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2020/5/3 18:30

【保存版】素敵なニックネーム付き!事業用「検測車両」をずらり紹介〈私鉄編ほか〉

〜〜大手私鉄検測車両&検測機器を付けた旅客車両図鑑〜〜

 

安全に快適に鉄道車両を走らせるために多くの事業用車両が働いている。中でも注目度が高いのが「検測(検査)車両」である。

 

定期的に路線を走り、線路や架線の状態を調べて、設備の保守管理に役立てている。新幹線のドクターイエローがその代表格だが、“お仲間”が全国で多く使われている。今回はそうした検測車両のうち、大手私鉄の「地上設備検測車両」に加えて、「検測機器を付けた旅客車両」を紹介しよう。

 

*ご注意:運行に関して、各社へのお問い合わせはご遠慮ください。撮影および見学は新型感染症の流行が終息した後に楽しみましょう。

 

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【大手私鉄の地上設備検測車両】

小田急電鉄クヤ31形「TECHNO-INSPECTORテクノインスペクター

↑小田原線を走るクヤ31形検測電車。車体正面と側面に「TECHNO-INSPECTOR」のロゴが入る。上り列車は1000形を先頭に走る(写真左上)

 

毎月中旬の土日に小田急各線を巡って検査を行う

小田急電鉄が利用する検測電車がクヤ31形。通勤用電車の3000形をベースに2004年に製造された。「TECHNO-INSPECTOR(テクノインスペクター)」という愛称が付く。訳せば「技術-検査者」といった意味だろうか。英語名になるとなかなかかっこ良く感じる。自走はできないために、1000形電車に連結して走る。小田原駅方面行き下り列車の場合、先頭に連結。上りは逆に後ろ側に連結される。正面上部の表示器には「検測」と掲示されている。

 

◇運行の状況

出動するのは毎月、中旬の土・日曜日。喜多見検車区に配置され、1日目の土曜日は、昼過ぎに成城学園前駅を出発、急行線を走り新宿駅へ向う。新宿駅で折り返し、小田原線を下り小田原駅へ。折り返して経堂駅へ向かう。夕方、経堂駅から喜多見検車区へ戻る。

 

2日目の行程は翌日曜日。早朝の運行となる。新宿駅までは同じで、折り返して相模大野駅から小田急江ノ島線に入り片瀬江ノ島駅へ。折り返して新百合ケ丘駅へ。同駅から小田急多摩線の唐木田駅(からきだえき)へ。折り返して経堂駅へ向い、朝10時過ぎまでに喜多見検車区へ戻る。

 

検測車両の中では珍しく週末に走る。個人のホームページ等でダイヤも予想されていることもあり、非常に出会いやすい検測車両だ。

 

東急7500系「TOQ i(トークアイ)」

↑長津田検車区に停まる7500系。正面が黄色い車両はデヤ7550形で電気検測用の機器が天井に付く。側面には「TOQ i」のロゴが入る

 

屋根上の多くの機器が付けられ検測車両であることを物語る

東急が2012年に製造した事業用電車。「TOQ i(トークアイ)」の愛称を持つ。車両は2〜3両で運用される。車両の前後に運転台を持つデヤ7500形(正面水色塗装)とデヤ7550形(正面黄色塗装)、中間車サヤ7590形の3両が用意され、軌道検測、電気検測など検査内容に合わせて編成される。

 

車両の長さの限界がある東急池上線・東急多摩川線も走ることができるように長さ18メートルと短い。そのため世田谷線を除く東急全路線で検測作業を行うことができる。

 

◇運行の状況

長津田駅の西側に広がる長津田検車区に配置される。検測は2か月に1回、世田谷線を除く全路線とみなとみらい線を3日間にわたって走って検測を行う。これまで奇数月の中旬に運行されることが多かったが、2020年4月中旬に行われていたという目撃情報もあり、今後は出動が偶数月に変わる可能性が出てきている。

 

7500系は検測以外の役割を持つ。JR貨物により甲種輸送された新造車両を長津田駅構内から自社路線へ牽引する。また東急池上線・東急多摩川線の電車を長津田車両工場まで牽引する役目もある。車庫内に停まる様子を含め、長津田駅近辺で目撃しやすい。

 

京王電鉄デヤ901・902形・クヤ900形「DAX(ダックス)

↑デヤ901形+クヤ900形+サヤ912形+デヤ902形の4両編成で検測が行われる。クヤ900形の側面にはDAXのロゴが付けられる(左上)

 

「京王のドクターイエロー」とともに行動する「DAX」

クヤ900形は京王電鉄の軌道と架線を検測する事業用車両で、2007年に新造された。愛称は「DAX」。Dynamic Analytical eXpressの略で、直訳すれば「力強く分析する急行」という意味だろうか。自走はできないため、京王線の主力車両9000系を元にして造られたデヤ901・902形と連結して運行される。

 

デヤ901・902形は正面を黄色に塗られていることもあり、「京王のドクターイエロー」との呼び名も。また、この検測列車は鉄道ファンの間で「デヤ検」の名前で呼ばれており、ツイッターの目撃情報を探す時にこの名前で検索すれば、列車情報に行き当たる。

 

◇運行の状況

京王線、京王相模原線などの路線を2か月に1回の割合で検測作業を行う。前回の検測は4月初旬に行われたので次回は6月初旬になりそう。A検測とB検測という日程があるものの、そのダイヤは結構、推測が難しいとされている。

 

配置は高幡不動検車区。デヤ901・902形の編成は深夜や早朝、路線内の機器輸送に使われることがある。そのため早朝、高幡不動駅に立ち寄ると、車庫に戻ったばかりの編成を見かけることもある。

相模鉄道モヤ700形

↑車体全体が黄色で目立つモヤ700形。かしわ台車両センターに配置されている。写真は牽引作業用の703編成

 

黄色一色で目立つ架線検測用の「幸せの黄色い電車」

モヤ700形は7000系から改造された事業用車両。架線検測設備を搭載した701+702編成と、救援用大形ジャッキを装備する703+704編成の計4両が用意されている。検測作業の時には、4両で運行される。黄色一色で見ることが出来たら幸運とばかり、「幸せの黄色い電車」と呼ばれることもある。

 

◇運行の状況

モヤ700形はかしわ台車両センターに配置され、センターの外からも、その姿が確認できることも。運行予定は非公開だが、鉄道ファンの間では「モヤ検」の名前で目撃情報が報告されている。前回は2020年4月中旬の平日午後に行われた模様だ。かしわ台駅→海老名駅→横浜駅→湘南台駅→二俣川駅→厚木駅(貨物線)→海老名駅といった行程が確認されている。

 

モヤ700形はJR厚木駅(厚木操車場)からかしわ台車両センターまで、新造車両を牽引することもある。厚木操車場と相鉄本線に連絡する相模国分信号場を結ぶ厚木線2.2km。列車があまり走らない路線を、黄色いモヤ700形が新造車両を従えて走るシーンは非常に貴重だ。見ることができたらかなりラッキーと言えるだろう。

 

近畿日本鉄道モワ24系「はかるくん」

↑近鉄大阪線を走るモワ24系。オレンジと白の配色で側面に「KINTETSU E-LINERはかるくん」の文字とともにイラストが描かれる

 

線路幅の異なる近鉄全線を走って調べる働き者

通勤用電車2410系の2411編成を改造、2006年に生まれたのがモワ24系電気計測車だ。「はかるくん」とかわいらしい愛称が付けられている。2両編成で、架線の検査とATSなどの検査を行う。近畿日本鉄道には1435mmと、南大阪線・吉野線の1067mmという線路幅が異なる路線がある。このモワ24系は台車を取り替えて、両線路幅の路線の検測を行うことができる。台車の取り替えは橿原神宮前駅の構内で行われている。

 

◇運行の状況

モワ24系は近鉄山田線の明星検車区(三重県)に配置されている。近鉄路線は路線距離が長いせいか、はかるくん情報もツイッター等で報告されることも少ない。ちなみに南大阪線では自走はせずに、6200系3両編成と連結して走る。

 

近鉄路線内の運行日程は非公開だが、毎秋に開かれる「きんてつ鉄道まつり」の車両基地公開時に展示されることも。また近鉄の子会社、養老鉄道では、はかるくんが入線する日を公開している。モワ24系のうち1両(クワ25形)とこれまで610系D14編成とコンビを組み養老鉄道の路線を走った。すでにD14編成が2019年秋に引退しているので、今後、養老鉄道を検測するとしたら、どのような編成で走るのか気になるところだ。

 

西日本鉄道900形911編成「救援車」

西鉄の天神大牟田線などの路線を検測する“救援車”

2014年に通勤用電車5000形5123編成を改造して生まれた。車輌は黄色一色で、3両編成のうち中間車に架線検測機器を搭載し、天神大牟田線などの路線(西鉄貝塚線を除く)の検測作業を行う。他社の検測車両とは異なり、西鉄のホームページでは「救援車」として紹介されている。

 

◇運行の状況

救援車とは本線上で電車がトラブルに出会った時に救援に向かうために用意された事業用車両。特殊な役割を持つため本来の目的で出てくることは非常に少ない。車両は筑紫車両基地に配置されている。天神大牟田線を走る電車内から、車庫内に停まる900形が見えることも。基地は筑紫駅〜津古駅間にあるので乗車した時には、ぜひ筑紫車輌基地内に注目してみたい。

【検測機器を付けた旅客車両】

検測車両以外でも検測は行われている。近年は検測機器がコンパクトになり、通常の旅客車両に取り付けての検測も行われるようになっている。そんな検測機器を付けた旅客車両を見ていこう。

 

JR九州 800系新幹線電車

↑新800系と800系を見分けるポイントは赤ライン。先頭部でカーブしているのが新800系だ。写真はU007編成で軌道検測用機器の搭載が可能

 

旅客車両だが検測車両としても活躍する

ドクターイエローは東海道・山陽新幹線の路線内のみ検測を行っている。線路が通じているものの九州新幹線内の検測は行っていない。九州新幹線ではどのように検測を行っているのだろう。

 

九州新幹線ではJR九州の800系が主力車両として使われているが、検測は2009年以降に増備された「新800系」と呼ばれる編成により行われている。3編成が機器を積め、U007編成と、U009編成(ともに800系1000番台)は軌道検測用の装置を、またU008編成(800系2000番台)は電力(架線)・信号・通信関係を検測する装置を積んでの検測が可能となっている。

 

検測を行う時には専門スタッフが同乗し、回送列車として運行される。

 

JR東日本 山手線E235系電車ほか

↑山手線を走るE235系の一部にもすでに線路設備をモニタリングする機器が搭載され、常日ごろから検査が行われている

 

2020年度中、70%の路線の線路設備のモニタリングを開始

前回のJR編で紹介したようにJR東日本では在来線の検測用にE491系、キヤE193系という専門車両を所有している。とはいえ2車両しかなく、在来線の全路線を頻繁に走り回ることが難しい。そこでJR東日本では2012年から一般の旅客車両に検測装置を積んで、線路の状況などが常に監視できないか研究を進めてきた。

 

「線路設備モニタリング装置」と呼ばれる遠隔監視システムで、すでに山手線を走るE235系の一部の車両には搭載されている。2020年度にはカバーできる線路を50線区までに広げて、走る車両に機器を搭載してモニタリングを始める。このことで70%の路線をカバーできるとされる。

 

同装置は例えば時速130kmで走りながら枕木1本1本の状態を確認、画像データが集められる。こうした装置により日ごろから軌道のチェックを行い、保線作業に有効に役立てているわけだ。

 

JR九州 811系電車「RED EYE」

↑811系リニューアル車(写真)の2編成を利用する。4Kカメラを搭載した車両は「RED EYE」と名付けられた

 

この春から鹿児島本線を中心に検測作業を開始

JR九州が2020年4月1日から使用開始した検測システムも画期的だ。「列車巡視システム」と「電車線路モニタリング装置」が鹿児島本線などを走る近郊形電車811系に取り付けられた。同機能を利用して、線路のチェックや建築限界の確認、電力(架線)検測を行う。

 

2編成のうち後者の「電車線路モニタリング装置」を積む車両は、車上4Kカメラを搭載して架線や電気設備のチェックなどを行う。搭載する車両は「RED EYE」という愛称が付けられた。通常の811系リニューアル車とは、デザインがやや異なり、正面の「CT」マークが赤に、また運転席下に「RED EYE」の文字が入る。走ることにより得られた動画などのデータは専門のオフィスに自動転送、机上でのチェックを可能にしている。

 

JR東日本、JR九州とも専門スタッフが乗車しなくとも、旅客車両で検測を行うことができる。また電気計測車両「はかるくん」を利用する近畿日本鉄道も、2019年からは「新型軌道検測装置」を一部の列車に搭載。装置からレーザーを照射して線路のゆがみを検測している。検測車両とともに、こうした旅客車両が集めたデータを多く利用することにより、安全な運行に役立てようというわけである。

 

こうした設備が今後は各鉄道会社に多く導入されていくことになりそうだ。

 

旅客車両を使っての架線検測も広まっている

通常の旅客車両を使って電気設備や架線検測を行うこともすでに多くの会社により始められている。

 

その中でも多くの会社に導入されている機器が、明電舎が製造する架線検測装置。「カテナリーアイ」という愛称が付けられている。すでに京浜急行電鉄600形や、京成電鉄3000形、山陽電気鉄道3000系などの多くの車両に搭載され、そのデータが生かされている。

 

私たちが何気なく乗車している車両にも、こうした検測装置が積まれている場合が多くなってきている。専用車両に頼ることなく日頃から頻繁に架線や線路のチェックを行う時代となりつつあるわけだ。

 

JR貨物HD300形式901号機ハイブリッド機関車

↑HD300形式901号機に検査機器が搭載され、広大な貨物駅構内の保線に活かそうとテストが始められている

 

現在テスト中! 広大な貨物駅構内の検査に威力を発揮しそう

鉄道貨物輸送に欠かせないのが拠点となる貨物駅。広大な貨物駅構内では、貨物列車の発着や、貨車の入換え作業が頻繁に行われる。こうした貨物駅はとにかく敷地が広い、さらに貨物列車はかなりの重量があり、線路は長く使う間にゆがみが生じやすい。保線要員によるチェックでは限界があった。

 

そこで機関車に実際に「動的軌間・平面性測定装置」を搭載しての試験が始められた。鉄道総合技術研究所が同装置を開発、走る時にレーザー光を線路に照射し、カメラで撮影した軌間のレール形状を画像処理して検測などに活かす。テストに使われるのは入換機HD300形式901号機で、新装置が搭載されてテストが続けられている。この装置ならば、車両の荷重がかかった状態で検査することができ、レールのゆがみの程度(軌道変異)が、より正確な計測が可能になる。すでに2020年の2月初旬に新鶴見機関区構内での走行試験が行われた。今後、実用化に向けて精度を高め、耐久性試験が進められていく。

 

 

【保線用検測車両】

保線用の検測車両を最後に見ていこう。多くの鉄道会社では保線用の軌道検測車と架線検測車を導入し、活かしている。保線用車両は専用の検測車両とは異なり、列車が走らない深夜の時間帯に走って検測が行われる。高速で走る専用車両にくらべて低速なために、1日の検査区間は限られているが、出動の頻度を高めればカバーすることが可能となる。

 

鉄道路線では、こうして検測専用車両や、検測機器が付いた旅客車両、加えて保線用車両を使って線路や架線の保守点検を日々、行っているわけである。

↑都営地下鉄線で使われる保線用の「電気検測車」。東京都交通局では「軌道検測車」も用意して検測作業を行っている

 

 

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