【亀戸線秘話⑧】北十間川の鉄橋上にある謎の設備は何?
東あずま駅と亀戸水神駅の間で北十間川(きたじっけんがわ)という小河川を渡る。この川、荒川水系の一級河川とされているが、河川といようよりも、成り立ちは運河だった。
北十間川は江戸時代の初期に幕府によって農業用水用に、また舟運用に掘削された。亀戸線が横切り、さらに下流では、とうきょうスカイツリー駅のすぐ目の前を流れる。かつて同駅が業平橋駅と呼ばれていた時代には、この河川沿いに積み出し基地があり、東武鉄道は業平橋駅まで貨物列車で荷物を運び、舟に積み込んでいた。
さて、この北十間川を渡る鉄橋で、あまり見かけない設備が気になった。亀戸線が渡る鉄橋の両側に道路がクロスしている。その道路側に四角いブロックが突き出ている。
さらに四角いブロックには、2本の溝が設けられている。これは何だろう?
北十間川が流れる地区は海抜ゼロメートル地帯だ。かつては洪水など自然災害の影響を受けやすい地区でもあった。
亀戸線の鉄橋が架かる区間も、鉄橋以外の川の両岸には身の丈を上回る堤防が築かれている。一方、亀戸線の路線は盛り土の上を走るものの、堤防の高さよりも低い。水位が堤防を越えるほどに上がった時は、この構造を見ると、鉄橋部分から住宅地に水があふれることになる。
鉄橋上にあるブロックは、潮位が高くなる時は、この溝に板をはめ込み、水があふれることを防ぐために使われた設備のようだ。錆の出方から見て、現在は使われていないようだが、このようなところに洪水防止の工夫が取り入れられていたわけである。
思い起こせば、筆者がまだ幼かったころ、地下水の汲み過ぎによる地盤沈下、そしてゼロメートル地帯が浸水に悩まされるニュースをよく見聞きした。現在は多くの水門や堤防、北十間川でも吾妻橋近くに設けた樋門(ひもん)により、水位が調整されている。こうした取り組みが成果を生み、近年になり大規模な浸水騒ぎは見られなくなった。
とはいえ温暖化による地球規模の水位の上昇が懸念されている。亀戸線の鉄橋のブロックは、今は使われていない設備だが、いざという時に備えてこうした設備は今後も維持していくことが大切なのかも知れない。
【亀戸線秘話⑨】亀戸水神駅の近くに「亀戸天神」はない
引き続き標高の話題。亀戸線の各駅の標高を調べてみた。すると-1m〜-2mといった数値を示した(国土地理院標高データ)。最も低い値は、亀戸水神駅付近の-2.4mだった。
さて、亀戸水神駅。亀戸といえば、有名なのは亀戸天神(正式には亀戸天神社)。藤棚、太鼓橋の光景が良く知られている。この亀戸水神駅と名前が近いこともあり、亀戸天神の最寄り駅だろうと下車してしまう人が今もいるそうだ。
亀戸天神と亀戸水神と、一文字違いだが、亀戸天神の最寄り駅は亀戸駅。お間違いのないように。せっかくだから、駅近くの亀戸水神を訪ねた。
亀戸水神(正式には亀戸水神宮)は、16世紀の創建とされる。水神という名からも分かるように水の神様(弥都波能売神・みずはのめのかみ)をお祀りしている。この地に洪水が多かったことから、災いがないように、と住民により大切に祀られてきた。周囲よりも標高が低い土地ならではの水の神なのである。
さて名高い亀戸天神社も訪ねてみる。亀戸天神社は亀戸線の終点、亀戸駅から距離にして850mほど、徒歩11分の距離にある。
寺社仏閣は、常々思うことながら、人々が集まる寺社には、何とも言えぬ、オーラのようなものを感じる。亀戸天神社の創建は17世紀で学問の神とされる菅原道真を祀る。鳥居をくぐると、盛り上がるように架けられた太鼓橋、心字池を藤棚が取り囲む。この独特の趣が長年にわたり人々を強く引き付けるのだろう。