クルマとしての実力に“退場”の理由は見当たらない!
と……下手な分析はここまでにしましょう。今回は前述のイベント絡みで久々に最終型のザ・ビートルに試乗することができたのですが、クルマとしての実力は満足できる水準にあることが確認できました。
試乗車は日本仕様で3種類あるパワーユニットの中で最もパワフルな2Lターボを搭載するRラインでしたが、ベーシックな1.2Lターボでも実用上不足がないザ・ビートルだけに動力性能はスポーティと呼んで差し支えないレベル。組み合わせるトランスミッションは、フォルクスワーゲンお得意の6速DSG。
一般的にはDCTと呼ばれるツインクラッチの新世代ATですが、アクセル操作に対するリニアな反応とダイレクト感は積極的にマニュアル操作したくなる出来栄え。シームレスな変速制御、という意味でもトルクコンバ―ターATやCVTにことさら見劣りする部分はありませんから、このクルマならではの外観だけでなく走りも愉しみたい人なら悪くない選択です。
一方、ベーシック版より引き締まった足回りは若干ながら乗り心地がスパルタンです。今回は3名乗車でドライブというザ・ビートルにはあまり似つかわしくない使い方でしたが、前席はともかく後席だと上下方向の入力が強め。なおかつ絶対的な居住空間がタイトなこともあって、長時間の移動は「罰ゲーム」以外の何者でもありません。
ただ、基本的な骨格がしっかりしているとあって、事前に予想していたよりは文化的なライド感に踏みとどまっていたことは意外な発見でした。良い意味で緩い、ザ・ビートルらしいキャラクターに合う足回りはベーシックな1.2Lだと個人的には思いますが、事実上前席しか使わないのなら2Lターボでも許容範囲内といえるでしょう。
とはいえ最新の「ポロ」、あるいは現行「ゴルフ」といったフォルクスワーゲンの主力と比較すると運転支援システム回りが寂しいことは否めません。また、基本的には1世代古いハードウェアをベースとしているだけに、前述の主力たちに対して走りの質感という部分で古さを感じさせてしまう部分があったりもします。
その意味でも、やはりザ・ビートルは元祖から受け継がれた見た目に惚れた人が選ぶべき「指名買い」の1台ということができるでしょう。ただし同カテゴリー、サイズでの比較なら総合力が決して低いわけではありませんから、個性派のコンパクトカーが欲しいという理由でザ・ビートルを選んでもユーザーが後悔することはないはずです。
それだけに、一人のクルマ好きとしてはザ・ビートルの現役引退という事実に一抹の寂しさを感じてしまうのもまた事実。とりあえず、運転支援システム回りさえアップデートできれば現代のクルマとして何ら問題はないからです。ただ、その本質がファン・カー、いわば大メーカーの“余興”なのだと定義するならことさらに引退を嘆く必要などないのかもしれません。
モチーフがフォルクスワーゲンの偉大な象徴である以上、機会さえあれば復活の可能性は十二分にあるからです。その生産中止が発表されて以降、VGJが展開してきたザ・ビートル関連のキャンペーンでは「SEE YOU」という言葉が使われていますが、それは遠からずのビートル復活を意図しているのかもしれません。そう、今回の生産中止は「さよなら」ではなく「またね!」というわけです。
【車両スペック】
「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル2.0 R-Line Meister」
全長×全幅×全高:4285×1825×1495mm●車両重量:1410kg●エンジン排気量/形式:1984cc/直4DOHC+ターボ●最高出力:211PS/5300~6200rpm●最大トルク:280Nm/1700~5200rpm●JC08モード燃費:13.4km/L
【ギャラリー(GetNavi webのサイトで閲覧できます)】
撮影/篠原晃一