筆者は、ボールペンに関してはゲルインク派を自認しているが、多色ボールペンが必要なシーンに限っては油性インクを選ぶことが多い。なぜかと言うと、ゲルの多色ボールペンは軸がぼってり太くなったり、油性よりもインク吐出量が多くなる分、すぐにインク切れになったりするからだ。かと言って、インク持ちを良くしようとリフィルを太くすれば軸が肥大化してしまうし、逆に軸を細くすればリフィルも貧相になってますますインク持ちが悪くなる。つまり、根本的に多色ゲルは難しい、ということなのである。
「それじゃ、打つ手なしってこと?」と、思うかもしれないが、そこはご安心を。日本の文房具メーカーの開発力はすばらしいので、このようなネガティブ要素をいつまでも放置しておくことはない。ちゃんと「それなりにインク入ってて、でも軸はそこそこスリム」というゲル多色ボールペンを、ちょっと驚くような機構を組み込むことで完成させたのだ。
画期的な機構でゲルインク多色をスリム化
ゼブラ「サラサクリップ3C」は、その名の通り、お馴染み「サラサクリップ」の多色タイプとして新たに発売された製品だ。ポイントは、前述の通り「それなりにインクが入ってて、でも軸はそこそこスリム」というところ。従来のゲル多色は「リフィル激細/軸細」か「リフィル細/軸太」の二択だった。サラサクリップ3Cは、そこに「リフィル細/軸細」という「そんなの、誰だってそれがいいに決まってるじゃん!」という第三の選択肢が提示された形である。
ゼブラ
サラサクリップ3C (0.4mm/0.5mm)
400円(税別)
実は、これまでにもサラサの多色タイプとして「サラサ3」が存在したのだが、これは「リフィル細/軸太タイプ」。単色サラサに近い気持ちよい書き味で、インク持ちもそれなりに良いが、軸径は13.5mmとボッテリしたものだった。対して、新型多色のサラサクリップ3Cは、サラサ3と同じリフィル(JK芯)を搭載しておきながら軸径は12.4mmで、8%のスリム化を果たしている。数値上では1.1mm細くなっただけだが、握ってみると全く別物に感じられるはずだ。
従来品と同じくリフィルを3本ずつ積んでいるのに、どうやって軸が細くできたのか? その答えは軸内部の構造にある。従来品のサラサ3は、リフィルにノック用のバネを被せたものを3本束ねた構造になっている。これは、基本的にどの多色ボールペンでも似たような構造になっているはずだ。
しかし、サラサクリップ3Cの場合は、まずリフィルを3本束ねて、そこに生まれた隙間部分に細いバネを配置したサイドスプリング機構となっている。軸内部の容積を無駄なく使い切ることで軸のスリム化を達成した、というわけだ。
サイド用の細いスプリングではノックフィールが物足りなかったり、ジャムなどの誤動作もあったりするかも? という心配があったが、実際にしばらく使った結果、違和感はまったくなし。少なくともノック部分については、ここに難ありと感じる人はまずいないのではないだろうか。
スリムなわりにインクは多めなのが重要なポイント
あらためて、ゲル多色ノックボールペンの定番どころを揃えてみたが、正直なところ、サラサクリップ3Cがビジュアル的に際立って細いという印象はない。軸の細さという点では、パイロット「ジュースアップ3」が最も細く、軸径10.7mm。これは、単色とほぼ同等か、むしろさらに細いぐらいである。書き味もシナジーチップの優秀さが際立っており、とてもスムーズ。筆者も、使いやすいゲルの多色ボールペンを挙げてくれと依頼された場合には、まずジュースアップ3をオススメしてきた。
しかし、当然ながらジュースアップ3のリフィルは極端に細くなっており、シナジーチップの高いインクフローと合わせると、あっという間にインクを使い切ってしまうのである。
もちろん書きやすさ・軸の細さとトレードオフの部分なので、そこは諦めて替えリフィルの携行で対応する、という手はある。とは言え、多色ボールペンは手帳と組み合わせて持ち歩く機会も多く、外出のたびに替えリフィルまでセットで携行することが煩わしいと感じる人もいるだろう。
それであれば、単色ほどではないがインク量がしっかりあるゼブラJKリフィルと、単色よりちょっと太いけど許容範囲内(…かどうかは個人の感覚だけど)の軸を有するサラサクリップ3Cは、かなり汎用性の高い組み合わせと考えられるのではないか。
手に持ったときに「おっ、すごいな!」と、感嘆の声が出るタイプの製品ではないが、地味ながら長く使い続けられる性能の高さと、それを支える画期的な新機構は文房具好きのマニア心にかなりグッとくる。というわけで、筆者もこれはしばらく使い込んでみようと考えているところだ。