【きだてたく文房具レビュー】工作がサクサク進む超速電動カッター
GetNavi webとは関係ないメディアでの話で恐縮なのだが、半分趣味、半分仕事みたいな感じで「ビニール傘の柄に鬼瓦をつけた盗難防止傘」や「後軸にこたつがついて冬でも手が暖かいペン」のような“駄工作”をあれこれ作っている。そのようなコマゴマとした物作りをしていると、ちょっとでも作業でラクをするための工作機械が欲しくなってくるものだ。
特に切る・削る機械は作業効率が大きく違ってくるので、できるだけ導入したい。中年になってくると、ノコギリだの紙やすりだのでチマチマ手作業をやっているのは時間がもったいないし、なにより体力的につらい。カネで解決できることなら、カネでなんとかしたいのである。
……ということで、昨年の秋頃にアメリカのクラウドファンディングサイト「Kickstarter」で、バッテリー式で携帯できる超音波カッターなるものを、見つけて飛びつき出資しておいたのだが、つい先日手元に届いた。
クラウドファンディング発の「WONDERCUTTER」は、コンパクトなDIY向きの超音波カッターだ。見た目はひと昔前の電動歯ブラシぐらいのサイズ感と雰囲気である(もちろん口に入れたらとんでもない大惨事だが)。
そもそも超音波カッターとは何かというと、ざっくりいえば“超音波で刃を振動させることによって凄まじく切れるカッター”のこと。
例えば包丁で肉を切るとき、刃を前後にギコギコと動かしながら切るだろう。あのギコギコ前後に動かす動作をもっと細かく、1秒間に数万回繰り返す(WONDERCUTTERは4万回/秒)ものだと考えて欲しい。
そしてWONDERCUTTER最大のポイントは、バッテリー内蔵で、場所を選ばずどこでも使えるということ。
ベース本体には腰のベルトに引っかけられるフックがついているので、そこに引っかけてしまえば、屋外だろうと電源の取り回しが面倒な空間だろうと持ち出しは自在。机の上に細かいパーツを広げてのプラモ作りなんかにも、この取り回しの良さはかなり効果を発揮してくれた。
充電には付属の電源アダプタを使うのだが、実はこのアダプタのプラグが日本仕様ではないSEタイプ(欧州圏の一部やアフリカ、中国で使われているもの)になっている。日本国内であれば使う前にSE→Aタイプの変換コネクタを準備しておくと良いだろう。
電圧は問題なく100Vに対応しているので、昇圧用のアップトランスなどは必要ない。プラグさえ日本用のAタイプになっていれば、そのままコンセントに差して充電が可能だ。
使うときは、まずベース側の電源ボタンを長押し。続いてカッターを取り出し、先端に近い位置のボタンを押すとごくかすかに「プィー……」とモスキート音のような高周波ノイズが聞こえてくるので、それで準備完了だ。
あとはカッター側のボタンを押しっぱなしにしたまま、切りたい対象に刃を押し当てると、ぬるっ……と刃が入っていく。
この刃が入る感覚が、あまりに普段のカッターと違うので驚くはずだ。感覚的に言うと、少し温めたナイフでバターを切る感触、というのが一番近いように思う。少し硬めのプラ板だろうとMDF合板だろうと、刃が入ってしまえばあとはもうぬるっと切れる。段ボールなんかは刃を入れている抵抗感すら感じないので、曲線切りも自由自在である。
なんとカッターマットですらザックリ切れてしまうので、対象物を左手で持ちながら右手でカッターを入れていく、という感じで使うと良い。
切る際のコツとしては、あまりモタモタしないこと。刃が高速振動しているので、同じ場所に刃がありつづけると、摩擦でどんどん熱が発生してしまうのだ。
そのため、紙であれば焦げてしまうし、プラ類も溶けて切り口がガタガタになってしまう。切る時は迷わず、切れ味に任せて素早くカットしてしまうのがポイントである。
また、熱以外にも刃の劣化が早いというデメリットがある。
そりゃ秒間4万回もギコギコと切っているようなものだから、普通にカッターを使っているよりは、はるかに早く刃が駄目になってしまうのだ。WONDERCUTTERにはNTカッター製のデザインナイフ用替え刃(BDC-200P)が使えるので、少しでも切れ味が落ちたなと感じたら、即座に交換していく方が良いだろう。
ちなみに刃の交換は、カッター先端の穴に1.5㎜の六角レンチを入れてイモネジを外し、刃と接合ユニットを取り出す。あとは接合ユニットに新しい刃をセットしてカッターに戻して、またイモネジを締める、という手順となる。
ところが、付属の六角レンチが異様に低品質で、刃を交換しようとしたらあっという間にレンチ先が削れてネジを回せなくなってしまった(2本付属していたが、2本とも駄目)。できれば、事前にちゃんとした1.5㎜六角レンチを準備しておいた方がいいと思う。
もうひとつ、ここはちょっとなー……というのが、カッターの作動ボタンの仕様。カッターを使い終わってベースに戻す際に、カッターを収める穴のフチにボタンがひっかかり、勝手に押され続けてしまうことがあるのだ。こうなるとベースの中で延々と振動し続けてバッテリーを消耗するし、なにより再び取り出す時などに危なくてしょうがないのである。
クラウドファンディングで開発された製品によくある、「ここ、ちょっと改良すればいいのに……」というやつなのだが、安全性に関わる部分だけに、ここはなんとかしておいて欲しかったと思う。
【著者プロフィール】
きだてたく
最新機能系から駄雑貨系おもちゃ文具まで、なんでも使い倒してレビューする文房具ライター。現在は文房具関連会社の企画広報として企業のオリジナルノベルティ提案なども行っており、筆箱の中は試作用のカッターやはさみ、テープのりなどでギチギチ。著書に『日本懐かし文房具大全』(辰巳出版)、『愛しき駄文具』(飛鳥新社)など。近著にブング・ジャムのメンバーとして参画した『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』(スモール出版)がある。