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2023/1/20 21:15

プーマ ジャパン社長が目指す「グラスルーツ開拓」の先にあるものは?/「大田原透のランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”大田原 透が、走って、試して、書き尽くす! ランニグシューズ戦線異状なし

2023「プーマ」冬の陣①プーマ ジャパン社長インタビューの巻

 

私たちが走る理由は、さまざま。体脂肪燃焼、なまったカラダの運動不足解消、仕事のストレスを走って吹き飛ばす、などなど……。そんな我々の走る足にぴったりのシューズを求め、ブランド各社の門を叩いて回り、開発コンセプトを聞き、走ってインプレッションするのが本企画。

 

で、今回訪ねたのは、東京・大崎のプーマ ジャパン。出迎えてくれたのは、プーマ ジャパン代表取締役社長の萩尾孝平さん。ご覧の通りのバリバリのランナー体型の萩尾さんは、やり手のビジネスパーソンでもあり、世界でその名が知られる製品開発のレジェンドでもある。

↑萩尾孝平さん/プーマ ジャパン株式会社代表取締役社長。グローバルでの長年のランニングシューズ製造開発の経験を持つ、スポーツ用品業界でその名を知らぬ人なしのレジェンド。2012年にGlobal Head of Running/Training Footwearとして、プーマグループへ移籍。ボストンのプーマ本社を拠点に、ランニング/トレーニングカテゴリーにおけるシューズビジネスを統括した。2018年にプーマ ジャパンの取締役営業本部長に就任後は、ホールセールマーチャンダイジング本部長も引継ぎ、プロダクトから営業まで日本でのビジネスを統括。2021年10月より代表取締役社長となる

 

プーマが、現在注力しているのは“速く走る”レーシングモデルだという。今回の「ランニングシューズ戦線異状なし」は、プーマの世界戦略におけるランニングシューズの位置づけについて。ジャパンの社長が語る、なかなか聞けない話をお届けしよう!

 

萩尾社長が語る、ランニングシューズ世界戦略

「スポーツメーカーとしてのプーマのルーツは、パフォーマンススポーツにあります。にもかかわらず、プーマのランニングシューズに対して、印象が薄い方がいることも事実です」(萩尾さん)

 

今年、設立75周年を迎えるグローバルスポーツブランド、プーマ。フットボールを思い浮かべる方も多いが、引退したウサイン・ボルトを持ち出すまでもなく、陸上競技はプーマのオリジンでもある。

 

「フットボール、ランニング、ゴルフなどのパフォーマンス分野は、ご存じのようにプロダクト開発、マーケティング、選手など、さまざまな投資が必要です。ここのところプーマの急成長で、新規投資のベースが4、5年前から整ってきました。ランニングシューズの開発も休まず続けていましたが、やっと、良い商品としての実が結んできました。

 

ランニングシューズ強化の優先順位が“速く走る”モデルである理由は、プーマが、スポーツメーカーとしてのクリエイティブを打ち出し、オーセンティックなメーカーという信頼性を勝ち得るためです。これを語る際に忘れてならない視点は、昨今の厚底+カーボンソールのムーブメントです。それまで選手は、契約によって履くシューズが決まりましたが、厚底+カーボンソールで一変しました。本当に良い製品を作って、しっかりと選手に向き合わないと、トップ選手が履かなくなりました」(萩尾さん)

 

プーマは2021年2月に、新素材「NITRO FOAM(ニトロ フォーム)」をミッドソールに搭載した新作ランニングシューズ4モデルを発売した。その中でも「DEVIATE NITRO(ディヴィエイト ニトロ)」は、「ビギナーランナーからトップ選手まで」をターゲットにしたモデルとなっている。

↑センセーショナルに登場した、プーマのランニングシューズ「ディヴィエイト ニトロ」

 

プーマのランへの“本気度”は、サッカーと互角!

私たちも、“トップ選手が履いているシューズ=良い製品だよね”と漠然としたイメージは確かにある。しかし、ピナクル(頂点)を取っていき、そこからシャワー的にマスに広げるというのは、古典的な手法とも言えそうだが……。

 

「ランニングは、フットボールとともに、プーマの世界戦略の最重要カテゴリーです。トップ選手に選ばれたことを一つのエビデンスとして、一般の人たちにもプーマのシューズを選ばれる流れを作りたいと考えています。製品の善し悪しでユーザーが物を選ぶ時代だからこそ、こうしたやり方が必要なのです」(萩尾さん)

 

プーマの北米本社があるボストンには、ランニングとトレーニングの企画開発拠点が置かれている。かつては萩尾さんも、ボストンでシューズの企画開発のトップとして、プーマのランニングシューズ作りに携わってきた。

 

「ボストンの企画開発拠点は、私がいた4年前に比べ、2倍の規模に拡張しています。バイオメカニズム(運動力学)のチームは、ボストンだけでなくドイツにも置かれ、外部のエンジニアとも連携して技術開発やテストに携わっています。ドイツとアメリカの大学から科学的なフィードバックを得る体制も整えていますし、シンプルなシューズなら、ボストンオフィス内のラボでも行えます。

 

私もボストンに行った際は、古巣の企画開発チームに顔を出して話をします。ボストンのチームも、日本のレポートを重要視しています。日本の“本気度”が評価されていますし、『EKIDEN』はグローバルでも話題に上がる共通ワードですから」(萩尾さん)

 

プーマのテクノロジーとスピリットは、今再びランニングへと注がれ、2021年より本格的に長距離ランニングへの商品展開、サポートへとつながっている。日本では、2021年4月より立教大学体育会陸上競技部 長距離ブロック 男子長距離パートとのパートナーシップ契約を締結し、ユニフォームやトレーニング、レース時のウェア、シューズなどのサポートを開始する。

↑1月23日より発売する日本限定、特別デザインのランニングシューズシリーズ「FASTER PACK(ファスター パック)」。「DEVIATE NITRO ELITE 2 EKIDEN(ディヴィエイト ニトロ エリート 2 エキデン)」、「FAST-R NITRO ELITE EKIDEN(ファストアール ニトロ エリート エキデン)」の2モデルをラインアップしています

 

クールなブランドが採る、ホットな“グラスルーツ”開拓

「プーマ ジャパンも、ランニングの強化、本気度をスピードアップしています。例えば、プーマのトレーニング用のスウェットと、ファストファッションのスウェットが同じような値段だったら、プーマが選ばれる理由は、どこにあるでしょう? それは、やはりプーマの“後についているブランドイメージ”ですよね。アスリートが着こなしているかっこいいイメージは、お客さま自身にも投影されます。これだけ物の選択肢が増えた時代だからこそ、値段以外の付加価値、つまりスポーツシーンでの満足感が与えられることが重要なのです。

 

だからこそ、グラスルーツ(草の根的な取り組み)も大切です。単に“良いものを作りました、選手が着ました”だけでは、お客さまはプーマの製品を手に取ってくれません。プーマのランニングの知名度は、まだ足りていません。私たちは、プーマのプロダクトを知ってくれていて、プーマというブランドの良さを理解してくれるお取引先の皆さんと、もっと密な取り組みをしたいという話をしています」(萩尾さん)

 

プーマ=“お店で出逢える”ブランドを目指す

ランニングシューズの企画開発のレジェンドである萩尾さんは、4年前にボストンから日本へ拠点を移した。その理由は、日本におけるプーマブランドの成長。そして3年後、グローバル企業であるプーマは、販売の責任者であった萩尾さんを日本支社の社長に据える。プーマの“本気度”は、半端なものではない。

 

「今は、本当に“ちゃんと一緒に取り組みをしていきましょう”という意識を感じられるお取引先を中心にお取り扱いいただいています。取り扱いを拡げても、お店に来るお客さまが手に取ってくれなければ、最終的にはマークダウン(値引き)です。選手が履いて信頼性を高めようとしている一方で、店頭で何%オフっていうのは、やはり正しくありません。

 

お店のスタッフも、プーマのシューズを履いてくれていて、お客さまに“良かったです”というコミュニケーションができる環境を整えています。昨年やったことは、試し履きイベントです。週末、プーマのスタッフを、さまざまなスポーツショップへ派遣して、お客さまひとりひとりとのコミュニケーションを、丁寧にやっています」(萩尾さん)

 

確かに、ネット通販の拡大などを受けて、店舗でのイベントは減少している。しかも新型コロナの流行は、こうした流れを一気に加速した。ひと昔前は、萩尾さんの指摘するように、毎週末、新製品の販促イベントで小売店の店頭は賑わっていたのだ。“お店で出逢う”楽しみを、無くすには余りに惜しい体験だ。

 

「今年はさらに拡大して、店頭でプーマの製品を試すだけでないイベントを、主要都市を中心にしようと思っています。それは、シューズを実際に履いて、プーマのメンバーと、普段できない練習を体験するイベントです。製品の良さを体験してもらって、“こんな走り方すると、この機能ってすごく出せるんですよ”ということをしたいのです。お客さまが製品の良さを感じてもらえるアクティビティを、グラスルーツでやっていきたいのです」(萩尾さん)

↑「体験イベントでは、エリートランナー向けのカーボン入りシューズも試してもらえるように考えています。このレーシングモデル(ファストアール ニトロ エリート)は、実は、かかとで着地した方が、カーボンの良さが増しました。カーボンのシューズは、フォアフット(前足部)着地が一般的ですが、私たちも走りながら気づきました。そんなやり取りを皆さんとしたいのです」(萩尾さん)

 

ビジネスミーティングは、走りながら(例えじゃなく、マジで!)

「お取引先とのミーティングも、走りながらすることが少なからずあります。先日も、九州のある専門店さんが東京に来られた際、スケジュールがないので、朝7時に皇居で待ち合わせて、1時間ほど走りながらミーティングしました(笑)」(萩尾さん)

 

萩尾さんは、社長にしてランナー。例え話ではなく、実際にビジネスミーティングを走りながら行う。かく申す筆者も、以前、ニューヨークで行われたプーマの記者発表の朝、一緒に走りながら開発秘話を聞き出した。萩尾さんは、ビジネスでもタフだが、マインドとフィジカルはさらにタフなのだ。

↑今回のインタビューは、オンロード&オフィスにて! 萩尾さんは、月間350㎞走るというガチランナーなのだ

 

「しかし今、個人的に大切にしているのは、走り続けるカラダの維持です。フルマラソンなどを頑張ってしまうと、怪我して走れなくなります……。実際私自身がそうなりかけていたので、毎朝、自分のカラダと相談しながら走っています。走るのは朝なので、ペースは5分半ぐらいからスタートして、上げても4分40ぐらいまでですね。月間の走行距離は、300~350㎞ほどでしょうか。まぁ、日課ですから。マラソン大会に行きましょうって、お取引先の方からも、いつもけしかけられています(笑)。

 

カーボンが入っているシューズは、ストライドの伸びが、やはり全然違います。一般の人たちにも、カーボンによって、もっと気持ちよく走れる感覚を得てもらいたいと思っています。今回、実際に試してもらうシューズは、“軟らかい着地だけど、進む”のが最大の特徴です。トゥスプリントの傾斜も緩やかなので、一般の人たちが踵着地で走るゆっくりのペースでも違和感がありません。軟らかくもあり、弾いてくれる感覚もあるすごいシューズだと思います。“誰でも履けるみんなの厚底”モデル、楽しんでください」(萩尾さん)

↑次回は、最新「ディヴィエイト ニトロ 2」を手に持つプーマのランニング商品企画担当、安藤悠哉さん(写真左)の話を掲載する予定だ。安藤さんは、なんと、箱根の10区を走り青山学院大学3連覇・大学駅伝3冠のゴールテープを切った、陸上競技部の元主将なのである

 

走るテンションもマックスになったところで、萩尾さんイチオシのシューズ「DEVIATE NITRO 2(ディヴィエイト ニトロ 2)」の紹介、そして実際に走ったインプレは、次回にお預けだ!

 

撮影/中田 悟

 

 

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