駅に入る手前の、ポイントを通過する時に、車内の照明が消えて一瞬、真っ暗に。点いているのは車内の非常灯のみ。古い銀座線では“当たり前”だった光景が、四半世紀ぶり、2017年12月17日に運行された臨時イベント列車で再現された。
“地下鉄開通90周年記念イベント「TOKYO METRO 90 Days FES!」スペシャル企画『銀座線タイムスリップ』”という、長〜いイベント名。2017年は銀座線が開業してからちょうど90周年にあたる。それに合わせて運行された特別な列車に乗りつつ、銀座線の歴史を振り返ってもらいましょうという催しだった。
まずは銀座線の歴史をさらりと触れておこう
地下鉄銀座線はまず、1927年(昭和2年)12月30日、上野駅〜浅草駅2.2km間が開業した。これが日本で初めて誕生した地下鉄路線でもあった。
地下鉄事業に乗り出したのは東京地下鐵道という会社だった。以降、路線を延長していき、1931年(昭和5年)に上野駅から萬世橋駅、さらに神田駅まで開業する。さらに翌年、京橋駅まで、1934年(昭和9年)6月21日に新橋駅までが開業する。
新橋駅の先、新橋駅〜渋谷駅間は、東京地下鐵道とは異なる東京高速鐵道という会社が開発を行った。1938年(昭和13年)12月に青山六丁目(現・表参道駅)駅〜虎ノ門駅が開業、1939年に渋谷駅〜新橋駅間が開業、同じ年に東京地下鐵道との直通運転が開始された。その後、1941年(昭和16年)に帝都高速度交通営団が発足、東京地下鐵道と東京高速鐵道は統合された。
イベント列車には1000系特別仕様車が使われた
90周年を記念した「銀座線タイムスリップ」の臨時イベント列車。使われたのは1000系特別仕様車だった。現在、銀座線には1000系6両編成40本が走っている。そのうち39編成と40編成の2本のみが、特別な造りとなっている。
1000系特別仕様車は地下鉄90周年に合わせてレトロなイメージを強め造られた車両だ。通常車両と異なり、前照灯を2灯から1灯に、内装は木製色を強調、銀座線を最初に走った1000形をイメージした造りが各所に取り入れられた。また天井灯はLED照明ながら、光の色が変更できるようになっている。さらにほかの1000系には無い予備灯(非常灯)があえて付けられた。今回のイベント列車では、この予備灯が生かされたのである。
ビルに囲まれた上野検車区を出発、地下鉄唯一の踏切を通過!
今回のイベント列車への一般の応募者数は4090人。その中の45組90名が晴れて乗車できた。倍率はなんと45倍強! 人気の高さがうかがえた。きっと熱心な鉄道ファンが多いのだろう、と思って乗車してみると、女性の参加者がかなり多かった。やはり銀座線好きな人には男女、また鉄道ファンに関わらず、ということなのかも知れない。
イベント列車の行程は次の通り。
「上野検車区を出発→上野駅を通過→浅草駅を通過→(折り返し線を利用)→旧萬世橋駅を通過→旧表参道駅を通過→渋谷駅→(引込線をで折り返し)→上野駅ホーム着」
今回のイベント列車が注目を浴びたのは、乗客がふだんは乗る事ができない区間を乗車できたこと。出発は上野駅近くにある上野検車区からだった。上野検車区は台東区東上野4丁目にある銀座線の車両基地。ビルが取り囲む車両基地で、本線へ向かう出入り口には国内の地下鉄路線で唯一という踏切があることでも知られている。普段、一般の人たちが立ち入ることができない検修区内と、踏切を車内から見ることができたのだった。
<スケジュール>
○11時9分 上野検修区をゆっくりと発車する。検修区を出庫前にやや停車
○11時21分 地下鉄唯一の踏切を通過。地下路線へと入っていく
○11時29分 本線に入る前やや停車、その後、本線へ入り上野駅を通過する
○11時35分 浅草駅を通過、折り返し線へ
懐かしい気持ちを呼び起こすレトロな照明
前述したように1000系特別仕様車は車内に予備灯が付けられている。イベント列車では、この予備灯を生かしての、古い銀座線車両のイメージが再現された。
さて今回のイベント列車内の催しとして注目されたのが「予備灯の点灯」。1984(昭和59)年に走り始めた01系電車が登場するまでは、車内の照明が消え予備灯(非常灯)が一定の箇所で点灯した。銀座線の車両がすべて01系となる1990年代までは銀座線に乗ったならば、いつでもこの一瞬、室内灯が消え、予備灯が付くという現象を体験できたわけだ。なぜ、01系以前の車両は予備灯がついたのだろうか。
東京メトロの路線の中で銀座線と丸ノ内線のみサードレール方式(第三軌条集電方式)を採用している。サードレール方式とは、レールに平行した3本目のレールに電気を流し、そこからコレクターシューによって、集電して電車を動かす方式のこと。このサードレールは、ポイントなどで、途切れる区間が一部にあり、集電ができないところでは、バッテリーの電源を生かして予備灯(非常灯)が点灯する仕組みになっていた。01系以降は、集電できない区間も、室内灯が切れないシステムに変更されている。
今回のイベント列車では、古いシステムに車両を戻したわけでなく、集電できない箇所で消灯するような仕組みにした “擬似対応”であったとのこと。とはいえ、十分にちょっと昔の感覚を楽しむことができた。
そんな感慨に浸っているうちに、イベント列車は銀座線タイムスリップの最大の“お楽しみ”区間へ向かうのであった。
【後編はコチラ】
変わり続ける東京の街並み――地下鉄に乗って“幻の駅”を巡る「銀座線タイムスリップ」