【リアス線おもしろ旅⑨】全線乗車して見えてきた今後の課題
リアス線を全線乗車したことにより、楽しさ、魅力とともに取り巻く状況の難しさが感じられた。最後に、取り巻く状況を見ておこう。
リアス線を乗車して感じたことは、素朴なローカル線の旅が存分に楽しめたことだった。さらに美しい景色を車窓から楽しめ目と心の保養につながった。4時間30分近くとはいっても、決して長い時間には感じられなかった。
一方で、いくつかの問題もあるように感じた。実は筆者が体験した旅は4時間30分という時間で終わったわけではない。荷物を持たずに動きたいという思いもあり、宮古をベースにリアス線を行ったり来たり一往復したのだった。そのためまず宮古駅、朝6時3分発の久慈駅行きに乗車。久慈駅で折り返しの盛駅行きに乗車した。さらに盛駅ではBRTに乗車して陸前高田駅まで行き、すぐに盛駅に戻った。最後は盛駅15時20分発の宮古駅17時50分着というスケジュールで動いた。
結局のところ12時間近く列車やバスに乗車したことになる。かなりハードだった。こうした行程はかなり特殊な例だとは思うものの、リアス線の沿線までJRの久慈線、山田線、釜石線、大船渡線BRTを使ってアクセスする場合が多いことだろう。そうしたリアス線の乗車時間以外のプラスの時間を要することには変わりはない。
つまり、リアス線を旅しようとすると、例えば首都圏からならば遠く、日帰りではかなりの強行軍となる。最低でも2日はかけて旅しないと厳しいということが言えるだろう。
さらに、運賃がそれなりにかかるという問題もある。久慈駅から盛駅まで全線完乗すると、3710円だ。沿線以外から訪れたとなれば、沿線までの交通費がかかる。ちなみに盛〜釜石間、釜石〜宮古間、宮古〜久慈間それぞれの1日乗車券がある。また2日間有効の全線フリー乗車券も発売開始された。
ほか乗車率も心配になった。宮古駅発、久慈駅行きの列車は6時過ぎと朝早い列車、さらに休日の利用だったこともあり、宮古駅発の時点では乗客は筆者1人だった。宮古駅から7つめの駅の鳥越駅からようやく、部活に行くのだろうか、高校生が1人乗車してきた。久慈駅に到着した時の乗客は19人ほどだった。
乗車ルポで取り上げた下り列車では久慈駅から、また宮古駅からは団体客の利用があり、列車は混み合っていた。こうした利用は開業したばかりという物珍しさということもあるだろう。今後、数年たって落ち着いた時に、どのようにこうした利用者を呼び込んでいくか、課題となっていくのではないだろうか。
とりまく交通インフラの整備も大きな要素となっていきそうだ。
現状、最大のライバルとなるのは高速道路だと思えるが、釜石自動車道の花巻JCT〜釜石JCT間が3月3日に全通した。さらにリアス線と平行して延びる国道25号(三陸自動車道)の整備も続けられている。いまのところ、釜石北IC〜大槌IC間や、宮古中央IC〜田老真崎海岸IC間が工事中で、全線を通して走ることが適わないが、こちらも2020年度には開通予定となっている。
さらに宮古駅、久慈駅などの跨線橋、地下通路のある駅が、都会の駅のようにエレベータ、エスカレータの設備がないこともマイナス要素と感じられた。高齢者にとって利用するのがだいぶつらいのだ。
マイナス要素が見られたリアス線だが、走る列車に手を降る姿を沿線の多くの所で見かけた。やはり地元の人たちは長らく、路線の復旧を待ちかねていたのだろう。歓迎したい気持ちを何らかの形で表現したく、体が自然に動いてしまうのかも知れない。
わずかな期間ばかり訪れた外部の人間が、とやかく言うべきことではないのかも知れない。リアス線の開業は、それこそ岩手・三陸海岸の復興のシンボルなのだから。きっとリアス線が活かす道を地元の人たちは探し出すに違いない。
【ギャラリー】