【鬼怒川線の逸話③】いろいろな車両が走るのが路線の魅力に
鬼怒川線は走る車両がバラエティに富む。東武鉄道自社の車両だけでなく、JR東日本および会津鉄道の車両も走る。ここで確認しておこう。
◇東武6050系
野岩鉄道の開業に合わせて1985(昭和60)年から造られた。2ドア、座席はセミクロスシートの配置となっている。以前は浅草駅まで運転されたが、現在は、新栃木駅〜東武日光駅間、下今市駅〜会津田島駅間の運用がメインで、鬼怒川線では主に普通列車として走る。野岩鉄道および会津鉄道でも少数ながら、同形式の車両を保有しており、東武鉄道6050系に混じって走っている。
◇東武100系
愛称はスペーシア。東武日光線の主力特急として走ってきた。車体のカラーは当初、オレンジ1色だったが、現在は、オレンジラインの「サニーコーラルオレンジ」、紫ラインの「雅」、水色ラインの「粋」、金色ベースの「日光詣スペーシア」が走る。6両編成で浅草(新宿)側6号車は4人用個室車両となっている。東武線内以外にも、「スペーシアきぬがわ」という特急名でJR線に乗入れ、鬼怒川温泉駅と新宿駅を結んでいる。
◇東武500系リバティ
2017年に登場した特急用車両。全席に電源コンセントを備えるなど、充実した設備を備える。鬼怒川線内だけでなく、新藤原駅から野岩鉄道、会津鉄道への乗入れを行う。なお下今市駅〜会津田島駅間は全駅停車(一部通過する列車もあり)して走り、運賃のみでの乗車が可能となっている。
◇JR東日本253系
新宿駅発、栗橋駅から東武線内へ乗入れる特急「きぬがわ」(鬼怒川温泉駅行)と特急「日光」(東武日光駅行)用に使われる。253系は元成田エクスプレス用の車両で、東武線乗入れ用にリニューアルされ、253系1000番台を名乗る。
◇会津鉄道AIZUマウントエクスプレス
会津鉄道からの乗入れ車両で、車両はAIZUマウントエクスプレス用のAT-700形・AT-750形気動車、もしくはAT-600形・AT-650形が使われる。東武日光駅〜下今市駅〜会津若松駅間を走行する。特定日にはJR磐越西線の喜多方駅まで乗入れる列車も走る。
ほか、SL大樹用のC11形蒸気機関車、12系・14系客車。さらにC11形蒸気機関車とコンビとなって走る車掌車のヨ8000形(東武ATSなどの安全装置を搭載する)、SL列車の補機としてDE10形ディーゼル機関車と、実に多種多様の車両が走っている。鬼怒川線は短めの路線ながら車両天国といっていいだろう。
【鬼怒川線の逸話④】下今市ではやはりSL大樹の動きが気になる
ここからは沿線模様をお届けしよう。まずは下今市駅から。SL列車の始発駅らしく、レトロな趣となっている。さらにホームの北側にはSL用の転車台が設けられる。周囲の広場は転車台広場と名付けられ、SLが方向転換する様子も見学できる。SL展示館もあり、館内にはSL大樹誕生までのさまざまなエピソードなどが紹介されている。
SL列車は走行や検査のために出場している時以外には、この下今市駅に留め置かれる。土日祝日の運転日には、早朝から作業が粛々と進められている。車庫から出ると、SLは転車台に載って方向を調整、転線して客車の前に連結される。
さらに出発が近づくと軽く汽笛を鳴らしてバック。駅の東側にある踏切をまたいで折り返し、発車する2番線ホームへ入っていく。多くの電車が行き交う下今市駅だが、SL列車導入後は、やはりこの蒸気機関車が主役になっているように感じた。
ここからは路線の旅を楽しんでみたい。下今市駅発の普通列車に乗り込んだ。同駅発の普通列車の大半は6050系。セミクロスシートの2両もしくは4両編成で走る。乗車した日は、冬期ということもありハイキング客が少なめで車内は空いていた。4人ボックス席にのんびりと座る。
新藤原駅行の普通列車が下今市駅を発車した。発車してすぐ、右へ大きくカーブを切る。この区間、下野電気鉄道時代に設けられたアクセス線だ。そして間もなく、大谷川(だいやがわ)橋梁を渡る。橋の上からは、進行方向左手に日光連山の峰々がダイナミックに望める。
橋を渡ってすぐに次の駅、大谷向駅(だいやむこうえき)がある。駅周辺には今市市街が連なる。川をはさむものの、下今市駅と大谷向駅の間はわずか0.8kmと近い。ところが、次の大桑駅までは4.0kmと駅間の距離が開く。その距離を示すかのように大谷向駅より先は急に人家が少なくなる。
ちなみに鬼怒川線の西側に平行して通る国道121号線には杉並木が連なる。各所に残る杉並木が見事だ。国道121号の旧道は、会津西街道と呼ばれる古道で、日光市内の日光街道、例幣使街道(れいへいしかいどう)を合わせると杉並木は全長37kmにもなるそうだ。杉はなんと約1万2350本にも及ぶ。
鬼怒川線沿いの会津西街道は、東北諸藩の参勤交代路にも使われた道である。幕末には会津藩(幕府軍)と、新政府軍との争いの舞台にもなっている。古道をおおう杉並木。歴史に思いを馳せながら歩いてみてはいかがだろう。