毎年開催されている、文房具の見本市「国際文具・紙製品展」(通称ISOT)の会期初日に発表されるのが、業界最注目の「日本文具大賞 グランプリ」である。
このアワードは、事前に機能部門・デザイン部門に各5アイテムが優秀賞としてノミネートされ、さらにそれぞれ1点のグランプリが選ばれるシステム。(選出はデザインディレクターの川崎和男氏を筆頭に、2020年は5人の審査委員によって行われた)優秀賞の中からどれがグランプリになるか? は、この時期の文房具好きのマストな話題といって間違いない。(そして筆者は毎回予想を外す)
第29回となる今年のグランプリは、すでに他メディアの報道などでご存知の方も多かろうが、機能部門が「ホントの紙ねんどつくるキット」(相馬)。デザイン部門が「毎日使いたいガラスペン BRIDE/GROOM」「インクポット BOUQUET」(ハリオサイエンス)という結果となった。
これらグランプリ製品については、放っておいても各メディアで目にする機会があるだろうから、今年もこのGetNavi webの文房具連載では、筆者の個人的な「えっ、これグランプリ取れなかったの!? なんで?」的セレクトを3点紹介したいと思う。そう、つまりは今年も予想を外したということである。
1. 機能部門はこれだ! と思っていたLEDデスクライト
機能部門で個人的に推していたのが、蛇の目ミシンが販売する英国デイライト社製の充電式LEDランプ「Halo Go(ハローゴー)」。
ざっくりと言ってしまえば、手元が明るいコードレスの充電式LEDデスクライト+手元が拡大できる拡大鏡だ。充電時間は6時間、連続利用は最大で8時間となっている。
ポイントになるのがLEDライト部分で、太陽光に近い6000Kの色温度と、Ra95+の高演色性を持っている。
“演色性”というのは、その光でモノ本来の色に見えるかどうか、という数値。太陽光をRa100として、それに近いほど自然な発色になる。医療現場や美術館で使われる照明の水準が90以上ということで、これはなかなかの高性能だ。もちろん同等の高演色デスクライトは他にもあるが、充電タイプで1万900円(税別)いう価格はかなりレア。
もうひとつの特徴である拡大鏡は、メインが2.25倍の直径9cm大型フレネルレンズ。さらにその中に4.0倍の小型レンズが埋め込まれているので、用途によって使い分けることができるのだ。
この2.25倍というのが、細かい作業にちょうど良くてかなり重宝する。プラモデルの細かい部品を組み立てるときや、マニュアルの小さな文字を読むときなんかは、広い視界と拡大率のバランスが取れたものが使いやすいのである。
それが両手フリーで使えて、なによりレンズ周囲からLEDが照らしてくれるので手元に影もできないし。老眼甚だしい身としては、こういうツールが本当にありがたい。
2. 機能部門でこっちも推したい磁性ホワイトボード
機能部門でもうひとつ気になっていたのが、プラスの「クリーンボード クレア(CREA)壁掛けタイプ」である。
こちらは、この文房具連載でも過去に取り上げた、磁性ボード「クリーンノート Kaite」をドーンとホワイトボードサイズまで大型化(1200×900mm/900×600mm)したもの。
ベースとなるボードは内部に鉄粉入りマイクロカプセルを封入しており、上からマグネットペンで書くことで筆記線を浮かび上がらせるという仕組み。つまり、懐かしのタカラ「せんせい」の巨大な次世代版という感じなのだ。
もちろん電源不要で、ホワイトボードマーカーのような消耗品も不要。会議中にインク切れしてもう書けない! みたいなトラブルもない。
従来の磁性ボードでは不可能だったピンポイント消しができるのも、このシリーズのポイント。イレーザーを消したい部分に押し当てると、そこだけがスッと消えるのはなかなか不思議な光景である。
「クリーンボード クレア」にはさらに電動イレーザー搭載モデルもあり、こちらはスイッチを押しながらボードに当てると、内蔵のマグネットが動いてサーッと広い範囲を消すことができるのだ。
「ここはもうちょっとかな〜」と感じたのは、筆線がグレーっぽくて薄いこと。これは磁性体マイクロカプセルの仕様なのか、Kaiteのころから変わらない部分である。
とはいえボードが広い分、マグネットペンも線幅の太いタイプがチョイスできるのはありがたい。これなら多少線の色が薄くても、視認性はそれなりに確保できるだろう。
3. デザイン部門は極限までシンプルなシステム手帳が面白い!
デザイン部門で筆者が推していたのが、上質な革製システム手帳で知られるアシュフォードの「デザインリフィルパッド」だ。
こちらのポイントは見た目一発で分かるとおり、システム手帳の要素を必要最小限まで削りました!的な超シンプル構成である。正直、「え、あのアシュフォードがこれを出すの!?」という衝撃がスゴい。
外観は、背表紙からダイレクトに生えたプラのリング、背表紙はなし、ラバーバンド付きの表紙はリングで綴じられているだけ……と、システム手帳としてはかなり異質。リングが丸見えになっているため、手帳というよりはリングメモやルーズリーフバインダーのほうが感覚的に近いぐらいである。
実際、リフィルパッドという名前通り、立ち位置としても“手帳リフィルを綴じて使うパッド”というあたりが正しいのかもしれない。とにかくシンプルだし、使用感は軽快だ。
ちなみに、メーカーとしては「システム手帳を使ってみたいけど、何から始めたら良いか分からない」という若年層をターゲットにしているらしい。初期状態でセットされているリフィルは、罫線に星やハートマークが組み合わされたもので、大人にはやや賑やかすぎるかな……といった印象だ。
とは言え、そこはシステム手帳。自由にリフィルを入れ換えて使えるのだから、自分の好みに合わせていくらでも中身はカスタムすればいいだろう。それよりも、この軽快軽量シンプルなシステムにメリットを感じるのであれば、使わない手はない。
ギミックとして面白いのは、ラバーバンド付きの表紙をリングから取り外せば、下敷きとしても活用できるという部分。筆圧で紙の裏面をボコボコにしたくない、などの理由で手帳用下敷きを愛用している人もそれなりにいるので、なるほど、これはアリかも。表紙のリング穴には切れ込みが入っているので、いちいちリングを開く手間なく外せるのも、うまくできている。