日本では昨年3月に発売がスタートした三菱「エクリプス クロス」に、2.2Lのクリーンディーゼルターボエンジン搭載車が追加されました。これまでのエンジンは1.5Lのガソリンターボのみでしたが、ディーゼルが追加されたことでSUVとしての商品力が格段にアップしたことになります。
[今回紹介するクルマ]
三菱/エクリプス クロス(ディーゼル)
※試乗車:エクリプス クロス ブラックエディション
価格:306万1800円~342万4680円
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ガソリン仕様と同じく、クーペの要素をプラスしたテイストが持ち味
エクリプス クロスは、SUVの機能にクーペテイストのデザインを組み合わせたクロスオーバーSUVという位置付けになるモデル。それだけに、外観はリアピラーが普通のSUVより傾斜、スタイリッシュかつスポーティな風情を醸し出しています。この種のクーペ風SUVというと輸入車勢、特にプレミアムブランドでの選択肢が豊富です。最近ではアウディがラグジュアリークラスの「Q8」をリリースしたばかり。
草分け的存在となったのはBMWで、現在は「X2」、「X4」、「X6」という3モデルをラインアップ。メルセデス・ベンツも「GLCクーペ」と「GLEクーペ」を投入し、ポルシェは「カイエン・クーペ」の予約を開始するという具合。特にクーペと名乗らずとも、それに通じるデザインコンシャスな外観を持つという意味ではマセラティの「レヴァンテ」、国産勢ならマツダ「CX-5」やトヨタ「C-HR」も同じカテゴリーに属するといっていいでしょう。
エクリプス クロスに話を戻すと、そのボディサイズは全長4405×全幅1805×全高1685㎜。ホイールベースは2670㎜とコンパクトSUV級で、狭い日本の都市部でも扱いやすいパッケージにまとめられています。デザイン的な見どころは、フロントからリアに向けてせり上がる彫りの深いサイドのキャラクターラインや2分割されたリアウインドウと一体化して複雑な表情を見せるテールライト回り。そして「ダイナミックシールド」と三菱がネーミングするシャープな造形のフロント回りなど。
また、文字通り全体にエッジの目立つディテールも近年の三菱車らしいポイントといえるでしょう。こうしたエクリプス クロスならではの個性は今回追加されたディーゼル仕様でも変わらず。というより、ガソリンとディーゼルで外観上の差別化は特に行なわれていません。ディーゼルの駆動方式が4WDのみとなることを除けば、グレード構成もまったく同じです。
最大トルクはガソリン仕様の1.6倍、経済性も一枚上手
新採用となったクリーンディーゼルは、2.2Lの直列4気筒ターボ。その最高出力は145PS/3500rpmで、最大トルクは380Nm/2000rpmを発揮します。1.5Lターボのガソリン仕様はそれぞれ150PS/5500rpmと240Nm/2000~3500rpmですから、出力こそ5PS低い一方でトルクは実に1.6倍も強力になります。また、それらを低い回転域で発生するのもディーゼルならでは。普通の乗用車と比較するとSUVは車重がかさむので、この特性は日常域での力強さに大きく貢献する長所となります。
また「クリーン」というコピー通り排ガス対策も万全。たとえばNOx(窒素酸化物)低減には、現状の市販車で最も高い効果を発揮する尿素SCRシステムが採用されています。そして、経済性はディーゼルに対する期待値通りに秀逸です。JC08モード燃費は、14.0㎞/L(4WD)と15.0㎞/L(2WD)のガソリン仕様に対して15.2㎞/Lをマーク。今回は燃費計測を行なう機会がありませんでしたが、おそらくエンジン負荷の少ない高速道路を淡々と流すような走らせ方なら20㎞/Lの大台にのせることも決して難しいことではないでしょう。
これに組み合わせるトランスミッションは、軽量かつ高効率な8速のトルクコンバーター式AT。近年、多段化されたATはプレミアムなモデルを中心としたトレンドになっていますが、総減速比のワイド化と各ギアの減速比が接近することで加速の力強さや燃費向上に貢献。さらには走りの質感アップにも期待が持てます。
なお、ガソリン仕様の駆動方式はFFと4WDの2本立てですがディーゼル仕様は前述の通り4WDのみ。システムは三菱自慢の「S-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)」で、走行条件に応じて前後左右の駆動配分をリアルタイムに最適化。優れた悪路走破性に加え、ハンドリング性能の底上げにも大きく貢献しています。このクラスのSUVで本格的なオフロード走行に挑むユーザーは皆無に近いはずですが、エクリプス クロスには4WD作りに豊富なノウハウを持つ三菱の作らしい性能が与えられているわけです。
外観がクーペテイストでもユーティリティはSUV水準をキープ
新規追加のディーゼル仕様とはいえ、グレード構成がまったく同じなので室内の仕立ては基本的にガソリン仕様と変わりません。唯一、明確に異なるのは回転の上限が異なるタコメーターのスケール程度です。
実は、スタイリング重視のクーペ風SUVながらエクリプス クロスはSUVとしての機能が損なわれていない点も魅力のひとつ。この種のモデルでは低くなったルーフのしわ寄せで後席の着座位置が不自然に低かったり、あるいは荷室が不当に狭いというケースもしばしば見られるのですが、エクリプス クロスについてはそうした不都合がありません。200㎜のスライド機構が備わる後席はサイズ相応の広さが確保され、自然な姿勢で座ることが可能。荷室容量も後席使用時で最大448L(VDA測定値)が確保され、SUVをそれらしく使いたいというニーズにも対応できます。タッチパッドコントローラーを備えたインパネ回りはクーペらしい華やかさを意識したデザインですが、クルマとしての機能はSUV基準となっているわけです。
エクリプス クロスをSUVらしく使いたいユーザーには最適
その走りは、このクラスのディーゼル車として納得の出来映えでした。ガソリン仕様はスッキリと軽快なドライブフィールが持ち味ですが、こちらは少し重厚でしっとりとしたテイスト。実際、同じ4WD同士で比較するとディーゼルはガソリンより車重が130㎏増となるので当然といえば当然ですが、乗り心地は見ためからイメージされる以上に落ち着いています。
元々エクリプス クロスは路面からの入力を上手に吸収する美点があるので、乗り心地は快適そのもの。スポーティに走らせようとするとガソリン仕様に対してフロントの重さを意識させる場面もありますがハンドリングも素直で、SUV的な重心の高さを意識させることもありません。決して刺激的な味付けではありませんが、SUVとして至極真っ当なシャシーに仕上げられています。
もちろん、絶対的な動力性能は十分以上。基本的にアクセル操作に対する反応は穏やかな部類ですが、特にその踏み込み量が少ない領域では持ち前である大トルクの恩恵が実感できます。それだけに、たとえばロングドライブ時などはアクセルの絶対的操作量が少なくなるので乗り手の疲労が抑えられることは間違いありません。また、ディーゼルで不安視される音や振動の抑制レベルにも不満はありません。直接ガソリン仕様と比較すれば、停止時などでその存在を意識させる場面はあります。しかし、いったん走り出してしまえばその差は気にならないというのが実際のところです。
となればエクリプス クロスのベストバイはディーゼル、と結論付けたくなりますが話はそう単純ではありません。走りに上質感がプラスされ、なおかつ好燃費で燃料費も安いディーゼルですが車両価格は4WD同士の比較でおよそ30万円プラス。これをランニングコストで相殺するのは決して容易ではありません。ガソリン仕様でも実用上は何ら不満がない、というより上出来なことを思えば、たとえばスタイリングに惹かれて日常のアシとして購入を考える人にとってのディーゼルはオーバースペックでしかありません。その意味ではロングドライブをする機会が多く、なおかつ後席や荷室をしっかり使いたい人、あるいはSUVに速さを期待する人にこそディーゼルは相応しい選択といえるでしょう。
試乗車SPEC【ブラックエディション】●全長×全幅×全高:4405×1805×1685㎜●車両重量:1680㎏●パワーユニット:2267㏄直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:145PS/3500rpm●最大トルク:380Nm/2000rpm●JC08モード燃費:15.2㎞/L
文/小野泰治 撮影/宮門秀行
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