【越後線の秘密④】信越本線よりもかなり短い越後線の距離だが
越後線はユニークな路線だ。柏崎駅と新潟駅の越後線の距離は83.6km。一方の信越本線を柏崎駅から新潟駅まで乗車すると、ちょうど100kmになる。
信越本線を使うと16.4kmも余分に乗車することが必要になる。柏崎駅から越後線よりも内陸部へ入り、長岡駅、新津駅と遠回りとしつつ走るからだ。ところが、到達時間はこの距離とは逆の結果となる。信越本線の快速列車を使うと柏崎駅から新潟駅まで約1時間40分前後、特急「しらゆき」ならば1時間16分で着く。
越後線を使うと、柏崎駅〜新潟駅間を直通で運転される列車は非常に少なく、柏崎駅発が2本、新潟駅発の直通列車が1本しかない。他の列車を使う場合には途中の吉田駅で乗換えとなる。数少ない越後線の直通列車を使ったとしても、直江津駅〜新潟駅間は2時間12分〜42分かかる。
本来ならば信越本線よりも距離が短いわけで、いわば“短絡線”とも言えるのだが、短絡線としての強みはまったくなく、よって乗る人もほぼいないのか、わずかにしか直通列車が走っていない。
柏崎駅〜新潟駅の乗車運賃を調べると、あえて吉田駅経由として弥彦線経由にしても、信越本線経由の乗車運賃と同じ1660円となってしまう。これは弥彦線が「地方交通線」にあたるため、「幹線」の信越本線を使った運賃よりも、割高に計算されてしまうためだ(信越本線は幹線で100km乗車の場合は1660円、越後線は地方交通線の扱いとなり越後線全線83.8kmを乗車した場合に1660円となる)。
時間がかかり、しかも料金が割高に計算されている。この時間差と、料金が得にならない現実に接してしまうと、あえて越後線を使ってという“物好き”は、鉄道好き以外にいなくなるのも当然かも知れない。
さらに越後線は、列車のスピードを簡単に上げることができない。その理由があったのである。
【越後線の秘密⑤】越後線で採用された直接ちょう架式とは?
開業当初は非電化だった越後線。新潟市郊外区間の利用客が多くなりつつあることから1984(昭和59)年4月に全線が電化された。
ところが、最晩年期の国鉄は苦境が続いていた。越後線の電化工事でも予算削減の影響を受ける。柏崎駅〜吉田駅間の多くで、直接ちょう架式と呼ばれる電化工事が行われたのである。
直接ちょう架式は、主に路面電車など、スピードが抑えられた鉄道で使われる電化方式だ。構造がシンプルで、コストを抑えられるが、パンタグラフがすり付けるトロリー線に高低差が出てしまいがちで、集電能力も低い。直接ちょう架式が採用された越後線では最高時速が85kmに抑えられている。
直接ちょう架式の電化は、JRの路線では越後線のほか、弥彦線、またJR西日本の和歌山線など数少ない。私鉄でも銚子電鉄(千葉県)といった路線に残るのみだ。
この直接ちょう架式の路線に乗車した印象は、銚子電鉄では、集電が時に、たまにパンタグラフが上手く、ローリー線をすっていない様子が乗車時に感じられた(時たま室内灯が消えたりする)。越後線では性能の良いパンタグラフを使っているせいか、そのような印象は皆無だった。上り下り列車の行き違いに使われる駅や橋の上などで、シンプルカテナリ式と呼ばれる、通常使われる架線方式になっているためだろうと思われる。
直接ちょう架式が直接関係あるトラブルではないと思われるが、筆者がちょうど乗車した列車には、電気設備のトラブルで生じて、途中駅で運行が休止してしまうハプニングに巡りあった。
過去に信越本線が災害で路線が寸断された時に、越後線が臨時快速列車の迂回ルートに使われたことがある。その後、越後線は、迂回運行に使われていない。やはり簡易電化方式が脆弱さは否めないのであろう(ほか列車運行システムのプログラムも異なる)。
信越本線の迂回ルート、短絡線になりきれなかったローカル線の悲哀が感じられる逸話でもある。