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2019/10/27 18:00

日本一美しい四万十川を眺めつつ走る「予土線」の気になる12の秘密

【予土線の秘密⑨】江川崎駅までは高規格路線、さてその先は?

予土線の歴史を振り返ると愛媛県側の宇和島駅〜吉野生駅(よしのぶえき)間が大正期生まれ。中間区間の吉野生駅〜江川崎駅が1953(昭和28)年、高知県側の江川崎駅〜若井駅間が1974(昭和49)年と、区間により、造られた時代が異なる。そのため区間ごとに路線の模様が異なる。

 

区間ごとに列車の最高速度も異なっている。川奥信号場〜江川崎駅間は時速85km。江川崎駅〜北宇和島駅間が時速65kmと、高知県側、愛媛県側では同じ路線なのに時速が20kmも異なる。

 

1974年に開業した川奥信号場〜江川崎駅間のうち、土佐大正駅〜土佐昭和駅間のように四万十川の流れが右に左に大きく蛇行する区間では、複数の橋を架け、トンネルを掘り、線路を直線的に通すように工夫している。こうした造りが時速20km差を生み出しているわけだ。

 

さらに川奥信号場〜江川崎駅間で予土線は、四万十川の本流を計6本の橋で渡っている。そのすべて、線路が高所を抜けていることもあり、各橋梁から見る眺望が素晴らしい。

↑橋とトンネルが連なる土佐大正駅〜土佐昭和駅間。写真は最も土佐昭和駅側にかかる第4四万十川橋梁。トラス橋と呼ばれる美しい構造の鉄橋が架かる。平行して四万十川に多い沈下橋が架かる。沈下橋は今も地元の人たちが行き来する生活道路として利用される

 

一方の江川崎駅〜北宇和島駅間は、路線が敷設されたのが古いこともあり、カーブが多く、スピードを落とさざるをえない。特に北宇和島駅〜近永駅間は、軽便鉄道の路線として開業したこともあり、旧路線の路盤を使用している箇所が多く、カーブ区間が目立つ。とはいえ、それも予土線の一つの魅力となっていることには間違いない。

 

↑江川崎駅のすぐ近くに架かる橋梁を渡る「しまんトロッコ」。同橋は四万十川の支流、広見川に架かるもので、この橋の付近で広見川と合流した四万十川は南へ流れの向きを変え、この先、はるか下流で土佐湾へ流れ込む

 

 

【予土線の秘密⑩】これは読めない!「半家」書いて何と読む?

予土線の珍名駅・半家。ご存じの方もいるかと思うが、半分の家と書いて「はげ」と読む。元々、この地は、平家の落人たちが流れてきて、住み着いたとされる。平家(へいけ)の平の文字の上の横線を、下に持ってきて「半」として地名にしたのだそうだ。

 

駅がある四万十市生涯学習課に「はげ」と読む理由を聞くと、「あくまで推測ですが」と断りつつも、

 

「この地域は四万十川の両岸などに急斜面が多い地域なんです。急斜面はボケやハゲと呼ばれました。その名残ではないかと思われます」。

 

確かに他の地方でも崖地を「ハケ」と呼ぶことがある。ハケの「ケ」が濁音となったとしても不思議ない。それにしても源氏から身を隠し、愛着のある平家の名を隠し通すために、同地区に住み着いたご先祖は苦労を重ねていたわけである。

↑予土線の半家駅は国道381号からやや上に上がったところにある。階段は下からちょうど61段あった。ホーム1面の小さな駅で、裏は急斜面となっていた。駅とは無関係ながら入口に立つ民家に駐車されたレトロな3輪トラックが気になった

 

半家駅近辺には四万十川の沈下橋があるが、他には観光名所がない。しかし、同乗した列車から数人の男性たちが下車していった。窪川駅からこの駅まで、あまり下車した人が居なかったこともあり、逆に妙に気になった。

 

 

【予土線の秘密⑪】終点の北宇和島駅に近づくと険しさが増す!

半家駅の次の駅が、予土線のほぼ中間駅となる江川崎駅だ。この駅で、小休止する列車が日に何本かある。ちょうど乗車した窪川駅9時40分発の4819D列車は、江川崎駅10時34分に到着。11時6分に同駅を出発する。何と32分間も同駅で停車していたわけだ。

 

車両は鉄道ホビートレインだったが、予土線の列車が、みなトイレが付いていない。そのために、トイレ休憩のためという理由もある。何とものんびり走るローカル線らしい。ちょうど行き違う上り列車が海洋堂ホビートレインということもあって、写真撮影を試みる乗客も多かった。

↑江川崎駅で小休止。右の宇和島行列車は「鉄道ホビートレイン」で運行されていた。行き違う上り列車は海洋堂ホビートレインでの運行だった。窪川駅〜宇和島駅間は約2時間〜2時間30分の乗車時間だが、長時間の“トイレ休憩”があるのも予土線ならでは

 

江川崎駅から1つめの駅、西ケ方駅(にしがほうえき)が高知県最後の駅となる。次の真土駅(まつちえき)からは愛媛県になる。県境はとくに何かがあるわけでない。進行方向右手に四万十川の支流、広見川が見える、予土線らしい光景が続き、愛媛県へ入っていった。

 

広見川も流れは蛇行している。ここまでの予土線の路線とは異なり、川の流れを丁寧にトレースするかのように、線路は川の蛇行にあわせて曲がりくねっている。

 

吉野生駅(よしのぶえき)あたりからは、やや開けてきて里山風情が強まる。建ち並ぶ民家を左右に見ながら近永駅へ到着する。この駅は地元・鬼北町(きほくちょう)の玄関口で、乗車する人が急に増える。窪川駅〜近永駅間が2〜3時間に1本という、かなりの閑散区間だったのに対して、近永駅からは列車の本数も多くなっている。

↑愛媛県内に入り予土線は、カーブ区間が多くなる。写真は深田駅〜大内駅間。カーブ区間を撮影すると、こちらに向かって走る鉄道ホビートレインが、まるで鉄道模型のようにかわいらしく写り込んだ

 

近永駅から列車の本数が増える予土線だが、隣の深田駅(ふかたえき)から先、列車のスピードがさらに落ちた。四万十川沿いの直線区間とは、まさに雲泥の差となる。この区間は、まさしく軽便鉄道時代の面影を残している。

 

予土線に沿って流れてきた四万十川の支流、広見川とは途中でお別れとなるが、さらに支流の三間川は、北宇和島駅の一つ手前、務田駅(むでんえき)のすぐそばまで、予土線に沿って流れている。

 

予土線は四万十川の本流に沿い、さらに愛媛県に入っても四万十川の支流、広見川、三間川にずっと沿って走っているわけである。

↑北宇和島駅付近で、予讃線と予土線の線路が分岐する。この先、予土線は、次の務田駅まで、最大30パーミルという同路線の最大勾配区間を走る。北宇和島駅(右上)は予土線の終点駅であり、予讃線との接続駅だが、予土線の列車はそのまま隣の宇和島駅まで走る

 

北宇和島駅の一つ手前の務田駅。あとは一駅ということもあり、すぐに着くだろうと思った。

 

しかし、この区間が予土線の最大の難所となっていた。半径160mという急カーブや、最大30パーミル(1000m走る間に30m上り下りする)という勾配がこの区間にはあった。務田駅も北宇和島駅も、同じ宇和島市内の駅だが、駅間は6.3kmと長く、列車は10分以上の時間をかけて走る。

 

実はこの駅間に、四万十川水系と、宇和島市内を流れる須賀川水系の分水嶺があったのである。乗車して、はじめて分かったことだった。まさに予土線の奥深さを痛感したのだった。

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