ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! 「ランニングシューズ戦線異状なし」
2023「サロモン」夏の陣②「ウルトラ グライド 2」の巻(後編)
スキー用品の開発に始まり、今やトレラン界を牽引するブランド「サロモン」。夏も冬も、縦横無尽に山を駆け巡るギア作りに定評がある。前回は、そのサロモンがGetNavi web読者におすすめしてくれた、入門者用のトレランシューズ「ウルトラ グライド 2」について、サロモンのMD山村 拓さんに話を伺った。
ウルトラ グライド 2は、100マイル(160㎞)のレースでも威力を発揮するモデル。短距離をビューンと進むモデルというより、ゆっくりでも着実にゴールを狙うのに向いている。ということは、つまり“そんなに走らないけど……”な初心者にとっても、扱いやすい一足なのだ。
ウルトラ グライド 2は、爪先と踵が反った、ほど良いロッカー構造(シューズのソールが前後で揺りかごのようなアールを描いている)。ロッカーがあることで、転がるように脚の回転をアシストしてくれる。さらに、衝撃吸収性に富んだミッドソールの「エナジーフォーム」と、アウトソール(靴裏)のグリップ性の高いラバー「コンタグリップ」の相乗効果で、ウルトラ グライド 2の走破性は驚くほど高いという。
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いよいよ、ウルトラ グライド 2を試走!
というのが、前回まで。で、いよいよ山でのウルトラ グライド 2の試走である。なお、通常この連載では、目的に応じて、4つの速度帯に分けて走ってみてのインプレを行ってきた。
まずは、足入れとウォークのインプレ。そして、運動不足解消の目的での1㎞を7分(=キロ7分)で走るの~んびりラン。さらに、脂肪燃焼が目的ための「痩せラン」に適した、1kmを約6分(=キロ6分)のゆっくりペース。最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(=キロ4.5~5分)「スカッと走」だ。
だが、今回の舞台はロードではなく、急なアップダウンもあるトレイル。一定の速度での移動ができないため、評価の物差しは、サーフェイス(路面状況)に変えざるを得ない。上り、下り、岩や泥、沢を走って横切る渡渉など、さまざまなサーフェイスでのウルトラ グライド 2のインプレとなる。
まず、履いてみた!(走る前の足入れ感&ウォーキング)
とは言え、最初の足入れやウォークは、トレイルでも行う最初の儀式。靴は履かなきゃ走れない、のである。なお、多くのサロモンのトレランシューズには、ワイヤーを引くことでシューレースの圧を均等にする「クイックレース」が採用されている。
このクイックレースは、フィッティングを高めるサロモンのセンシフィットテクノロジーとも連動している。また、左右非対称なシュータン(甲に当たる部分)や足首に当たるパット部分は、過酷な長距離走でも足をしっかり安全に、そして快適に包んでくれるフカフカさ。
ということで、シューレースとなるワイヤーを引くだけで、センスフィットテクノロジーが効き、足はヨーロッパ高級車のシートに座ったかのようにシューズに快適に包まれるのである。
ウルトラ グライド 2のロッカー(揺りかごのような構造)は、さほど大きくないので、スネに過度な負担を与えて痛める心配はなさそうだ。それでも、アスファルトの平地のウォークでは、ウルトラ グライド 2はガシガシ進む。
ガシガシなので、アウトドア用シューズに施される靴裏のラグ(すべり止めの凸部材)が、ロードノイズを上げる。誰もいない林道であれば気にする必要はないが、深夜の街中だとチト気になるやも。
山での上り、下り。きついところは歩きつつ、インプレを開始
山を走るトレラン。山なので、上っているか、下っているかが基本。激上りはきつくて走れないし、急な下りは危なくて走れない。レアな存在でもある平地は、ご馳走的な存在だ。ウルトラ グライド 2は、不整地でもガシガシと路面を噛んで進む。どこまでも行ける!
トレラン用シューズなので、もちろんトレランに使いたいが、歩きでも、走りでも、ウルトラ グライド 2はガシガシ進める。ということは、休憩も短く機動性を高めたファストハイク、未舗装の林道を走破するグラベル的な使い方との相性も良い。
階段の上りは、想像以上に体力を奪う。段差が大きいほど筋肉への負荷は高まり、呼吸も乱れがちになる。そんな時こそ、ステップを小まめに刻み、特定の筋肉や心肺機能への負担をなるべく軽くしながら進みたい。
一段一段の着地衝撃に素早く反発し、推進力に換えてくれるエナジーフォームのミッドソールは、カラダを前へ運んでくれる。コンタグリップのアウトソールも、路面を良くグリップしてくれる。体重をもう2~3㎏軽くしておけば、足運びはさらに軽快になる(はず)!
緩い下り、ところどころ木の根が出ているトレイルでも、ウルトラ グライド 2は安定した走りだ。着地の衝撃は、エナジーフォームによってほど良く吸収されるため、突き上げはほとんど感じない。エナジーフォームはクイックに反応するので、沈み込み過ぎることなく、ステップを軽快に刻むことができる。
なお、たとえ超~快適な下りでも、前方の視認性が低ければ、スピードを上げ過ぎてはならない。理由は、前から上ってくるハイカーなどとの衝突を避けるためだ。トレイルでの原則は、上り優先。ゆっくりトレイルを楽しむハイカーを驚かせたり邪魔をしないことは、トレランのマナーでもある。
木の根、濡れた岩、泥など、異なる路面を走ってみた!
木の根だらけの走りにくいサーフェイス。雨やコケなどでスリップすることがあり、植生(※1)も痛む。特に、濡れた木の根だらけの下り道では、スピードを極力落とし、歩きたい。「サロモンは、あらゆるサーフェイスを知る」とは、MDの山村さんの言葉だが、なるほどウルトラ グライド 2のコンタグリップは、ここでも良く効いている。
※1:地球上の陸地において、ある場所に生育している植物の集団。
渓谷沿いの濡れた岩のサーフェイス。撮影のために何度も繰り返したが、コンタグリップはいずれでも良好だった。さらに、“ガレ”や“ザレ”の下りでも試してみたが、コンタグリップはここでも良く効いていた。
ちなみに“ガレ”は、山肌からの崩落などによる岩ばかりのサーフェイス。“ザレ”は、さらに小さな砂礫のサーフェイスを差す。ザレ場では自身の滑落、ガレ場では下を歩く人への落石を招かぬように注意したい。見通しが悪いところや、グラグラと不安定な「浮石(うきいし)」が多い場所では、立ち止まって周囲の状況を観察し、安全を確認してから進もう。
降雨のトレイルや、雪や霜が融けたトレイルは、路面がドロドロぐちゃぐちゃ。スリッピーなので、シューズのみならず、転べば衣服も泥だらけになる。土の組成や、保湿の程度によって泥のサーフェイスの状態はさまざまなため、1回のランでの評価は差し控えたいが、シューズの悪い印象は感じなかった。
ウルトラ グライド 2での、上りで感じたバネのような推進力。ガシガシの下りでは、バネが効き過ぎて、かえって不安定になるかとも危惧したが、さにあらず。ミッドソールのエナジーフォームは、速くて強い衝撃にはクイックに反応し、遅くて弱い衝撃にはスローに反応してくれている。なので、速い下りでも安定する。世界中のトレランレースで鍛え抜かれたミッドソールの技術は、さすがサロモンと唸らざるを得ない。
最後は「渡渉(としょう)」。読んで字の如くだが、台風などで橋が流失したり、エリアによって橋がないトレイルは数多ある。流れに脚をすくわれないよう、浅瀬を探して渡りたい。岩についたコケなど、表面の状態によりスリップしやすいため、慎重に渡りたい。ちなみに、(別日におこなった)試走では5箇所の渡渉ポイントがあったが、コンタグリップはいずれも良く効いてくれた。
【おまけ】ウルトラ グライド 2を舗装路でも試走してみた
ということで、インプレは終了! と書いても良いのだが、次回から紹介するサロモンのオンロード用ランニングシューズ「エアログライド」(写真、左)も伴って、ウルトラ グライド 2での2度目のインプレ、オンロードでの試走も行った。
あまり細かな点は割愛するが、ウルトラ グライド 2をロードで走った印象も◎。ガシガシ行ける感覚は、街でも十分に楽しめる。下町や都心、段差や階段や障害物がある“都会のジャングル”でウルトラ グライドは威力を発揮する。
ウォークに始まり、1㎞を7分で走る「運動不足解消」目的でも、1㎞を6分で走る「痩せラン」目的にも、全く遜色はない。さらにペースを上げ、1㎞4分半から5分程度の「スカッと走」になると、四駆のクルマのような馬力感でぐいぐい進む。このペースで上りや下りに突っ込めば、ウルトラ グライド2の面白さを漏れなく堪能できるはずだ。
注意しなくてはならないのは、硬いアスファルトでは、アウトソールの摩耗が激しい点だ。トレランシューズは、コースの一部が舗装路だったりするが、同じリズムと角度で硬いアスファルトを走り続けることを想定してはいない。ウルトラ グライド 2は、安価なシューズではないので、TPOを踏まえた履き方がクレバーだと筆者は考える。
ロードを走って改めて気付いたのは、トレイルでは超ゴキゲンだった、足首回り。ロードを走ると、足首回りが緩く、走行の安定感にわずかに不安が残るのだ。不整地を走るトレランでは、着地の角度はまちまちとなる。そのため、ヒールカップ(かかと)が低めに設計されているのだが、この柔軟な設計がオンロードを走ると違う印象になった。
ということで、次回からは、サロモンのオンロードランニングシューズ「エアロ グライド」のインプレがスタートする。
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撮影/中田 悟
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