スポーツ
2022/12/9 18:30

「平成の不死鳥」植木通彦氏に聞く「ボートレース」を初心者が楽しむ方法

“水上の格闘技” とも呼ばれているボートレース。競馬、競輪、オートレースと並ぶ公営競技のひとつで、日本全国24か所にボートレース場が存在していますが、なんとなく敷居が高く感じられるかもしれません。ところが、最近のボートレースは何かが違う……?

 

SNSを通じてボートレーサーを知る人、モータースポーツの迫力に熱狂する人、週末は親子でボートレース場に出かけている人、自宅でボートレースを楽しむ人など、 “ギャンブル” のイメージから脱却しつつあり、多方面からボートレースを楽しむ人が増えているのだとか。

 

今回は、自身もかつて伝説的レーサーとして名を馳せ、引退後はボートレースアンバサダーとして魅力の普及に努める植木通彦さんに、ボートレースに関する基礎知識や、初心者でも安心な令和的「ボートレース」の楽しみ方を教えていただきました。

 

なぜ「ボートレース」が注目されているのか?

2022年3月に行われたレース、SG「ボートレースクラシック」では、ボートレース史上初となる女性レーサーの優勝でスポーツ紙を賑わせました。 “SG” とはスペシャルグレードのこと。ボートレースには「SG・G1・G2・G3・一般」の5つの階級が存在しますが、最高峰のレースで女性が優勝したことになります。優勝した遠藤エミ選手にも注目が集まり、テレビ番組やインターネット、雑誌でも大きく取り上げられています。

↑遠藤エミ選手。70年続くボートレースの歴史で、女性がSGレースで優勝を飾るのは初。

 

また、近年ボートレース人気は急上昇。SNSやYouTube配信などを通じて、家にいながら楽しめる “エンタメ” のひとつとして盛り上がりを見せています。ここまで話題となっている背景には何があったのでしょうか?

↑植木通彦さん。18歳でボートレーサーデビュー。SGレースでは10回の優勝を経験し、生涯獲得賞金は22億円超。39歳で電撃引退した後、ボートレーサー養成所で所長を務めました。2018年からはボートレースの魅力を伝えるボートレースアンバサダーとして活動しています。

 

「大きく2つの要素があると思っています。ひとつはレース自体が面白くなったこと、もうひとつがレース場のイメージが変わったことです。
ボートレースは若手、中堅、ベテラン、男女とそれぞれの世代でレーサーが活躍しています。世代・性別関係なく勝負するという、ほかのスポーツにはない白熱した面白さを感じていただけるでしょう。とくに女性レーサーがSG優勝を果たしたことで、これまでにないハイレベルな戦いが日々繰り広げられています。また昭和のボートレース場はコンクリートで冷たいイメージでしたが、最近はMooovi(モーヴィ)などのキッズ施設やボルダリングやスケートボード場などのスポーツ施設も併設され、ワクワクするレジャー施設に変わりました。安くておいしいご飯、水面近くはキレイで開放感もありますし、ご家族やカップルで楽しめる場所に進化しているんです」(植木通彦さん、以下同)

全国7か所にある『Moovi』は、子どもたちの成長を応援するのびのびと楽しめる施設。詳細はサイトで確認を。

 

これまでは「舟券」を買うための場所だったボートレース場ですが、間口が広がり、ギャンブルにとどまらない楽しみ方が広がっているそう。またボートレースの売上は、コロナ対策のための日本財団の特別基金への寄付や地域・社会福祉貢献にも活用されており、たくさんの人が関わるようになったことで認知度が上がってきたことも背景にあるかもしれません。

 

事前に知っておきたいボートレースの基礎知識 6

ここからはビギナー向けに、ボートレースの基礎知識を植木さんに教えていただきましょう。

 

1.ボートレース発祥の地は、長崎県大村市

↑大村湾に面したボートレース大村。2018年よりナイターレースを開催しており、キラキラと輝く水面をボートが駆け抜けていく様は迫力満点!

 

「日本にボートレースができたのは、1952年。長崎県のボートレース大村が発祥の地です。実は、開設当時から女性レーサーがいたと言われています。男女平等と言われる以前の時代ですから、先駆者とも言えますよね」

 

ちなみに、2022年の年末に行われる最高峰の大会グランプリは、発祥の地である大村で開催されます。このグランプリに出場できるレーサーは、年間獲得賞金の上位18名のみ。1年かけて18名の座が競われ、優勝賞金は1億円! 全レーサー憧れの舞台です。

 

2.現役ボートレーサー最高年齢は、現在75歳!

↑最高年齢レーサーは、75歳の高塚清一選手。1965年にボートレーサーになり、昭和・平成・令和の3時代を走り続けています。

 

「現役レーサーの最高年齢は、75歳の高塚清一選手です。なんだ75歳でもできるスポーツなのか、と思う人もいるかもしれませんが、高塚選手の腹筋はしっかりと割れていて、見た目には75歳とは思えない体つきです。ご自身で体調を管理し、レーサーを続けていることが本当に素晴らしいことだと思います」

 

逆に最年少は、17歳の仲本舜選手。おじいちゃんと孫くらい年齢が離れているレーサー同士が同じレースに出場することも! 他のスポーツではあり得ないバトルが繰り広げられているのです。

 

3.モーターの整備から体重管理までひとりで行う「メンタル競技」

↑ボートとモーターは抽選によって出場するレーサーに割り当てられ、自分が走りやすいように各レーサーが調整しています。

 

「一般的なスポーツは、コーチや監督がついていますが、ボートレースの場合、操縦するモーターの整備から、自身の体重・体調管理もすべてひとりで行います。ただ走っているだけではないのが、メンタル競技と言われるゆえんでしょう」

 

ちなみにレーサーたちは、レース期間中スマホなどのネットワーク機器を預けて、同じ宿舎で寝泊まりしています。

 

4.「当たるのが面白い」から、「応援するのが楽しい」へ

↑レース場にはファンが作成した個性豊かな「横断幕」がずらり。

 

「昔は舟券を買う=レーサーを応援するだけでした。当たるから面白い、そう考えているファンがほとんどだったと思います。最近では、水際でレーサーのタオルやうちわを持って応援しているファンの方も増えてきました。舟券=応援だけでなく、純粋にボートレースが好き、舟券を当てることよりもレーサーを応援したい気持ちで楽しんでいる人もいらっしゃいます。僕の現役時代では考えられなかったですが、SNSの普及などによって、応援の形が多様化しているのでしょう」

 

現役のボートレーサーは現在1600名。全員が1年間養成所での訓練を経て、プロのボートレーサーになった人たちです。元水球日本代表やウェイトリフティング全国大会優勝者、プロ野球や公認会計士といった異業種から転身したレーサーなど、個性豊かなレーサーがたくさん。

↑ウェイトリフティング全国大会で優勝経験のある守屋美穂選手、元水球日本代表でもある倉持莉々選手。レーサーの経歴や出身地などを調べてみると、意外な発見があるかもしれません。

 

5.親子で楽しめるボートレース場が急増中

↑ボートレース場に設置されている「大時計」。スタート前のドキドキ感が高まります。

 

「ボートレース場にやってくる子どもたちが増えました。もちろん舟券の購入はできませんが、スタートを知らせる大時計の近くは、子どもたちに大人気。ご紹介したMoooviのような施設も増えていますし、こうした経験をきっかけに、将来ボートレーサーやボートレースに関わる仕事に関心を持つお子さんが増えるとうれしいですよね」

 

ボートレース場への入場料はたったの100円。レース場ごとに名物グルメもあるので、ふらっと遊びに行くだけでも非日常を味わえます。ボートレース鳴門(徳島県)は温泉に入りながらレース観戦することも。また昨年リニューアルしたボートレースからつ(佐賀県)にはブックカフェや音楽スタジオ、ボルダリング設備などが併設され、どんどん進化しています。

 

6.YouTubeやBOATCASTで365日、毎日レースを配信

↑連日、迫力あるレースがさまざまなレース場で開催されています。

 

「日本に24か所あるボートレース場ですが、YouTubeや動画配信サービスを通じて、毎日見ることができます。どんなもんかな〜? と動画を見てみるだけでも初めて見る人はレースの迫力に驚くかもしれませんね」

 

植木さんも、YouTubeやBOATCASTでいくつか番組を担当しているそう。どれも無料なので、まずは植木さんの番組から見てみるのがおすすめです。

 

ビギナーも即、楽しめる! 植木さんが教えるボートレースの楽しみ方

「よし、ボートレース場に行ってみよう」と思ってもどこで何を見たらいいのかわからないと悩んでしまうかもしれません。そこで、植木さんに初心者さんでも安心なボートレース場での楽しみ方を伺いました。

↑終始笑顔で熱く語ってくれる植木さん。

 

・ボートレース場に行くなら、天気の良い日を狙うべし!

「水面が広くて大きいので、天気が良いだけでも気持ちいいと思います。体感時速120キロのボートが目の前を駆け抜けていくので、音や水しぶきも臨場感もたっぷり。ぜひ天気の良い開催日に足を運んでいただきたいですね」

 

・まずは、2マーク側からレースを見るべし!

「ボートレースの醍醐味は、1マークと言われています。確かに迫力もあり、おすすめの観覧エリアですが、初心者の方は1マークでの攻防をどう見たらいいかわからないことも。初めてみるときには、ピットアウトからスタートするまでの緊張感が伝わってくる2マーク側がおすすめです。レーサーの表情や『がんばれー!』の声援もレーサーに届きますので、まずは2マーク側から見てみましょう」

↑反時計回りに3周するボートレース。基本的には、左奥にあるピットから2マークを回ってスタートの準備を行います。スタート後、最初の攻防を楽しむなら右側の1マーク。スタート前の緊張感が伝わってくるのは、左側の2マーク側がおすすめです。

 

・事前情報は仕入れすぎず、探検気分で楽しむべし!

「レース以外にも面白い場所がたくさんあります。まずはぐる〜っと場内を探索してほしいですね。偶然の発見や、ここのモツ煮は美味しいな、この場所からの眺めがいいな、なんて自分だけの楽しさを見つけてもらいたいです。発見した際には、ぜひSNSやブログで紹介してくださいね」

 

・令和のボートレースで鍵を握る3コースに注目すべし!

「令和のボートレースで鍵を握るのは3コース。1日に開催される12レース中9レースほどは、3コースが内側に切り込むようなレースが展開されていくことが多いです。まずは3コースのレーサーが、どんな展開をするかに注目してみると、レースの予想が立てやすいでしょう」

 

「心・技・体」が鍛え抜かれた
レーサーたちに注目!

2022年10月時点で登録されているボートレーサーは約1600名で、そのうち女性レーサーは249名(2022年10月時点)。1年365日、全国24あるボートレース場のどこかで必ずボートレースが行われています。たくさんいるレーサーの中から、注目レーサーを教えていただきました。

↑左から宮之原輝紀選手(東京)、黒野元基選手(愛知)、澤田尚也選手(滋賀)、中村日向選手(香川)。( )内は所属支部

 

「若手の成長を見届けたい方なら10名選出されているトップルーキーもいいでしょう。強さに加えて、イケメンが勢ぞろいですよ! 女性レーサーも200名以上活躍しているので、気になるレーサーが出ているレースを見に行くだけでも楽しいと思います。さまざまな特技や趣味を持っているレーサーもいるので、1600名の中から気になる “推し” を見つけていただければうれしいです」

 

そんなボートレーサーの平均年収は、なんと1700万円! トップレーサーの年収は1億円以上と、とても夢のある職業でもあります。植木さんご自身も数々のレースを勝ち抜き、賞金を手にしてきたひとり。最後に、そんな植木さんだからこそ語れる「ボートレーサー」に必要なスキルを教えていただきました。

 

「ボートレーサーになる人に共通しているのは、 “自分軸” が強くある人だと思います。そして強くなりたい、今日より明日を良くしたい向上心も高い人です。僕自身も現役時代、最初は家族のためにレースをしていました。それが舟券を買ってくれる人、応援してくれているファンのため、そしてボートレースを見ているすべての人に感動してもらいたいと、視野が広がっていくのを実感したんです。そうすると、もう寝ている場合じゃないって突き動かされるんですよね。現役のレーサーもそんな気持ちを持って頑張ってくれているからこそ、ファンの皆さんに勇気や元気を与えられているのだと思います」

 

※舟券の購入は20歳以上に限られています。無理のない資金で、余裕を持って楽しみましょう。

 

【プロフィール】

ボートレースアンバサダー / 植木通彦(うえき・みちひこ)

1968年、北九州市生まれ。1986年、1年間の養成所生活を経てプロのボートレーサーに。デビューから3年目に全治5か月の怪我をするも半年後にはレースに復帰。テレビCMでも「平成の不死鳥」として紹介されていた。復帰後、92年G1で初優勝、翌93年にはSG初優勝、94年にはグランプリと次々にタイトルを獲得。通算SG優勝10回、G1優勝23回を記録し、2007年惜しまれつつも現役を引退。引退後は、ボートレーサー養成所の所長に就任。2018年に退任してからは、ボートレースアンバサダーとしてボートレースのさらなる普及活動に力を入れている。
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