを止めちゃうんですよ。
玉袋 絶対に俺、止まってますもん。
西島 そうなんですよね。それを開放してあげると一気にお米が面白くなる。小さいお子さんは、その鍵がかかってない状態なので、品種・産地に関係なく「私の好きなお米」「自分はこの味が好き」って素直な言い方をするんです。むしろ親のほうが、「コシヒカリを買った」「あきたこまちを買った」と頭にロックをかけて話すので、固定概念が邪魔をしているんですよね。今の若い世代は固定概念がないですし、うちのお店にも若い男性アイドルの方が外車で来店して、お米を買っていきますよ。
玉袋 俺は飲んべえだからさ、キャラクターとして白いご飯を食べなくなっちゃってるところもあるんだけどね(笑)。
――炭水化物ダイエットが一般化して、「お米は太る」というイメージがありますけど、実際はどうなんですか?
西島 あれは海外からの発信で全くの間違いなんですよね。お米を食べて太るんでしたら、江戸時代や明治時代の写真には太っている人しか写ってないはずなんですよ。当時はおかずがないから、今の2倍はお米を食べていますから。でも、ほぼ太っている人って写ってないですよね? 日本人が太った原因は、戦争以降の油料理なんです。だから、その油を抑えてあげれば日本人は太らないし、ましてやお米6に対しておかず4だったら太る理由がないんです。脂っこいものを食べた後にスイーツも食べる。そりゃあ油と油だったら太りますよね。ましてや運動もしない。スイーツはやめられないので、代わりにご飯をやめる。でもご飯よりも、ケーキのほうが圧倒的に糖質は高いですからね。
玉袋 誰かが、その変なまじないをかけたんだろうね。
西島 どこから始まったのかは分からないんですけど、10年ぐらい前から言われている「お米は太る」という風説を、お米業界は「誤解だ」と止めなかったんですよね。
玉袋 俺もそう思ってたし、やっぱりロックがかかりまくってるんだな。謎のまじないにかかりすぎてる。
西島 たとえば「コシヒカリが絶対に美味しい」というのも、今は神話なんです。
玉袋 えー! そうなの?
西島 コシヒカリが美味しいというのは昭和の人たちの考え方なんですよ。なぜなら、それ以前は美味しくない米が多かったから。でも平成生まれの子たちは重湯がコシヒカリだから、初めて食べたお米がコシヒカリなんですよ。コシヒカリが彼らの基準米なので、もうブランド米とは言わないし、当たり前のことなんです。昭和の人たちは美味しくないお米を知っているから、コシヒカリという美味しいお米が生まれたんだという思いがまだ残ってるんです。
玉袋 なるほど。戦後の米がなかった時代に育ったらなおさらだよな。
西島 ただ今の子どもたちにとってお米は主食ではなくて嗜好品に移っているので、気分によって、料理によってお米を変える子が多いので、余計な概念がないんです。今は「東北六県米どころ」って言葉も教科書に載っていないですし、完全に死語なんです。
玉袋 昔は東北六県米どころって、よく使ってたよね。いやー、お米の鍵がどんどん開いていくな。
西島 お米って閉鎖的社会で、いまだに鎖国状態が続いているので、時代から完全に置いてかれているんですよね。情報が更新されないので、皆さんの頭も解除されてこないんです。
ネットに流通する激安米はニセモノが多い
玉袋 まだ序盤なのに、知らないことばかりで驚きの連続です。
西島 日本人にとってお米は当たり前すぎて見えないんですよ。海外の人はお米の文化がないので勉強しますけど、日本人がワインについて勉強するのと同じような発想でしょうね。それはお米業界の怠慢でもあるんです。お米に関する法律にしても、明治に作った食糧管理法が昭和まで適用されて、平成になって、やっとなくなったんです。
――どうして、そんな状況になってしまったんですか。
西島 全農さんや産地の力が強かったので、法律改正などは、産地の仕組みそのものを変えなければならないため、大変なことなんです。だから、田中角栄さんもそうですけど、権力を持っている方々が業界を守るということもあって、改正を先延ばししていたんです。旧食糧管理法は国の法律なので、民間は触れなかったんですよね。
玉袋 それが平成まで続いたわけか。今はどうなんですか?
西島 徐々に個人農家さんが自分たちで売るようになりましたし、ネット環境も充実しました。ただ全農さんなどを通さないため、等級検査を受けていなかったり怪しいお米が多く流通していますし、そういう商品は低品質のお米を混ぜるなどしている実例があったこともあり、どこまで信用できるか分かりません。ただ、それを取り締まる法律は今のところないんですよね。ネットで「お米」と検索すると何万件も商品が出てきますが、それを1個1個、農林水産省が検査することは無理ですからね。
――怪しいお米の判断基準はあるんですか?
西島 やはり激安米は、かなり危ないですね。
玉袋 だけど時代は激安を求めちゃうじゃないですか。
西島 そうなんですよね。特にコロナ禍で、育ち盛りのお子さんがずっと家にいると、ご飯の量が倍になってしまうんです。家計が苦しくて、ちょっとでも安いお米となります。それにコロナ禍で外に買いに行けないからネットで買う。そうすると、怪しいお米が多くなります。
玉袋 ニセモノで潤っちゃっている奴がいるってことだ。
西島 あくどいことで有名な人が有名な米どころにいるんですけど、その人は違反ばかりするので、何度も、農林水産省に見つかって捕まるんですよ。そのたびに社名を変えるので、ネット上だと正体が見えないんです。
――それだけ儲かるってことですね。どういうニセモノなんですか?
西島 ブレンドですね。コシヒカリ以外のお米を混ぜているのに、コシヒカリとして売っている表示違反。ちゃんと表示をすれば何の問題もないんですけど、そのまま書いてないんです。あとは新米と古米を混ぜて売ったり。消費者への裏切り行為ですよね。
玉袋 そんなニセモノをかみさんが買ってきて、普通に食べても分かんないだろうしな。そんな闇米があるんだね。
西島 ましてや今は、いろんな品種があるので、違う品種でも分からないんです。今は極端に美味しくないお米って日本には存在しないんです。日本の技術が高いから、平均点以上のお米しかないんですよ。なのでニセモノを食べているという感覚もない。たとえ違和感があったとしても、「県が違うから味が違うんだ」「今年は暑かったからお米の出来が悪いんだ」と勝手な解釈を皆さんしてくれるので、結果的にニセモノの排除が難しくなっているんです。
――お米のレベルが上がったのはいつ頃ですか?
西島 2000年代後半に山形の「つや姫」、北海道の「ゆめぴりか」が出たあたりから、地域ブランドが完全に確立されたんです。
――かつて北海道のお米はレベルが低かったですよね。
西島 仰る通り長い間、北海道は米どころができなくて、「厄介道米」と言われていた歴史があります。自分は北海道の深川にいたんですが、当時の深川のお米はまずかったです。
玉袋 北海道のお米がまずいって認識もないな。
西島 「ななつぼし」が出たあたりから時代が変わってきたんですが、北海道の歴史において改革の第一歩となったのが、「ななつぼし」より前に開発された「きらら397」です。私自身、「きらら397」が世に出る前に、自分の会社の横の田んぼで作って実験していました。その後、味の素さんが冷凍おにぎりに「きらら397」を使って、これがおにぎりブームの立役者になったんです。ちなみに今のおにぎりブームを作ったのはセブン-イレブンさんで、その時に使ったのが山形の「はえぬき」。当時、「はえぬき」は市場から消えて、セブンさんが100%使っていたんです。
玉袋 個人的にコンビニのおにぎりはセイコーマートが一番美味しいと思っているけどね(笑)。それにしても厄介道米って言葉も初めて聞いたよ。
西島 「猫またぎ米」「鳥またぎ米」なんて言われ方もされました。猫すら食べてくれない、鳥すら啄んでくれない(笑)。1回テレビで厄介道米と言ったら大変なことになったんですが、北海道では常識的な言葉でも、全国的に言うにはちょっと言葉が強すぎる。そんな状況を変えたくて、本州の人たちにも喜んでもらおうと作り上げたのが「ゆめぴりか」なんです。でも道内の人は「ゆめぴりか」が嫌いなんですよ。
玉袋 どうしてですか?
西島 北海道の文化的に合わないんですよ。道民はジンギスカンと相性の良いお米を好むんです。「ゆめぴりか」は香りがあるし、粘り、旨味もあるので、ジンギスカンの香り・味と喧嘩しちゃうんですよ。一方で「ななつぼし」は香りが控えめですし、ジンギスカン独特の臭いも吸収してくれるんです。脂もお米が吸収するので、ジンギスカンを食べた後も胃もたれしない。「ゆめぴりか」は胃もたれしやすいんです。だから、「ゆめぴりか」がデビューした直後は、「こんなに美味しいお米が北海道で生まれました!」ということで、みんなこぞって食べましたけど、3年ぐらいしたら飽きちゃって……。やっぱり「ななつぼし」がいいということで、今は「ななつぼし」が爆発しています。
温暖化の影響で九州からコシヒカリが消える?
玉袋 北のお米事情を聞いたし、せっかくだから南の沖縄はどうなんですか?
西島 かつてお米業界で沖縄は「ゴミ箱」と言われていました。なぜかというと観光地なので一見さんばかり。だから全国で売れないお米が、全部沖縄に行っちゃっていたんです。そうすれば大量に消費できますし、沖縄ではほんの少ししかお米を作れないので、安定供給できるだけでも沖縄にとっては大きなことだったんです。
――やはり沖縄でお米を育てるのは難しいんですか?
西島 沖縄は昼と夜の温度があまり変わりませんよね。お米は温度差で甘みが出るので、味が出ないんですよ。あと周りが海ですから、水質が悪いのも大きいです。ただ、最近は沖縄用にお米を作っているところも多いんです。北海道にも、沖縄用に田んぼを押さえて作っているところがあります。だから日本人はもちろん、海外の人が食べても美味しいって感じるレベルのお米を、ちゃんと出しています。沖縄は観光地として大きくなり過ぎていますし、海外の人が訪れて沖縄で日本食を食べることが多いですから、ゴミ箱じゃダメなんですよね。
――先ほどスズノブさんのお店に並んでいるお米を見たら、佐賀県産のお米を多く取り扱っていますよね。
西島 佐賀は九州一の米どころで、農業県なので技術も高いですし、どこの地域JAさんも最新の道具を取り揃えています。ただ日本全体から見れば2%しかお米の生産量がないので、やっぱり売り場が限られてしまう。でも福岡に行くと、ほとんどの人が佐賀米を食べていますね。あと熊本がこの数年間、災害などで全然お米を出せていないので、ヘルプとして佐賀が補ってあげている状況です。ちなみに、あと10年以内に九州は「コシヒカリ」が作れなくなってしまう可能性があるんです。
玉袋 温暖化の影響ですか?
西島 そうです。今の気候条件が「コシヒカリ」に合わないんです。田植えの時期がずれてしまい、お米を育てる大切な時期に台風が何回も来るような年が繰り返されていて、全滅なんですね。台風を通り過ぎた後では、気候的に「コシヒカリ」は作れないんです。だから違う品種になりますよね。しかも二毛作をやっているので、お米のために田植えを遅らせると麦が植えられない。九州ならではの問題がそこにはありまして、流通が安定しなくなるんです。でも、そういう事実も、お米業界では隠されているんですよ。
玉袋 お米の発展のためには、そのブラックボックスの鍵を開けないといけないんだな。お米農家の人口ってどうなんですか?
西島 減り続けています。自分がお付き合いしている新潟の北魚沼は毎年100人ぐらいのペースで農業から離れています。
玉袋 ヤバいじゃないですか。
西島 若い世代は育っていませんね。結局、お米は儲からないんですよ。果物などを作ったほうが何倍も収入がいい。なぜかというとお米は全農の管理下で、もやしや卵と同じ扱いなので、食品の中でも最低の金額での流通なんですね。
――確かにお米の値段って昔から変わらないですよね。
西島 変えさせてくれないんです。その結果、若者が冬の仕事がないので、農業を辞めて他に行くしかない。今は出稼ぎもないじゃないですか。仕事がないとその町にとどまっていられない。違う町に仕事を求めて移住しちゃうので、その土地は人口が減る。
玉袋 悪循環だね。それで外国人労働者を入れると。
西島 でもコロナがあって、それもできなくなっている。このごろはオールコンピューターで勝手に動く機械とか、アイガモロボットなんて草取りを自動でやるロボットもあります。畦の草刈りを自動で行なう機械や、夜中でも田植えができるようにGPS機能がついた機械もあって、無人で田植えをしているんです。
玉袋 無洗米ならぬ無人米だね。
西島 お米は太陽の光がないと美味しさが出ないのでハウスが使えないんですよね。だから若者の力が必要になる。いくら機械を導入しても、限界がすぐそこにあります。でもお米を育てるには場所ばかり取りますし、お米を作れば山から獣が降りてきちゃう。その戦いの連続です。特にイノシシなんて来たら最悪です。その田んぼのお米はもう使えないんですよ。
――稲を荒らされるだけの被害じゃないんですか?
西島 イノシシは体についた寄生虫を、稲に擦り付けて落としちゃうんです。そうするとイノシシの獣臭さが全部稲に移っちゃうんですよ。そのお米でご飯を炊くと、部屋全体がイノシシの香りになっちゃいますし、炊飯器も臭いが残ってダメになります。
玉袋 ジビエブームだけど、それはダメだね。
西島 肉は美味しいんですけど、皮はダメですね。そういった問題を解消して、業界の膿を出しきらないと、次の時代は来ないんですよね。
玉袋 闇が深いよ。
西島 見えない部分ですよね。年齢が上の人は、それを恥だと思って隠す人が多いんですよ。だけど若い世代には、ちゃんと改革をして、流通に載せれば商売になると分かっている人も多いんです。若者は旧来の農家とは発想が違うんですよ。
玉袋 これから、すごい人間が出てくるしかもしれないね。お米の革命児がさ。
同じお米でも圧力炊飯器と非圧力炊飯器で炊きあがりが全く違う
西島 先ほどお話しした2種類のご飯が炊けました。これがですね今日、新しい情報として発信するんですけど、まず一つが皆さんよく知っている圧力炊飯器です。もう一つが圧力をかけない非圧力炊飯器です。同じ種類のお米を3合、同じ研ぎ方で炊いたものです。まずは、しゃもじでお米を触ってみてください。圧力炊飯器で炊いたお米からどうぞ。
玉袋 うん、粘り気があるね。
西島 では非圧力炊飯器で炊いたお米をどうぞ。
玉袋 全然違うね! すっと入るよ。
西島 これが次世代型のお米の炊き上がりなんです。圧力炊飯器のほうは若者向けのお米が炊けるんですけど、年を取ると重たくて、胃もたれするんです。でも非圧力炊飯器で炊いたお米はお魚やお野菜、冷たいおかずなどとの相性が良くて、朝ご飯で食べてももたれないんです。胃もたれせずに眠くならないので、受験生の夜食にもぴったりです。これが炊飯器のマジック。こういう情報も、この業界では出されていないんですよ。では実際に食べ比べてみてください。甘さの感じも違うんです。
玉袋 では圧力炊飯器のほうから。これは粘りがあって食べ慣れた味だ。うん、美味しいね。では続いて非圧力炊飯器のほう……お、やっぱり箸の入り方も違うね。うん。うん。味も全然違うね。これを読んでいる人は嘘だと思うかもしれないけど別物だよ。すごく軽いね。圧力炊飯器に慣れちゃっているから、もっちりの方がご飯という先入観があるけど、確かに非圧力炊飯器のほうが朝からいける。卵かけご飯はどっちがいいんですか?
西島 黄身の味が濃ければ軽いご飯がいいでしょうね。でも安い卵なら、もっちりしたご飯のほうが濃厚さを感じます。
玉袋 同じお米とは信じられないな。もっちりしたご飯をおかずに、軽いご飯を食べられるよ。
西島 これは、「ゆめぴりか」なんですよ。砂川市のJA新すながわのお米です。「ゆめぴりか」は本来粘るお米なんですけど、非圧力炊飯器で炊くと粘らないんです。炊飯器に合わせて、さらにお料理によって、お米を選んでいいですよ、変えていいですよという時代が来ているんです。
玉袋 確かに食べ比べしてみて、お米の世界が広がったね。もっともっとお米ブームになっていただきたいな。
西島 炊飯器によって、食味チャートも全部変わってしまうんですよね。お米の味を表現する言葉は「香りがありますよ」「見た目がいいですよ」「柔らかいですよ」「甘いですよ」「粘りますよ」の5項目しかない。それで何百種類の品種を語るのは無理ですし、どれを評価するかも人それぞれ。最近は「好みでどうぞ」という言い方に変わってきています。
地産地消が反映された給食でお米好きの子どもが急増
――こんなにお米の品種が増えたのはいつぐらいからなんですか。
西島 昭和からずっと品種は増え続けているんですよ。毎年新しいものが出ています。でも今年の秋に出る「サキホコレ」という秋田県のお米が、ラスト品種になるはずです。というのも、この10年20年で全ての県から新品種が出尽くしてしまったんです。これからも小物はたくさん出てくるでしょうが、米どころから出る最後の大物です。
――品種開発にはどれぐらいかかるんですか?
西島 平均10年ぐらいかかるので、10年前に今のブームを予測しないと作れないんです。そのために何万種という種の中から最後の一つを選びます。大切なのは味だけではなく、害虫や病気に対する強さ、今は温暖化の強さも必要。それと安定収入と収量を見込めるもので、後継者を育てるためには県のオリジナルであることなどが重要なんです。なぜオリジナルにこだわるかというと、他の県が一緒のお米を作っていると競争で品質が下がっちゃうんですよ。さらに今の若者の味覚の変化に対応できるお米であることも求められます。それが、「サキホコレ」には備わっているんです。
玉袋 日本人全体の米食は今も減り続けているんですか?
西島 今は底です。ただ今の子どもたち、小学生から大学生ぐらいまでの世代は、お米好きが増えているんですよね。やっとこれから消費が戻ってくる時代になると思います。
――どうしてお米好きが増えたんですか?
西島 学校給食ですね。
玉袋 そうなのか。俺たちの世代なんて米食が出だしたころだからさ、あんな臭いメシは食えなかったよ。
西島 あのころは古米、古古米でしたから。お米が黄色い炊き上がりでしたもんね。
玉袋 親父に「給食のご飯は美味しくないから食えねえ」って文句言ったら、「ふりかけ持ってけ」って言われたからね。
西島 お米を消費すればいい、とにかく使えばいいんだという時代でしたからね。今は地産地消なので、新潟だったら新潟米、宮城なら宮城米、秋田なら秋田米と、ちゃんとしたお米を堂々と使ってくれているんですよ。だから美味しいんですね。正直、家で親が炊くご飯よりも学校のほうが美味しい。
玉袋 逆転現象が起きているんだね。
西島 学校は大型炊飯ロボットなどを使って炊くことが多いですから正確ですし、いつも同じ味なんです。
玉袋 味がブレないんだね。
西島 おかずもカロリー計算されているので無駄がないんですよね。なのでバランス面でも家庭より学校の方が全然取れています。残念なのが、今の子どもさんたちの親がご飯を食べない世代。糖質ダイエットをしている方が多いので、子どもが食べたいと言っても、ご飯を炊いてくれないんです。その子たちが自分でお米を買う時代まで、あと10年はかかります。ただ今回のコロナ禍でおうち需要が増えたので、炊飯器の選び方を教えてくれとか、炊き方を教えてくれという新社会人の声が多かったです。
玉袋 底を尽いたけど、これから回復するっていうのは心強いね。でも10年はかかってしまうと。
西島 今のお母さん・お父さん世代が引退してくれないことには先へ進めないですね(笑)。
玉袋筋太郎
生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中
一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階)
<出演・連載>
TBSラジオ「たまむすび」
TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
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KAMINOGE「プロレス変態座談会」