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ランニング
2022/10/1 20:45

アシックス「GEL-KAYANO 29」。アシックスが誇る“骨太シリーズ”から、骨がなくなった⁉/「大田原 透のランニングシューズ戦線異常なし」

いよいよ、GEL-KAYANO 29で試走!

開発の話をたっぷり聞いたところで、GEL-KAYANO 29の試走スタート! まずは、シューズに足を入れた感覚のインプレを行った。そして、初心者も含め、多くの方々がランニングシューズを履く、3つの理由に合ったペースで実際にコースを走ってみた。

 

最初は、「運動不足解消」が目的、1㎞を約7分で走る(=キロ7分)の~んびりペース。続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分で走る(=キロ6分)ゆっくりペース。最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)「スカッとラン」。GEL-KAYANO 29の実力を試してみたぞ!

 

【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感)】

最新鋭のGEL-KAYANO 29。樹脂プレートがなくなり、下側のミッドソールに硬めのライトトラスを採用。しかもミッドソールのEVAも軽量の「FF BLAST PLUS」になった。となると、気になるのは足入れ(シューズに足を入れた際の感覚)だ。

 

履いた瞬間に感じたのは、「あらっ、軟らか過ぎ?」。レースでも信頼して履けるGEL-KAYANOシリーズに求められるのは、表面的な足入れの快適さよりも、長距離を走っても疲れにくい本質的な快適さ。軟らかすぎるミッドソールは、むしろ疲労を倍加させる可能性すらある。

 

そこで、いったんシューズを脱いで、中敷き(インソール)をチェック。ちょっとズルいくらいの贅沢なインソールが入っていた。クルマや自転車って、タイヤのグレードを上げるだけで、乗り味が格段にアップする。このインソールだけでも、お店で試せば“ソク買い”だろう

 

でも、はたして、このインソールの贅沢さが意図するところは、何か? ますます、走りたくなってきた!

 

【運動不足解消ジョグ(1㎞を7分で走るペース)】

晴れて気持ちの良い土曜日、散歩ノリで軽~く流しながら、の~んびり走るペース。速く走るのも好きだけど、仕事やら何やらで疲れたカラダとココロに効くのは、ダンゼンこのリズム。ノリノリ過ぎないBPMの音楽を聴きながら走れば、週末の過ごし方も優雅になる!

 

で、最新鋭のGEL-KAYANO 29。低速での安定感は、さすが“The アシックス”。半端なく良し! 前回紹介したNOVABLAST 3のようなヤンチャなシューズと異なる、運動不足解消という、大人たしなみのランにぴったり。安定した着地、無理のない足運び、蹴り出しもスムースで、長く走れる気分にさせてくれる。軽自動車のような騒がしい走行感ではなく、高級セダンの大人の風格である。

 

走り初めにわずかに気になったのは、ロードノイズ。アウトソール(AHAR PLUS)が地面をシッカリ掴む音が、わずかに気になる。しかし3㎞ほど走り、シューズが走りに馴染んでくると、徐々にノイズは消えていた。後日も試したが、路面状態や使用頻度によってノイズが出た可能性が高く、その後は気にならなくなっている。

 

勝手な推測だが、足入れで感じたチョイ贅沢なインソールを履かせた理由は、アウトソール(AHAR PLUS)とライトトラスを組み合わせた際に感じる、今までのGEL-KAYANOと“異なる硬さ”の印象を軽くする目的かもしれない。

 

そう感じた理由も含め、スピードを上げて、さらに検討しよう!

 

【痩せラン(1㎞を6分で走るペース)】

今の自分の走力と、シューズのポテンシャルが一致する点を探るべく、タイムを気にせず、シューズを履いたままに、フラットなコースを素直に走ってみる。

 

気持ち良いと感じるタイムを確認すると、1㎞をほぼ6分のペース。もちろん体格や走力などの個人差で速度は異なるが、GEL-KAYANOシリーズのターゲットのド真ん中、ランニング愛好者やビギナーにとっても、まさにド直球の速度帯である。

 

1kmを7分で走るペースにも感じた、着地の安定感、無理のない足運び、そしてスムースな蹴り出しに加えて、自分の好きなリズムで走れるココロの快適さもON。履く前までに感じていた、「最新鋭GEL-KAYANO 29から樹脂製のトラスティックが消えた……」喪失感と不安感は、いつの間にか消えていた。

 

樹脂製のトラスティックの存在は、その存在が当たり前だった時代に誰もが感じた、約束手形のようなものだ。中足部にプレートがあることで、雨が降ろうが、激坂の上り下りがあろうが、夜になろうが、“このシューズでなら、走り切れる!”という心の拠り所となる。大げさな書き方かもしれないが、全てが不安要素だらけの100kmを走るウルトラマラソンのようなシーンでは、いかなる冒険も許したくない。その象徴的なシューズの部材が、中足部のプレートなのだ。

 

【スカッと走(1㎞を4.5~5分で走るペース)】

ランニングシューズに関しては、コンサバでありたい。しかし、ことレースに関しては、常にプログレでいたい。GEL-KAYANO 29、加速時のパフォーマンスはどうだろう?

 

正直に書くのだが、良い意味で、変わらなかった! どの速度帯でも、電気自動車のように、高いパフォーマンスを発揮してくれる。4分そこそこに上げても、着地の安定感、無理のない足運び、そしてスムースな蹴り出し。普段のジョギング、気持ちのいい緩~い登り坂でペースを上げたくなっても、気持ちよく加速できる。

 

GEL-KAYANO 29を履いてペースを上げるなら、私なら、次のようなシーンだ。フルマラソンの最後のトラックでのスプリント、ウルトラマラソンのラストの激坂の頂に向けて抜くべき選手と並んだ瞬間、悪天のハーフで意気消沈の選手たちをゴール間際でのごぼう抜き! いずれも、持久戦の最後の最後に勝利するイメージです(あくまで妄想……)。

↑取材と試走のためにトラックをお借りした「アシックス スポーツ工学研究所」(兵庫県神戸市)。シューズのみならず、アシックスの製品づくりの根幹をなす重要施設なので、当然ながら一般公開されていない

 

今回GEL-KAYANO 29を試してみて、中足部のトラスティックがなくても、このシューズでレースを走ってみる気持ちになった。先ほどの贅沢インソール問題は、変化を恐れる私のようなコンサバなランナーたちの不安を、少しでも払拭しようとした開発者たちの努力の結果なのだと思えてならない。

 

今シーズン、10㎞から始めて、ハーフ、そしてフル、さらに来年のウルトラでの活躍を期待して、GEL-KAYANO 29をじっくり吟味することにしよう! シューズは、レースを完走に導く唯一無二のギア。開発者たちの熱意と執念、科学の進化を受け入れよう!

 

撮影/小川朋央

 

 

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