スポーツ
2017/4/8 22:00

ラグビー日本代表とサントリーでの仕事、どうやって両立できたのか? 日本代表・真壁伸弥選手インタビュー【前編】

野球、サッカーなどの人気球技は海外でも通用する日本人選手が年々増えている。そんな純然たるプロフェッショナルの世界とは一線を画しながら独自の進化を遂げ、選手やチームの実力が確実にインターナショナルレベルへと近づいている、上げ潮のスポーツがある。それはラグビーだ。

 

2015年に行われたラグビーワールドカップで日本代表は4試合で3勝を挙げる快挙を成し遂げ、国内のみならず全世界を驚かせた。2019年には日本でラグビーワールドカップが開催されることもあり、ジャパンラグビー トップリーグ(※1)(以下:トップリーグ)、スーパーラグビー(※2)の日本チームであるヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ(以下:サンウルブズ)、そしてラグビー日本代表、これら各チームの強化が待ったなしで進められている最中だ。その全カテゴリーに身を置きながら、会社員としてもタフな働きを見せている選手がいる。

※1)国内16の企業チームが優勝を争う社会人リーグ
※2)ニュージーランドとオーストラリア各5チーム、南アフリカ6チーム、アルゼンチンと日本各1チームの計18チームによるリーグ戦
↑2015年9月20日、ラグビーワールドカップで日本代表は優勝候補の南アフリカ代表を34-32で撃破した
↑2015年9月20日、ラグビーワールドカップで日本代表は優勝候補の南アフリカ代表を34-32で撃破した

 

真壁伸弥。今年1月にシーズン2冠、つまりトップリーグと日本選手権(※3)の両方で優勝したサントリーサンゴリアスに所属し、ロック(※4)と営業マンの二足のわらじを履く生活を約8年続けている。しかもわらじは二足にとどまらず、前述のサンウルブズと日本代表(現時点では代表候補)にも選出されており、もはや活躍の場は世界。一昨年のワールドカップにも3試合出場し、強豪・南アフリカ代表との試合では歴史的勝利につながった最後のスクラムを組んだ一人でもある。いわば伝説を作った男だ。

※3)大学王者とトップリーグ上位チームによるトーナメント
※4)フォワード第2列のポジション

 

「ラ業両立」が生んだ2冠と佐治会長の胴上げに見た一体感

押しも押されもせぬ日本のトップ選手でありながら、サントリーの営業マンの顔も持つ真壁。サンゴリアスに限らず社員からプロ契約に切り替える選手も増えている中、真壁はサントリーの社員として、主にスーパーや量販店への営業を担当する部署に身を置きながらラグビーを続けている。ウイスキー文化研究所認定の資格「ウイスキーエキスパート」も取得するなど酒への愛は人一倍だが、そんな真壁のラグビーも含めた働きぶりはどのようなものなのだろうか。まずは1日のタイムテーブルを聞いてみた。

↑真壁の歯に衣着せぬ軽妙な語り口は営業にも活きているはず。ちなみにラグビー界屈指の人気ブロガーだ
↑真壁の歯に衣着せぬ軽妙な語り口は営業にも活きているはず。ちなみに、真壁はラグビー界屈指の人気ブロガーだ

 

「トップリーグのシーズン中で一番ハードなパターンは、まず朝4時半に起床して、府中のグラウンド(東京都府中市)で6時から始まる朝練の準備を5時半から行います。6時から1時間ほどの朝練が終わると赤坂のオフィス(東京都港区)に移動し、8時か8時半には着いて9時から業務。基本的に13時に退勤して、再び府中に移動します。試合がある週は練習が14時に始まり、18時に終わったら再び営業の外回りなどの仕事に向かう社員が多いですね。ただ、私の場合は日本代表やサンウルブズの活動で仕事を離れることが多いので、いまは短期または単発の仕事に特化しています」(真壁選手)

 

多忙を極める中でも真壁が行っている「単発の仕事」のひとつが、自身が講師となって開くウイスキーセミナーだ。同部署の営業マンがスーパーなどの得意先に「ラグビー選手によるセミナーをやりませんか?」と働きかけ、決まれば真壁が自身のブログやSNSで告知して集客に勤しむ。そして集まった一般客や得意先に向けて、ウイスキーエキスパートとしてその魅力や雑学を直に熱く伝えるというイベントだ。

 

↑昨年10月9日、オリンピック川崎鹿島田店の酒専門店で開催したウイスキーセミナー。洋酒の魅力を存分に語った
↑2016年10月9日、オリンピック川崎鹿島田店の酒専門店で開催したウイスキーセミナー。洋酒の魅力を存分に語った

 

「昨年10月に川崎でやらせていただいたウイスキーセミナーは、スーパーの店内で一般のお客様に向けてやらせていただきました。Facebookなどでどんどん拡散してもらった結果、思っていた以上に集客につながりました」(真壁選手)

 

こうした対外的なイベントだけでなく社内向けにもセミナーを開催するなど、真壁はシーズンのオン/オフを問わず精力的に社業に取り組む。所属する首都圏支社広域営業3部にはサンゴリアスのメンバーが数多く在籍しており、彼らとともに社業とラグビーの両立のためのスローガンを作成した。

 

「ラグビーもしっかりやりつつ業務でも日本一を目指す。そんな狙いで、ラグビーの『ラ』と業務の『業』を取って『ラ業両立』という言葉を掲げました。それを遂行することで他の社員の方々にもインスパイアできるよう活動しています。その社員たちが我々をサポートしてくれ、そのサポートがあるから仕事もラグビーも頑張れる。それがなければ2冠どころか、ラグビー自体できていなかったでしょう」(真壁選手)

 

サントリーが社を挙げてサンゴリアスをサポートしていることが如実に表れていた瞬間があった。サンゴリアスがトップリーグ優勝を決めた今年1月14日(神戸製鋼戦)と日本選手権優勝を飾った1月29日(パナソニック戦)の試合後のこと。サントリーホールディングスの佐治信忠会長が屈強なフィフティーンによって高々と胴上げされたのだ。それは儀礼的なものではなく、熱烈なラグビーファンである佐治会長にチーム全員が感謝を捧げるかのような美しく誇り高い胴上げだった。

↑1月14日、神戸製鋼に勝ちトップリーグ優勝を決めたサンゴリアスは、サントリー佐治会長を胴上げした
↑1月14日、神戸製鋼に勝ちトップリーグ優勝を決めたサンゴリアスは、サントリー佐治会長を胴上げした

 

「サンゴリアスの一番のサポーターは佐治会長なんです。奥様ともどもラグビーが大好きで、非常に熱く応援してくださいます。会長の生き方をリスペクトしている社員は多いですし、私もそれに感銘を受けてサントリーに入社した一人。特に私のような中堅やベテランは『会長のために』という思いが強かったので、みんな自然と会長を胴上げしていました」(真壁選手)

 

サントリーを象徴する存在である佐治会長の胴上げの瞬間、現場には会社としての“一体感”が部外者でもはっきりわかるほど充満していた。それこそがサンゴリアスの強さの基盤なのだろう。

 

<後編につづく>

 

写真撮影/齋藤龍太郎(楕円銀河)

ウイスキーセミナー写真提供/真壁伸弥選手