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2019/10/27 18:00

日本一美しい四万十川を眺めつつ走る「予土線」の気になる12の秘密

【予土線の秘密③】路線の本当の始まりは川奥信号場なのだ!

予土線は、若井駅から宇和島方面へ3.6kmほどの区間、土佐くろしお鉄道と共通の線路を使って走る。3.6km先に土佐くろしお鉄道と、予土線が分岐するポイントがある。ポイントの名前は川奥信号場と呼ばれる。名前のとおり、川の奥、山の奥にひっそりと設けられた信号場だ。

 

川奥信号場で、土佐くろしお鉄道中村線と分かれ、予土線という路線が始まるわけである。よって厳密に言えば、川奥信号場〜北宇和島駅間の72.7km間が真の予土線といった方が良いのかも知れない。

↑予土線と土佐くろしお鉄道中村線が分岐する川奥信号場を走るJR四国のキハ32形気動車。信号場は山奥にあり、まったくひとけがない。カーブが続く山道の途中に、こうした場所があることに驚かされる

 

さて川奥信号場はトンネルとトンネルの間にある、山の中の分岐点だ。予土線はここでは、ほぼまっすぐ進み、次の駅の家地川駅(いえぢがわえき)へ向けて進む。一方の土佐くろしお鉄道の中村線は、予土線から逸れてカーブし、坂を下っていく。この先、中村線の線路の造りがおもしろい。

 

 

【予土線の秘密④】分岐する中村線はループ線を周って下っていく

土佐くろしお鉄道の中村線は、予土線から分岐したあと、すぐに2031mの第一川奥トンネルに入る。川奥信号場を走る予土線の車窓からは、進行方向の左手、はるか下に線路が見えるが、これが中村線だ。信号場から、この下まで中村線は一気に下っていくのである。さてどうやって?

 

ほぼ同じ箇所で急激に下っていく。そのため第一川奥トンネルは、螺旋状にまわるループ線という形状をしている。

 

ぐるりと螺旋状の線形を描くループ線は、スイッチバックと同じように、鉄道車両が上り下りできない急な坂をクリアするために、導入された。国内でループ線が残る路線は少ない。在来線では中村線を含めて、4路線のみ(他は上越線、北陸本線、肥薩線にある)。高知県の山中に希少なそのループ線があったわけである。このループ線は全線がトンネル内にあるため、外から見えないことがちょっと残念なのだが。

↑土佐くろしお鉄道中村線は川奥信号場(左下)で、予土線と分かれる。そして大きくカーブし、坂を下る。川奥信号場はこの写真の右手の山中にある。特急「あしずり」は、信号場を通過してから、ループトンネルを通り約5分かけて写真の位置まで下りてきた

 

 

【予土線の秘密⑤】車両の正面下にある鉄の棒は何だろう?

ここで予土線を走る車両について触れてみたい。

 

基本となる車両はキハ32形。国鉄が分割民営化される間際、四国用に導入した中型の気動車だ。座席はロングシートでトイレが付いていない。

 

ほか、予土線では「予土線3兄弟」とネーミングされた観光列車が走っている。キハ32形をラッピングした「海洋堂ホビートレイン」。そして新幹線0系をイメージした姿を持つ「鉄道ホビートレイン」(詳細後述)。この2タイプの観光列車は、通常の普通列車として毎日運行されている(検査日などを除く)。

 

さらにキハ32形よりも、やや大きいキハ54形とトロッコ車両を組み合わせた「しまんトロッコ」が週末に走る。しまんトロッコは運賃のほかに座席指定券が必要となる。2019年春のダイヤ改正以降は通常列車として運行。宇和島発、窪川行は江川崎駅(えかわさきえき)〜土佐大正駅間、窪川発、宇和島行は十川駅(とおかわえき)〜江川崎駅間のそれぞれ座席指定券が必要となる。そして同区間のみトロッコ車両が開放される。

 

なお、予土線を走る列車にはトイレが付いていないものの、上り下り列車が行き違う駅では、適度な待ち時間が設けられている。この時間を利用してトイレ休憩を取っておきたい。

↑海洋堂ホビートレインのラッピングが施されたキハ32形。「予土線3兄弟」と呼ばれる車両の一員だ。予土線を走る車両のほとんどには、正面の下部に鉄の棒が備え付けられている

 

上のキハ32形の車両写真を見ていただきたい。正面の下部に鉄の棒が付けられている。これは何だろう? 通常の線路上にある邪魔なものをどける排障器(はいしょうき)とは形が異なるが。

 

調べるとこの鉄の棒は、排障器の一種で、シカが車両と衝突した時に、車両に巻き込まれることをふせぐための棒であることが分かった。同沿線にはシカの生息域と重なっていたのだ。予土線沿線は、それだけ自然が色濃いということが、この装置を見ても分かる。

↑予土線名物の「しまんトロッコ」。横から見ると、キハ54形とトロッコ車両の長さの違いが良く分かる。現在の列車は、水戸岡鋭治氏がデザインしたもので、お揃いの黄色い車体がおしゃれ。同列車への乗車は運賃プラス一部区間の座席指定券が必要となる

 

↑四万十川の渓流の眺めがより楽しめるのは江川崎駅〜土佐大正駅の区間。橋から下をのぞくと、列車はかなり上空を走っていることが分かる。トロッコから見る眺めはまさにスリリング!
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