数あるeスポーツの中でも、カーレース(ドライビングシュミレータ)は、リアルスポーツとeスポーツとのコラボレーションが盛んに行われている種目の1つだ。
動画はリアルレースの世界統括団体、FIA公認のeスポーツレース、「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」のトップランカーたちが集って行われたライブイベント「グランツーリスモワールドツアー 2019 パリ」での1シーンだ。東京の首都高を舞台にしたレースの展開は、見ているだけでもエキサイティングだ。
実際のカーレースはやりたくてもなかなか手を出しにくいスポーツだろう。しかしeスポーツであれば、リアルとは比べ物にならないほどの安いコストで、気軽にレース体験をすることができる。さらに他種目のeスポーツと違い、カーレースは競技としてわかりやすく、誰もが参加しやすいので、ユーザーを広げやすいという利点もある。
今年開催される茨城国体では、文化プログラムの一環として全国都道府県対抗eスポーツ選手権が開催されることで大きな話題を集めているが、その競技の1つに、このグランツーリスモも含まれる。こうした大規模な大会が国内外で開かれることで、eスポーツとしてのカーレースが、今後さらに盛り上がっていきそうだ。
そうした機運があるなかで、この日本で、また新しいコンセプトによるモーターeスポーツのイベントが発表された。
インタープロトeシリーズ(IPeS)がそれだ。
その具体的な説明に入る前に、日本のレジェンドカーレーサーの1人、関谷正徳氏がプロデュースする、「インタープロトシリーズ(IPS)」について説明しなければなるまい。同シリーズは、「同じマシンで同じ条件下で勝負したら誰が一番速いのか」を決めるレース。参戦するドライバーは、スーパーGTやスーパーフォーミュラの現役トッププロドライバーであり、ドライビングアスリートとして賞金をかけて闘う。
使用するマシンは、IPSのために専用開発された、国産のレーシングマシン「kuruma」。今年で7シーズン目を迎え、年間4大会開催されるシリーズは、5月11日に富士スピードウェイで開幕する。
IPeSは、このリアルレーシングマシン「kuruma」の設計データを基に、リアルさに定評のあるPC用のドライビングシュミレータ『アセットコルサ』上で走らせるためのマシンMODを開発した。このMODは、実走行データの解析からプログラミングしたうえに、本物のレーサーが『アセットコルサ』上でセットアップを繰り返し、リアルマシンの挙動と操作性を忠実に再現したという。
これにより「kuruma」を走らせるSIMレーサー(ゲーマー)には、プロレーサーと同様のリアルな操縦テクニックが要求される。ただし、リアルレースで生じる通常の3倍近いGや過酷な暑さ等の環境は免除される。一方プロレーサーがシミュレーター上で「kuruma」を走らせる際も、ゲーム特有のテクニックは必要なく、いつも通りの操縦テクニックを画面上に反映できる。つまり、プロレーサーとSIMレーサー(ゲーマー)が、対等に戦うことのできる環境が、コンピュータ上に出現したことになる。
マシンはバーチャル上にあるから整備やコンディションの差はなく、条件はまったく同一。試されるのは、まさにドライビングテクニックと状況に応じたレース運びということになる。こうなると、やはりリアルレーサーのほうが有利な気もするが、集中力やレースの判断力はリアルレーサーのほうが必ずしも高いとは限らない。バーチャルの世界がよりリアルの世界に近づいたこの環境は、ゲームというより、まさに“eスポーツ”と呼ぶに相応しい状況ではないだろうか。
IPeSは、マシンMODをなんと無料配布! SIMレーサーNo.1を決める大会を開催する。それが、ここで紹介する「インタープロトeシリーズ」というわけだ。6月18日を皮切りに年間5戦が行われる予定で、リアルレースと同様、順位ポイントの合計でチャンピオンを決定。そしてチャンピオンには、IPSのリアルレーサーと『アセットコルサ』上で対決できる権利が与えられる。この真のチャンピオンシップともいうべき闘いに、もしSIMレーサーが勝利した場合、リアルレーシングマシンで体験走行できる権利が授与されるという。
レースの参加方法などの詳細は、5月1日からオープンとなるIPeSの公式サイト(http://ipes.xyz-one.jp/)で確認願いたい。おそらくマシンMODは無料配布だとしても、プレイするためのソフトやPC環境、ドライブ環境は用意する必要があるだろう。とはいえ、限りなくリアルに近いバーチャルレースという新たな試みが、どんなモーターeスポーツの未来を見せてくれるのか、非常に興味深い。