【わ鐵の秘密⑥】全長5km以上の草木トンネルはなぜ造られた?
神戸駅を発車すると花桃の並木を見つつ、間もなく長いトンネルへ入る。
このトンネルは草木トンネルと呼ばれる。ローカル線では異例な長さ、5242mもある。しばらく直線路が続くトンネル内を、最新車両のWKT-500形が約5分でかけ抜けた。
なぜ長い草木トンネルは造られたのだろう。
渡良瀬川は古くから氾濫が多く、下流域に住む人々を悩ませた。こうした渡良瀬川の治水のため、また需要が高まる首都圏の水利用のため、1977(昭和52)に草木ダムが造られた。草木ダムを造ることにより生まれたのが草木湖だった。当時の足尾線は、この草木湖の湖底に沈んでしまう区間があった。そのために草木トンネルを通した。トンネルはダムの開設よりも早く1973(昭和48)年に開通している。
旧路線は現在の、草木湖の東側を走っていた。途中には草木駅という駅もあった。この地区は大半が水没したものの、神戸駅側と沢入駅側の一部が地上部に残り、旧トンネルなどは遊歩道になっていて、廃線めぐりが楽しめる。
【わ鐵の秘密⑦】沢入駅〜原向駅間の渡良瀬川の眺めが秀逸
「沢入」と書いて「そうり」と読む。何とも難読な駅名だ。草木トンネルを通り抜けると、第一渡良瀬川橋梁を走り、わ鐵としてはじめて渡良瀬川の対岸へ。下り列車に乗車すると、これまで渡良瀬川をひたすら右手に見てきたが、同駅から次の原向駅(はらむこうえき)までは、列車の左側に川を見て走る。
沢を入ると言う名の通りに、沢の険しさが増していく地域だ。
沢入駅を出発すると列車は川の流れを縁取るように左へ、または右へとカーブしつつ走る。線路の横に立つ「勾配標(勾配を千分率で標示した標識)」には25.0‰(パーミル)とある。つまり1000m走る間に25m登るという坂道の傾斜表示だ。25‰という傾斜は鉄道の路線にとってかなりの急な坂にあたる。
そのため列車は、スピードを抑え、坂を徐々に登って行く。
沢入駅から原向駅間では渡良瀬川の渓流の眺めが存分に楽しめる。沿って走る国道や民家が見えない区間のため、そのぶん自然が色濃く感じられる。
この区間、渡良瀬川を見ると大小の岩とともに、川岸には柱状節理と呼ばれる岩が柱状なった独特な形の岩々を眺めることができる。間藤行きの列車は特に坂を登りつつ走るので、こうした光景をじっくり眺めることができる。
列車は笠松トンネルを越えると栃木県に入る。県境を越えると視界が徐々に開けていき、民家が建ち並ぶ原向駅へ到着する。
【わ鐵の秘密⑧】足尾の中心部は足尾駅でなく通洞駅近くにある
県境を越えた地域は栃木県日光市。2006(平成18)年までは足尾町だったが、合併して日光市となった。日光といえば、日光東照宮がある歴史の街というイメージが強いが、現在は、東は鬼怒川温泉や今市、西は足尾までと関東地方では最大の面積を持つ市で、全国でも高山市(岐阜県)、浜松市(静岡県)に次ぐ全国3位という面積を誇る市となっている。
わ鐵では日光市に含まれる駅が4つある。同地区は旧足尾町だったので、町の名前そのものの足尾駅の近くが町の中心なのでは、と勘違いされやすい。実際は足尾駅の一つ手前、通洞駅(つうどうえき)近くに町の中心がある。
旧足尾銅山の坑内をトロッコ電車に乗って見て回る「足尾銅山観光」。400年にわたる鉱山の歴史を見て学ぶことができる施設だ。この施設も通洞駅が近く、駅から徒歩5分の距離にある。ほかに古河足尾歴史館も駅から近い。