保存鉄道とは、英語では「Heritage Railway(ヘリテージ・レイルウェイ)」、または「Preserved Railway(プリザーブド・レイルウェイ)」などと呼ばれ、その名の通り昔活躍していた車両を復元、維持して乗客を乗せる私有鉄道のことだ。私有鉄道といっても民営会社ではなく保存団体が運営していることが多く、従業員の大部分はボランティアが支えている。イギリス人の鉄道遺産に対する情熱があってこその存在だ。
基本的には観光客向けに運行されており、公共交通機関としての地元客による利用は基本的に想定されていない。値段も同じ距離を走行する一般の旅客鉄道と比べると割高で運行日も限定されている。
保存鉄道と一口に言っても規模は大小様々で、普通の旅客鉄道と同じ「標準軌」と呼ばれる線路幅を有し、全長36kmに及ぶ長大なものもあれば路線長が1kmにも満たない小さな場所もある。「ナローゲージ」と呼ばれる線路幅が小さいものも存在し、その種類は様々だ。
純粋な「観光鉄道」とは異なり、保存鉄道はある特定の時代を車両だけではなく駅舎の装飾や乗務員の服装まで再現している。1番多く見受けられるのが、20世紀初頭の雰囲気を残し、蒸気機関車と当時の古い客車を走らせている鉄道だ。
ほかにも蒸気機関車が廃止され、1960~70年代の気動車やディーゼル機関車を主に走らせる鉄道もあれば、鉱山鉄道や湾港鉄道などで現役時代のように貨物列車を走らせたり、さらには旧型の路面電車を野外博物館で運行したりとバラエティに富んでいる。現在ではおよそ150種類もの保存鉄道がイギリス中で営業しており、世界的に見ても保存鉄道大国と言える。
保存鉄道の発端と成り立ち
イギリスでの保存鉄道運動は、1951年にイギリス初の保存鉄道となったウェールズのタリスリン鉄道から始まったといえる。ここは1866年開業し、採掘場のスレート石を運ぶ鉱山鉄道と地元民の脚を兼任したナローゲージ鉄道であった。しかし採掘場の閉鎖とそれに伴う地元住民の減少で廃線の危機を迎えていたが、ボランティアの手によって列車の運行が継続され、いまとなってはウェールズ指折りの保存鉄道、そして有名観光地となっている。
タリスリン鉄道のようにほとんどの保存鉄道はそのためだけに新しい路線を建設したのではない。例えば1960年代には「ビーチング・アックス」と呼ばれるイギリス国鉄による不採算路線の大規模閉鎖が行われ、現在営業している標準軌の保存鉄道もこのときに廃線となった線区を転用しているものが多い。以後多くの保存鉄道が発足していき、一般の旅客鉄道では廃止になった車両に行き場を与えた。そしてかつての鉄道産業遺産の動く姿が見られ、後世にその技術と魅力を伝える貴重な場として成長していく。