【伊予鉄の発見4】ホーム上に橋の構造物が突き出た不思議な駅
松山市駅に戻り、次はその先の、横河原(よこがわら)線に乗車することにしよう。
横河原線は伊予鉄では最も長い距離を持つ路線で1899(明治32)年10月4日に現在の松山市駅〜横河原駅間の全線が開業している。長年にわたり採算が取れず、SL列車やディーゼル車両が走り続けた。1967(昭和42)年にようやく電化が完了している。その後は、松山市と、松山のベッドタウンとなった東温市(とうおんし)を結ぶ重要な路線となっている。
この路線でおもしろいのは松山市駅の次の駅、石手川公園駅(いしてがわこうえんえき)だろう。ちょっと不思議な駅だ。まずは写真を見ていただこう。
写真を見ると分かるように、トラス橋(鉄道橋に多い)の橋の構造物がホーム上に突き出ている。下車しようとすると、運悪くこの構造物が目の前に、なんてことも。ちょっと面食らうホームだ。ただ、トラス橋独特の三角の編み目状の構造物のすき間をかがんで通る、といった不思議な体験が楽しめる。
歴史的な橋で、そのことを示すプレートも付けられる。日本最古の鉄道用のトラス橋でもあるのだ(移設されたものを除く)。今も現役、さらに日本最古の橋が横河原線で、今も使われていたことに驚かされた。
福音寺駅(ふくおんじえき)付近からは沿線に田畑が多く広がるようになる。より松山市の郊外といった印象が強くなる。松山市駅からちょうど30分で終点の横河原駅に到着した。2016年3月に建て替えられた新駅が迎えてくれる。
【伊予鉄の発見5】JR駅のすぐ目の前なのに駅名が異なる不思議
松山市駅に戻り最後に郡中線(ぐんちゅうせん)に乗車してみよう。郡中線は松山市駅と終点・郡中港駅(ぐんちゅうこうえき)間、11.3kmを24分で結ぶ。列車は早朝と深夜を除き15分間隔で運転される。ただし、松山市発が朝7時台5本あるのに対して、朝8時台の松山市駅発が2本に減るので気をつけたい。
郡中線の歴史も古い。1896(明治29)年に南予鉄道(なんよてつどう)の手により開業(現・松山市駅〜郡中駅間)、1900(明治33)年には伊予鉄道の路線となっている。こうした歴史を持つ路線ということもあり、古い重厚な造りの駅舎に出会うことができる。建物好きには、なかなか興味深い路線と言って良いだろう。
郡中線の古い駅舎は岡田駅と松前駅(まさきえき)が代表的。岡田駅は1910(明治43)年に開業、1896(明治29)年に開業した古い駅だ。
それぞれ何年に建てられた駅舎が残っているのか、伊予鉄に資料が残っていないのが残念なところ。明治期の木造駅舎が残っていたら、それこそ大変なことだ。筆者の推測ながら松前駅の駅舎は、昭和初期の建築様式に近いと思われる。1937(昭和12)年に線路が762mmから1067mmに改軌された時に、建て直されたものではないのだろうか。
昭和初期の建築としても、かなり貴重だ。歴史の重み、風情を感じられる駅舎だけに、大事にしていただけたらと思う。
そうした古い駅舎をじっくり楽しみつつ終点の郡中港駅を目指す。郡中線は当初は、郡中駅が終点だった。1939(昭和14)年に、0.6kmほど延ばされ、郡中港駅が終点となっている。
この駅も、ちょっとしたおもしろい発見がある。駅前を出て、目の前の交差点へ向かうと、道路の向かい側にJR予讃線の伊予市駅がある。だが、至近距離にありながらも駅名が異なっている。
1930(昭和5)年、開業当時のJR伊予市駅は「南郡中駅」という駅名だった。その後の1957(昭和32)年4月に「伊予市駅」と改名されている。実は駅がある地域は、かつて郡中町(ぐんちゅうちょう)だった。その名を元にして駅名が付けられていた。
ところが1955(昭和30)年、付近の町村が合併し、伊予市となる。それにあわせてJR(当時は国鉄)は駅名を伊予市駅に改名、一方、伊予鉄は、旧来の郡中という名が入った駅名を残したという経緯があった。
こうした駅名の変遷もおもしろい。さまざまなところで、おもしろい発見が楽しめた伊予鉄の旅。
それこそ伊予鉄“いーよ!”と思うのだった。