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2021/4/25 19:30

なめらか筆記はもう常識! 最新ボールペンが「モノグラフライト」「イルミリー」で遂げたさらなる進化とは?

ボールペン史を語る上で重要な出来事はいくつもあるが、その中でも特筆すべきは、2006年の「ジェットストリーム」(三菱鉛筆)発売だろう。

 

それまで、“ただ書ければそれで良し”だったボールペンに、なめらか低粘度油性インクによる“書き味の良さ”という新たな価値基準を生み出したわけで、これは間違いなく、大きなパラダイムシフトだった。

 

実際、ジェットストリームの爆発的ヒット以降に発売されたボールペンは、ほぼすべて(油性・ゲル・水性問わず)、書き味についてなんらかのアピールをすることを強いられる傾向にあったと思う。ある意味、業界全体にかけられた“書き味の呪い”とでもいうべきものだ。

 

しかし、ジェットストリーム発売から15年目を迎えた今、この呪いが徐々に解け始めているようなのだ。書き味の良くないレガシーなボールペンが駆逐され、集団の中でより注目を集めるためにはさらなるアピールが必要になった、というのもあるだろう。社会全体におけるボールペンリテラシーが上がったため、ユーザーが書き味競争に飽きてきた、というのもありそう。

 

ともあれ、2021年のボールペンは書き味が良いのが大前提だから、そこはもはやあえて語ることではない、というムードになってきているのは、間違いない。

 

パイプチップを長く伸ばした極細油性「モノグラフライト」

それなら、今のボールペンはどこをアピールするの? というと、これが面白いことに、油性インクとゲルインクでそれぞれ違う。

 

油性インクがいま進んでいるルートのひとつは、“極細化”だ。手帳筆記に向いた0.3~0.28mmという超々極細(激細)ボール径でもなめらかに書ける、というのが最近の主なトレンドで、三菱鉛筆とパイロットがここで争っている。

 

しかし、トンボ鉛筆が3月に発売した精密筆記ボールペン「モノグラフライト」は、細字傾向を追いつつも、ちょっと違う方向にハンドルを切ってきた。

トンボ鉛筆
モノグラフライト
0.3mm/0.5mm
各180円(税別)

 

その最大の特徴は「ニードルチップの長さ」である。針(ニードル)のように伸びた細いペン先は、業界最長の5.2mm。実物を握ってみると「おお、確かに長いな」と実感できるはずだ。

 

ニードルチップの利点としては、ペン先視界の広さが挙げられる。つまり、一般的な三角錐のコーンチップよりも、細いニードルチップの方が文字を書いている周辺が見やすいということ。そのニードルが長くなれば、視界を邪魔する口金からペン軸にかけての部分が上にずれるため、さらに視界は良くなるというわけだ。

↑中央が「モノグラフライト」の5.2mmロングニードルチップ。コーンチップや他のニードルチップと比較すると、1mmほど長い

 

↑絞った形状の口金とロングニードルチップ(写真右)により、文字周りの視界は従来よりも大きく広がっている

 

ボール径のラインナップは0.5mmと0.38mmなので、いま注目の激細というほどではない。が、この視界の良さは、それをフォローするに充分な性能だと感じた。

 

激細ペンで書くと当然ながら文字も小さくなるわけで、視界が悪いと、狙った位置に思ったような線を引くのは難しい。逆に、ペン先周辺がよく見えれば、細かな文字はグッと書きやすくなる。なるほど、精密筆記ボールペンとはよくいったものだ。

 

手帳に粒のような字をびっしり書くには0.38mmだとやや太いが、ノートを細かめの字で埋めるような書き方には最適だと思う。

↑0.38mmでもカリカリ感はなく、非常になめらか

 

0.4mm以下になると、全体的にややカリッとした筆記感になりがちだが、事前に想像していたよりもかなりなめらか。トンボ鉛筆独自の低粘度油性インクで、スルスルっと書くことができる。

 

これは、新開発の“スプリングレスチップ”(ボールを後ろから押すバネをなくした先端構造)と、ボール座面を真球に近付けることによって、筆記時の摩擦抵抗を従来比10%低くした結果とのこと。

 

また、インクのボテ汚れが、筆記テスト中にまったく発生しなかったことにも驚いた。実は、これまでのトンボの低粘度油性ボールペンは、ボテが出やすい傾向があり、ちょっと苦手に感じていたのだ。

ボテが出ないことで快適性はずいぶん上がるので、この進化は大歓迎である。

↑サラッとしつつ、指にしっかり食い付く新グリップ。手触りは硬めだ

 

また、個人的にいいなと感じたのが、グリップ部分だ。ディテールまで作り込まれたゴムグリップで、指への食いつきが非常に良い。それでいて、手汗をかいた状態でもしっかり握れるサラッとした感触もあり、かなりレベルが高い。

 

本来、ニードルチップは曲がりやすいため、強く握って筆圧をかけるのはNG行為。だが「モノグラフライト」の細長ニードルは切削加工で作られているため、強度は充分にあるようだ。ならば、がっちり握れるグリップでも問題はないのだろう。

ペールトーンオンリーのうっとりゲルインク「イルミリー」

さて、一方のゲルインクだが、こちらは油性にはない“発色性”を武器に、より斬新なカラー展開が主戦場となっている。ゲルインクボールペンの“インク沼化”とも呼ばれる現象だ。

 

昨年末にも、サクラクレパス「ボールサインiD」が全6色カラーブラックという、特殊すぎるラインナップで注目されていたが、対して3月発売のパイロット「イルミリー ゲルインキボールペン」は、ラインナップ12色がすべてペールトーン(高明度・低彩度の淡色)である。うーん、極端!

パイロット
イルミリー ゲルインキボールペン
全12色
各150円(税別)※期間限定販売

 

ペールトーンといえば、それこそ数十色のラインナップ中にちょっとだけ混じっている程度のカラーである。まさか、ペールトーンオンリーなシリーズが出るなんて、さすがに予想外だ。

 

ちなみに色名は「夢に見たブルーローズ(ペールトーンブルー)」や「しとやかなスミレ(ペールトーンバイオレット)」など、うっとり成分が非常に強くなっている。ただでさえすべて頭に「ペールトーン」と付くために色表記が長くなるのに、そこに加えてこのうっとり成分配合。正直、ライターという立場としては「勘弁してくれ」とも思うのだが。

↑色見本を作ってみたが、あまりに淡過ぎてきれいにスキャンできなかった!

 

そんな思いをしてまで、なぜ取り上げているかというと。「イルミリー」、すごくいい色が揃っていて……めちゃくちゃ好みなのだ。筆者の心の奥に潜む野生の乙女がキュゥゥゥゥン! と遠吠えしちゃうぐらい、好き。

 

淡い色をしっかり発色させるのは難度が高いのだが、それでも白みを含んだ美しい色合いに仕上がっている。方向性としては、1990年代にヒットしたぺんてる「Hybrid ミルキー」に近いが、より淡く、儚い色合いと言えるだろう。

↑インクの隠蔽力は強くないので、黒地での発色はいまひとつ

 

なにより色名がいい。いや、ライターとしては勘弁して欲しいけど、乙女おじさんとしては好きなのである。

 

カラーを想起させるワードとうっとり成分が濃厚に混ざりあって、ドラマチック。色名を見るだけで、なにかうっとりしたシーンを夢想するほどのパワーを感じてしまうのだ。だってほら、ペールトーンマゼンタが「真夜中のハーブティ」だぞ。しかも、実際の色もまさにイメージ通りで、ブレのない「真夜中のハーブティ」色なのも、お見事。

 

パイロットという生真面目なメーカーが、ここまでのうっとり力(うっとりりょく)を発揮するとは……申し訳ないが、予想外だった。

↑軸の印刷もほんのりと夢々しくて、うっとりする

 

実際のところ、筆記色としては淡すぎて使いづらいところもあるのだが、それはもう放っておいてかまわないと思う。

 

例えば手帳用の赤字として「ごきげんチーク(ペールトーンコーラルピンク)」を使えば、うっとりとテンションが上がりそうだし。多少は読みづらいかもだが、気にしない。さらに言えば、ただ色と雰囲気が素敵だからまとめて買っちゃう! なにに使うかは想定してないけど! という買い方でも、たぶんまったく問題ない。

 

 

「きだてたく文房具レビュー」 バックナンバー
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