6月に入り、百貨店などではお中元の特設会場が賑わいを見せ始めています。若い世代の間では、この習慣が風化しつつあるとはいえ、コロナ禍でしばらく顔を合わせていなかった人とのコミュニケーションのきっかけがほしいなら、この「お中元」「お歳暮」という感謝の贈り物は、ぴったりかもしれません。
とはいえ、お中元やお歳暮を贈る際、品物選びや、マナーに不安を感じる方も多いのではないでしょうか? また、いただいたときの感謝の気持ちの伝え方も心得ておきたいもの。お中元・お歳暮の基礎知識について、ギフトコーディネーターの冨田いずみさんに教えていただきました。
「お中元」と「お歳暮」に込められた意味
お中元(ちゅうげん)、お歳暮(せいぼ)は、どのように始まったのでしょうか?
「お中元の起源は、今からおよそ1800年前、古代中国の三元という道教の風習にまでさかのぼります。三元とは、1月15日を上元、7月15日を中元、10月15日を下元の日と定めた総称です。この風習は、古墳時代、仏教伝来の際に日本に伝わりました。 もともと日本古来の御魂(霊)祭り(みたままつり)と、その伝来した仏教の盂蘭盆会(うらぼんえ−7月15日)とが重なり結びつき、「お中元」が生まれたとされています。 室町時代に公家の間で広まり、江戸時代以降、盆礼として先祖を供養する時期に合わせ、親族やお世話になった方へ贈り物をする習慣へと発展し、庶民の間に広まりました。
お歳暮も日本古来の行事である御魂(霊)祭りに由来し、一年を2回に分けて先祖の霊を迎えお供え物をして祀った習わしが発祥とされています。お正月に年神様にお供えする物を年末に家族や親類縁者が本家や実家に持ち寄り集まって、共に無事に年を越し、新しい年を迎えられるよう、やはり商いの栄えた江戸時代から庶民の慣習となりました。
明治時代になると、さらに現在のように仕事や取引先、日頃お世話になった方々にも一年の締めくくりとして感謝を込め贈り物をすることが常習化され、百貨店で歳末大売り出しが毎年恒例となる頃には、お中元・お歳暮もすっかり暮らしに定着しました」(ギフトコーディネーター・冨田いずみさん、以下同)
なぜお中元・お歳暮を習慣にすべき?
若い世代には馴染みがなくなりつつあると言われていますが、お中元・お歳暮はいずれ消えてしまう習慣なのでしょうか?
「若年層が贈り物をしなくなったかというと、そういうわけではなく、むしろプチギフトとして細やかに贈る機会は増えているようです。情報社会の中で暮らす若い人たちのほうが贈り物に対し、高い意識を持っているようにも感じます。たくさんの良い商品を知っている若い方にこそ、お中元・お歳暮と上手に付き合っていただければと思います」
お中元・お歳暮の習慣がない人も、始めるきっかけづくりとなることを聞きました。
1.細やかに贈るプチギフトを年2回にまとめられる
「会うたびに贈り物を考え、用意するのも楽しいですが、毎回はお互いの負担になるという場合も。年に2回のお中元・お歳暮にまとめれば、予算も確保できるので、相手に贈るアイテムの幅が広がります。年に2回ということで、特別感もアップしそうです。2度でも多いと思うのであれば、お歳暮1回に1年の感謝の気持ちを込めると良いでしょう」
2.疎遠になっていた方と連絡をとるきっかけに
「しばらく連絡を取っていないけれど、またお会いしたいと思う方はいませんか? 突然連絡するのも……と抵抗を感じる場合は、お中元・お歳暮を贈ることが、再び交流を始めるきっかけになります」
3.お中元・お歳暮を始めるおすすめのタイミング
「結婚して義理のご両親にご挨拶を考える時期は、お中元・お歳暮を取り入れるタイミングとしておすすめです。最近では仕事関係の方に贈るよりも、親族に贈ることが圧倒的に増えてきました。親しい方とのご挨拶として、もっと気軽に取り入れてみてはいかがでしょうか」
社会人として知っておきたいお中元・お歳暮のマナー
続いて、お中元・お歳暮の基本的な常識や、控えたほうが良いことなど、心に留めておきたいマナーについて伺いました。
1.贈る相手
「贈る相手に決まりはありませんが、一般的にはお世話になった方に贈ることが多いですね。習い事の先生や会社の上司など、近頃とくにお世話になっているなと感じる人に贈るのが良いでしょう。若い世代では、両親や親しい友人、親戚に贈ることが増えています。まずは身近な人から送るのもおすすめです」
2.贈り物の予算
「一般的に、お中元・お歳暮は3000円が下限とされています。お世話になっている程度や親密さの度合いにより3000円から1万円の間で選ぶのがポイントです。また、別途送料がかかってくるので賢い選び方をしましょう。ネットストアでは、早割やまとめ買いによる送料割引、送料無しのサービスなどお得な店舗もあります。実店舗では通常の送料になることもあるため、こちらも考慮に入れて予算の計画を立てることをおすすめします」
3.贈る時期
「東日本と西日本により贈り物をする時期に違いがあります。この時期の差は、旧暦と新暦の差です。例えば、新暦のお中元が7月15日に対し、それを旧暦に直すと約1ヶ月後にずれ、8月の中旬となります。よって、新暦を使った東日本では、お中元は7月上旬から15日まで、お歳暮は11月下旬から12月20日前後までとなり、旧暦を使った西日本では、お中元は7月中旬から8月15日まで、お歳暮は12月13日から20日前後までとなります。
コロナ禍以降は、ネットストアでの購入もより盛んになりました。早割など、特典を設けているネット販売店もあるため、お中元は全体として早まる傾向にあります。お中元の発送を考えるのであれば、6月頃から計画することをおすすめします。
昔はお年賀などの吉日の午前中に風呂敷に包んで送り先のご自宅まで持参することもありましたが、最近では滅多に見かけなくなりました。ご実家へお中元・お歳暮を贈る場合は、お盆休みや夏季休暇また年末年始休暇のタイミングに合わせて帰省土産として持っていく方も増えています。新型コロナが5類感染症となり、帰省する機会が今後ますます増える中、感謝を伝える良いタイミングになるのではないでしょうか」
4.配送を利用する場合の注意点
「配送で贈る場合には注意が必要です。とくに生鮮食品を送る際には、相手の受け取れる時間帯をあらかじめ確認しておくことをおすすめします。家を不在にすることが多い方には、日持ちする食べ物や、日用品にするほうが適切です」
5.熨斗(のし)紙の付け方
「お中元・お歳暮として送る場合には熨斗紙を付けるのがフォーマルです。熨斗紙を付けるときは、上中央に表書き『御中元(または御歳暮)』、下中央に名入れ『贈る側のフルネーム』を濃い黒で表記します。夫婦連名で出したい場合は、夫の名前をフルネームで書き、その左側に妻の名前のみを書きます。水引は5本ないし7本の蝶結びを選ぶようにしましょう」
6.熨斗(のし)を付けてはいけない場合
「魚介類や精肉を贈る際には熨斗は付けてはいけません。というのも、もともと熨斗の由来はアワビからきており、縁起の良い生モノの代用品であるからです。生モノを贈る場合には、熨斗のない水引のみの掛け紙をしましょう。鰹節や、ハムなどの加工肉にも熨斗は必要ありません。また、喪中の場合でもお中元・お歳暮を贈っても問題はないのですが、贈る側、受け取る側どちらかが喪中の場合は、水引や熨斗の印刷されていない白無地を使用します」
7.お中元を贈った場合はお歳暮も贈る必要があるのか
「基本的には、お中元を贈っている方にはその年のお歳暮も贈ることとなります。また、一度始めたお中元・お歳暮は少なくても3回、つまり3年は続けることが、しきたりとしてあります。今回だけの贈り物であれば、熨斗紙の上中央に『御礼』や『ほんの気持ち』『粗品』と表書を変更すると良いでしょう」
地域性など独自の習慣があったりするのでしょうか?
「贈り物の習慣は時代、地域性によって大きく左右されます。今は核家族が増えて、暮らしのなかで年配の方に地域の風習を聞く機会が少なくなりました。差し支えがないならば、義理のご両親に贈り物の習慣などを素直に聞いてみるのもコミュニケーションとしていいと思います。きっとその土地やご家族ならではの文化を知ることができますよ」
相手に喜ばれる贈り物選びのポイント
実際にどのようなものを贈ると喜ばれるのでしょうか?
・お中元・お歳暮のトレンド
「贈る品目は、半世紀以上前からほぼ変わっていません。代表的なのが石鹸・洗剤、タオル、調味料、食用オイル、飲料などです。ただ、近ごろは『量』よりも『質』を重要視するようになりました。核家族化した家庭や2人暮らし、一人暮らしも一般的となり高齢化も進み、消費できる少量でも質の良いものが重宝されるようになったためです。『自分では滅多に買わないけれど、いただいたらうれしい』、そんなギフトを選ぶといいですね」
・上質なもの
「例えば、食用オイルはエキストラバージンオリーブオイル、タオルであればオーガニックコットンなどを使った上質なものを選ぶと良いでしょう。雑貨や日用品を選びたい場合は、相手の好みを熟知している場合を除いて、どなたの生活にもなじむ白、黒、グレー、茶、ベージュなどのベーシックカラーを選びましょう」
・女性へ
「女性への贈り物であれば、原材料にこだわったコスメ(スキンケア)、ハンド&リップ、ボディをいたわるクリーム類や、美容液、シートマスク、入浴剤等のセットなども喜ばれます」
・昨今は防災グッズも人気
「最近では、災害時に備えるお水や非常食、防災セット、キャンプやアウトドアでも活用できるポータブルバッテリーなども贈り物として認識されるようになりました。コロナ禍から高機能でパッケージデザインも優れた除菌消臭スプレー類もギフトとして選ばれています」
・目上の人へ
「例えば勤務先の上司に贈ろうとする場合、社内で贈答が禁止されている会社もあります。あらかじめ社内規定を確認したり、先輩に先に確認をとってから贈るようにしましょう。お付き合いのある間柄であれば気軽に贈り合えるお中元・お歳暮ですが、学校の先生や政治家など公職についている方の場合は注意が必要です。立場によっては、ご辞退されるケースもあります。
ひと昔前は、目上の人に金品を贈るのは失礼とされていました。しかし、ものが豊富にある現在では、むしろ商品券や選べるカタログなどをもらったほうがうれしいという方もいらっしゃいます。また、スリッパや靴下、膝掛けなど、膝より下に扱うものを贈るのは失礼と言われていた時代もありますが、先方が古いしきたりなど気にしない方であれば、そのような贈り物も重宝がられる場合もあります。お互いの関係性や相手のライフスタイルにあった贈り物を検討しましょう」
また、ここ20年くらいで、贈り物の文化はカジュアルになってきているそうです。
「相手から欲しいものをSNSなどを介して伝えられることなども増えました。気心の知れている方でしたら、事前に聞いてみるのも一つの手ですね。普段あまりお会いしない目上の方でしたら、形の残るものよりも食したり使用してなくなる、いわゆる『消えもの』がいいですね。形のあるものは、贈られた後それを身につけたり使ったりとかえって相手に気を遣わせてしまうことがあるからです。
まずは、贈る相手のライフスタイルをよく知り、もらう側に立ったお品を考えてみましょう。贈った相手が喜んでくださる姿をイメージするだけでもギフト選びが楽しくなります」
お中元・お歳暮はどこで購入する?
1.ギフト専門のネットストアで買う
「ネットストアで購入するのは気軽ですが、実際に熨斗紙を付けてくれるのか、希望の時期に届くのかなど心配に思うこともありますので、お中元・お歳暮を贈る際には、ギフト専門のネットストアで買うのが安心です。まずは自分にサンプルとしてお試しサイズを購入し、使ってよければギフトとして注文できる便利なサービスなどもあります。また、オンラインでしか買えないスイーツや旬のフルーツなど、限定商品も充実展開しており、購入特典も多種多様、一見の価値があります。ネットストア注文の場合、購入履歴や送付先アドレスを一覧として確認できるのも便利なところです」
2.ソーシャルギフトを選ぶ
「最近は親しい友人であっても、住所を知らないことが多くなってきましたね。このような場合は、ソーシャルギフトが便利です。普段利用している会話アプリを通じてでも簡単にギフトを贈ることができます。近ごろ連絡をとっていなかった友人にぜひ『最近どうしていますか?』とメッセージを添えてギフトを贈ってみるのも素敵です。交流が再開するきっかけになりますよ」
【関連記事】住所不明でも贈れる「ソーシャルギフト」の活用法とおすすめギフトをギフトコーディネーターが解説
3.百貨店で買う
「お中元・お歳暮が初めてでどうしたら良いかわからない方は、百貨店に足を運んで購入するのが一番でしょう。対面であれば、心配なこともすぐに店員さんに聞けますし、専門知識も豊富でしっかりと対応していただけます。目利きのあるバイヤーさんが選んでいる、百貨店のネットストアも信頼できる品揃えなので、チェックしてみてはいかがでしょうか」
商品選びで注意すべきポイント
品選びの際に気をつけたいポイントを押さえておきましょう。
1.調理しないと食べられないものには注意
「簡単な調理なら良いのですが、魚をさばいたりなど手がかかるものは、相手の負担になることも。食べ物を贈る場合は、下処理をしてあり、加工済みですぐに食べられるものがいいですね」
2.会社に送る場合には切り分けが必要なものは選ばない
「メロンなど生モノの切り分けが必要になるものは避け、冷凍・冷蔵保存の設備有無の確認も大切です。賞味期限が長めの個別包装された焼き菓子などを選びましょう」
3.不特定の人が集まる場所に送る場合はアソートがおすすめ
「甘いものが苦手な方もいる場合を考え、甘いものとしょっぱいものが共に入ったアソートなど万人受けするものが喜ばれます」
4.贈る数は奇数にする
「日本人は昔から縁起をかつぎ、数にも吉凶を気にする習慣があります。奇数(苦となる九は例外)は吉数で、割り切れる偶数(末広がりの八は例外)は忌数となります。品数を決めるときに、配慮しましょう。2客の器なども1組1セットと捉え、12本も1ダースと表現されているのもこのような理由があるからです」
お中元とお歳暮をいただいたときには?
お中元・お歳暮を頂戴したときはどのようにお礼をしたら良いのでしょうか?
「お中元・お歳暮は基本的に返礼のいらない贈り物です。お中元・お歳暮は冠婚葬祭の “祭” に当たる年中行事のひとつなので、通過儀礼やお祝い事、例えば結婚や出産祝い、またお香典などをいただいたときのように贈られた金品の半返しなどのお返しは必要ありません。あくまでも、季節のご挨拶で、日頃お世話になっている感謝の気持ちを表す贈答習慣です。
返礼品は不要とはいえ、感謝の気持ちはしっかりと伝えたいもの。お礼の連絡は早めにしましょう。どうしても返礼の品物を贈りたければ、もちろん送っても構いません。その際、早すぎても、相手にかえって気を遣わせてしまったのではと思われかねないので、受け取ってから1〜3週間程度を目安に考えておきましょう。生モノを頂いた場合には、食べた後に感想を添えて感謝をお伝えすると良いですね。
今の時代にあえてお手紙を書くのも素敵ですが、電話やメール、会話アプリからでもいいと思います。相手が目上の方でしたら、1本電話をしたのちお礼状をお送りするととても丁寧です」
お中元・お歳暮というと、形式ばった印象から、敬遠する人も少なくないでしょう。しかし、返礼の必要のない季節のご挨拶であり、日頃の感謝の気持ちを伝えるものということを知れば、もっと気軽に行えそうです。この機会に、日ごろお世話になっている方や、ちょっと連絡してみたい友人へ思いを届けてみてはいかがでしょうか。
プロフィール
ギフトコーディネーター / 冨田いずみ
長年、広告、映像および音楽制作プロダクション業界に従事したのち、コピーライター、作詞、構成、プランナー、プロデューサー業を経験しフリーへ転身。ライターという仕事の枠を越え、企画宣伝からスタイリングまで携わる。取り扱っていきた商材は、食品、ファッション、インテリアなど、多岐に渡る。それら商品をより魅力的に見せ、お伝えしていく中で、自分の目で見て、手に取って確かめ、本当に良いと思ったものだけのご紹介を信条とした姿勢で、メディアや企業・メーカーからのギフト需要に応える機会が増え、年間を通して季節のご挨拶や行事イベントまたプライベートな記念日や各種お祝い、手土産などまで、様々な場面・人にふさわしいギフトを選び提案するというギフトコーディネーターとしての仕事が定着する。
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