ドイツ生まれの本格ミニバン、「フォルクスワーゲン・シャラン」に待望のクリーンディーゼル仕様が追加されました。2011年の上陸以来、日本仕様のエンジンは長らく1.4Lのガソリンターボのみでしたが、フル7シーターと呼べる室内空間の広さやユーティリティの高さを存分に使い倒したいユーザーにはピッタリの選択肢が追加されたことになります。
【今回紹介するクルマ】
フォルクスワーゲン/シャラン
※試乗車:TDIハイライン
価格:529万6000円(税込)
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ボディサイズは「エスティマ」級。アッサリ系の外観はガソリン仕様と変わらず
フォルクスワーゲン(以下VW)のミニバンというと、日本では「ゴルフトゥーラン」が主力。ですが、その兄貴分である「シャラン」も実力派ミニバンとして着実な支持を集めています。現行型の累計販売は、導入から現在までで1.5万台をオーバー。もちろん、日本で主流となっている国産勢のミドル級ミニバンと比較すれば微々たるものに過ぎませんが、なによりもコストパフォーマンスが優先される日本のミニバン市場を思えば輸入車として十分以上の実績といえるでしょう。
そのボディサイズは、全長4855×全幅1910×全高1765mm。国産勢でいえば、まもなく生産を終える「トヨタ・エスティマ」あたりが一番近いでしょうか。全幅はシャランの方が100mmもワイドですが、全長はプラスアルファ程度で全高がほぼ同じというディメンションは、日本で主流となる幅を抑えて背を高くしたミニバンとは対照的です。後述しますが、この幅広さと“ほどほどの”車高がシャランの走りのキャラクターに大きな影響を与えていることは間違いありません。
導入当初から大きな変化がないスタイリングは、シンプルで“人畜無害”な仕立て。今回、新たに追加されたディーゼル仕様のTDIでもそれは変わらず、ガソリン版(の同一グレード)との違いはエンブレムとホイール程度に過ぎません。国産ミニバンに見られるアグレッシブで押し出しの強い……、見ようによってはいささか下品な風情とは無縁。その意味で少し物足りないと感じる人もいるかもしれませんが、むしろこのアッサリ系の見ために惹かれるミニバン乗りも少なくないはずです。
デッドスペースを生まない荷室の使い勝手はトップレベルの出来映え
一方、ユーティリティに関しては緻密なパッケージングの恩恵で輸入車、国産車を問わずトップクラスといえる水準にあります。その筆頭に挙げられるのが、多彩に使えるラゲッジスペース。全高が1.8~1.9m級となる国産ミニバンと比較すれば高さ方向はさほどでもありませんが、床面の広さは掛け値なし。3列目シート使用時でも、容量は300L(VDA方式。ドイツ自動車工業会の計測法)が確保。3列目を畳むとそれは711L(同上)まで拡大します。この段階でも本格派のステーションワゴンを大幅に上回る広さですが、2列目まで完全に畳んだ際の容量は実に2297L(同上)。2、3列目の5人分のシートはそれぞれが独立して畳める上、すべて床下に収まるので荷室形状はスクエア。デッドスペースはありません。
また、助手席シートバックを水平近くまで畳めるので、実質的な荷室長は最大で2.95mにもなります。シャランのカタログにはサーフボードを収めた写真が載せられていますが、そんな大ぶりな遊び道具を運ぶ使い方も容易なわけです。ちなみに、各シートを折り畳む操作はシンプルそのもの。昔のドイツ車はこうした操作に細々とした“ルール”があったものですが、いまやユーザーへの気配りはそれを得意としてきた国産勢に勝るとも劣らない水準にあります。
ミニバンとしての広さはサイズ相応。安全装備は最新モデルと同等レベル
ミニバン本来の、「ピープルムーバー」としての機能も申し分ありません。荷室同様、車高が極端には高くないので天地方向の広さは見ためからイメージされる通り。3列目シートへのアクセス性もあまり褒められたものではありませんが、絶対的な空間はフル7シーターと呼んで差し支えない水準にあります。事実、身長178cmで典型的日本人体型の筆者でも、2列目の前後スライド機構を調整すればストレスなく3列目に座っていられます。また、その際の2列目も足下の空間は十二分。近年はSUVでも3列シートで多人数乗車が可能なモデルが増えていますが、実質5+2名のそれらとは比較にならない広さが確保されているわけです。また、2列目までの乗降性は背の高い国産ミニバンを凌ぐので同乗者が小さな子どもやお年寄りの場合はむしろシャランの方が使いやすい可能性もあります。
欧州デビューが2010年、ということでインテリアの仕立ては最新のVWと比較すれば若干保守的というか古臭さが感じられる部分も出てきました。とはいえ質感自体はハイレベル。飾り気こそありませんが、装備内容も充実しています。日本仕様のTDIは上級グレードの「ハイライン」ということでスマホと連携できるナビゲーションシステムは標準で備わりますし、運転支援システムも全車速追従機能付きのACC(アダプティブクルーズコントロール)やレーンキープアシストが備わるなど、最新モデルと同等の充実度となっています。
クルマとしての総合力で判断するなら、これがシャランの大本命!
さて、ミニバンということでパッケージングの話が長くなってしまいましたが、今回のシャランにおけるトピックは晴れてクリーンディーゼル仕様のTDIが投入されたことです。搭載されるのは「パサート」から導入が始まった最新スペックの2Lターボで、シャラン用のパワー&トルクは177PSと380Nm。同時期に上陸した「ゴルフTDI」用を上回るアウトプットが与えられています。組み合わせるトランスミッションはVWお得意のDSG(一般呼称はDCT。ツインクラッチの新世代ATです)で、ギアはガソリン仕様(TSI)と同じく6速。なお、TDIでは日本向けシャランで唯一、XDS(電子制御デフロック)が装備されることも特徴のひとつといえるでしょう。
その走りは、特にクルージング時の安楽さが印象的です。同じ6速とはいっても、TSIよりすべてのギア比が高めであることや車重が80kg重くなること。そして、あえてレスポンスなどを穏やかにセッティングしたであろうことから発進加速が劇的に力強くなったわけではありません。しかしTSIより130Nmもトルクが増強された結果、ギアチェンジの頻度は格段に少なくなりました。それだけに、例えば高速走行時に少しアクセルを踏み増したい場面だと、TDIはシフトダウンすることなくジワジワと速度を上げるのでドライバーの速度管理が容易。なおかつ、TSIよりリラックスした感覚でクルージングが楽しめるのです。
また、絶対的な動力性能は向上しているので積極的に走らせるケースではドライビングそのものが楽しめる点もTDI仕様の魅力でしょう。先にシャランのボディはワイドと書きましたが、その恩恵は横方向の室内空間だけでなく操縦性にも貢献。いざワインディングに持ち込めばミニバンとは思えない自然な操縦性を披露するだけに、TDIであればその美点が一層強く実感できるはず。「ミニバンでそんなマネはしないよ」といわれてしまえばそれまでですが、“運転手”ではなく“ドライバー”でありたいユーザーにとって大きな魅力となり得ることはいうまでもありません。
実のところ、絶対的な動力性能はこれまでの1.4Lガソリンターボでも特に不満を感じさせるものではありませんでした。1.8t超えの自重に150PSと250Nmという組み合わせですから、もちろんパワフルではありません。しかし、フル乗車や荷物満載という状況でもなければ小排気量のハンデを意識させないのもまた事実。その意味で、穏やかなドライビングを基本とするユーザーにとってのTDI仕様は「トゥーマッチ」かもしれません。ですがミニバンをそれらしく使い、走りも諦めたくない人には自信を持ってオススメできます。例の事件の余波でずいぶんと待たされてしまいましたが、このTDIがシャランらしさを満喫できる大本命であることは間違いありません。
SPEC【TDIハイライン】●全長×全幅×全高:4855×1910×1765㎜●車両重量:1900㎏●パワーユニット:1968㏄直列4気筒DOHCディーゼル+ターボ●最高出力:177PS/3500~4000rpm●最大トルク:380Nm/1750~3250rpm●WLTCモード燃費:14.0㎞/L
撮影/宮門秀行
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