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2020/5/27 21:30

異色の経営スタイルで苦境に立ち向かうサッカークラブ「鈴鹿ポイントゲッターズ」を追う

コロナ禍のなか、再開の糸口さえつかめず暗中模索の状態が続く2020シーズンのJリーグとサッカー界。選手たちの活動の礎となる日本各地のサッカークラブは、チーム存続のために、まさに必死の闘いを続けている。

 

その中で、本来なら2020シーズンのスタートに当たって、その異色の経営スタイルで多くの注目を集めていたと思われるクラブチームがある。それが、三重県鈴鹿市に本拠を置く、「鈴鹿ポイントゲッターズ」だ。少々冗談めかしたネーミングだが、このチーム名には大きな意図が込められている。

↑鈴鹿ポイントゲッターズのチームエンブレム

 

チームは2009年、2つのクラブが合併して発足。Jリーグ入りを目標に地域リーグを勝ち抜き、2019シーズンにアマチュアの最高峰、JFLに初参戦している。同シーズンの順位は12位(9勝12敗9引分)。初の全国リーグで再転落を免れたのは、決して悲観すべき成績ではない。

 

ただし、2019シーズンまでは「鈴鹿アンリミテッド」というチーム名で活動していた。このチーム名で、ピンときた方もいるかもしれない。今シーズンもチームを率いるミラグロス・マルティネス・ドミンゲス監督は、日本の男子の全国リーグ初の女性監督として知られる。

 

↑鈴鹿ポイントゲッターズの集合写真。中央がミラグロス監督 ©鈴鹿ポイントゲッターズ

 

そして2020年2月1日、チームはネーミングスポンサーと契約する形でチーム名の変更を発表。新生「鈴鹿ポイントゲッターズ」の誕生とあいなった。チーム名の由来は、クラブ運営サイドが、事業の安定化のためにクラブの公式ホームページをポイントサイト化したことによる。この一見冗談のようなチーム名も、「ポイントゲットして稼ぐ」というチームのビジネススタイルそのものを意味している。その意図を、クラブの運営会社「株式会社アンリミテッド」の吉田雅一社長に、電話によるインタビューで答えていただいた。

 

「サッカークラブを運営していくに当たって、やはりサッカー1本でやっていくのはなかなか難しい。何か別の柱を持ちたいというところで、HPのポイントサイト化に至りました。

 

↑鈴鹿PGのHPの一部。ポイントが獲得できる“案件”が掲載されている

 

要は、クラブのHPをたくさん使って楽しんでいただきたいということです。たとえば、クラブのHPでは毎日選手にまつわるクイズが出題されていて、当たっていれば1ポイント、さらに抽選で100ポイントもらえたりします。そうやって貯めたポイントを、自分で使うのはもちろん、好きな選手に寄付することができます。

 

また、ゲームのチケットやオフィシャルグッズをHPから購入すると、その数%を選手に還元できたり、HPにはいろんな“案件”が掲載されていて、アンケートに回答したり、ポイントカードを発行したりすることでもポイントを獲得できます。

 

↑HPには選手や登録したサポーターのポイント獲得ランキングも掲載

 

ポイントサイトならお金に余裕がない方でも、たとえば年会費無料のクレジットカードを1枚発行していただければ、実質無料でカードが手に入って、さらにはチームにも選手にもメリットがもたらされる。身銭を切らずにチームに貢献できるというわかりやすさがあります」

 

気軽にお小遣いが稼げることで人気の「ポイントサイト」。利用者が何らかのアクション――サイトを通じて何かを購入する、アンケートに答える、アプリをダウンロードする、知り合いを紹介するなど――を起こすことによって、ポイントを受け取れるというウェブサイトだ。ポイントは各種ショッピングカードのポイントと統合したり換金も可能だから、最近では「ポイ活」と称して、多くの人が気軽に利用するようになっていて、その数も増えてきている。

 

ご存じのように、こうしたポイントサイトの「案件」は企業の成果報酬型の広告だ。鈴鹿ポイントゲッターズの運営側は、自社HPをポイントサイト化することでこうした広告を集め、収入の足しにしている。一方ファンやサポーターは、獲得したポイントをお気に入りの選手に寄付したりすることで、選手やチームとのコミュニケーションを深めることができ、さらに帰属意識を高められる。

 

↑ポイントサイトの仕組みを利用すれば、試合ごとのサポーターの感じた選手の評価をポイントで投票するなど、双方向性のある多様なイベントが考えられる ©鈴鹿ポイントゲッターズ

 

「もっと広い考え方をすると、たとえばサッカーに興味のない他のポイントサイトのユーザーが、クラブのHPでも「ポイ活」してくれれば、その報酬は当然チームに還元されます。また、スタジアムに来てくれたらポイントが稼げるといったようなイベントを設定することで、サポーター以外の層へのマーケティング活動もしやすい環境が整うわけです」

 

↑社長総選挙に立候補した際の、吉田社長の「選挙ポスター」©鈴鹿ポイントゲッターズ

 

総合商社出身という異色の経歴を持つ吉田社長は、2020年1月、公募によって集まった次期社長候補18人の中から、“総選挙”によって選ばれた。HPのポイントサイト化によって安定した収入を得るという自身のアイデアを掲げて、見事に“当選”した。スポーツチームを運営していくうえで、安定した収入があることは不可欠な要素。その点、HPのポイントサイト化は大胆かつユニークなアイデアだ。ちなみに、選手たちや地元のサポーターたちの反応はどうだったのか。

 

「今年チームに入団した選手は多少の戸惑いはあるかもしれませんが、数年いる選手はある程度理解して前向きに取り組んでもらえると思っております。地元のファンへの浸透もこれからなので、しっかりアピールしていきたいですね」

 

非常に残念なことに、HPのポイントサイト化の試みはまだスタートしたばかりで、チーム名も変わってモチベーションも新たに、まさにこれからというタイミングでのこのコロナ騒動は、不運としか言いようがない。普通にJFLが始まっていれば、三重県初のJリーグ入りを目指すなかで、ポイントサイトを使った施策をさらに推し進め、ファンを増やし、さらには収入を増やしていく試みも始まっていたことだろう。

 

しかし、チームの活動はもちろんのこと、収入源の1つでもあるスクール事業も実施することができず、チームは現在、存続の危機に陥っている。そこで吉田社長はチーム存続のために、選手会とも話し合いの機会を持ち、協力を求めるとともに、1つの策を打ち出した。

 

 

「ポイ活」でクラウドファインディング! 選手、スタッフ、従業員、吉田社長が一丸となって、ポイ活で3000万円を集めることを表明。ファン、サポーターにも現金ではなくて「ポイ活」での協力を求めているところが、まさに“ポイントゲッターズ”というチーム名に相応しいクラウドファインディングだ。

 

彼らはまだJリーグへの参加資格も得ておらず、現状は単なる地方のスポーツクラブに過ぎないので、国や地元金融機関に頼るしか道はない。しかしそれでも、なんとか自社の資源を使って活路を見出そうとするアイデアは素晴らしい。彼らの努力をムダにしないためにも、とにかく早期の事態の収束を望むばかりだ。