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2020/6/14 19:05

今も各地で働き続ける「譲渡車両」に迫る〈元JR気動車の場合〉

〜〜全国の私鉄・三セク路線を走る譲渡車両その1 気動車〜〜

 

5月中旬、千葉県を走る小湊鐵道にJR東日本のキハ40系気動車が譲渡された。あっという間に情報が広まり、沿線に多くの人が集まった。コロナ禍のさなか、ファンが集中したということもあり話題となった。

 

こうしたJRや大手私鉄の車両が、地方の鉄道会社に譲渡されるケースは意外に多い。今回は、どのような車両が他の鉄道会社に譲渡され、今も活躍しているのかを追ってみた。まずは元JRの気動車の“働きぶり”から見ていこう。

 

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【注目の譲渡車両①】行く先々で人気となる元JRの気動車

↑2020年春まで只見線の主力車両として活躍したキハ40系。引退した一部が小湊鐵道へ譲渡され、注目を集めた

 

車両の寿命は25年から40年ぐらい。使われ方により、だいぶ差があるものの、一定の年数を経ると、引退となり、多くの車両が廃車という道をたどる。JRグループや、大手私鉄の車両は、比較的、早めに引退することが多い。ここ数年は、新車の導入が増え、それに合わせて、古い車両は徐々に引退となる。

 

ところが、引退車両を廃車するためには費用がかかる。一方、譲渡となれば、金額の差こそあれ、譲渡費用を受け取ることができる。車両を譲渡される側も新車を導入するのに比べれば、割安に車両が導入できるわけだ。

 

さらに現役当時に人気があった車両を譲ってもらい走らせれば、利用客増加にもつながる。今回の只見線のキハ40系のように、注目を浴びた車両ならば、導入した小湊鐵道としてもPRになる。譲渡車両は、譲る側も、譲られる側もメリットが大きいわけだ。

 

譲渡車両は、これまで東南アジアへ輸出されるケースも多かったが、東南アジア諸国も新線を計画する国々が増えている。そのため譲渡車両よりも、新造車両を導入するケースが目立つようになってきた。譲渡車両の流れは海外よりも、国内へ向かう傾向が強まってきたように見える。

【注目の譲渡車両②】希少車両を利用客増加に役立てたいすみ鉄道

◆キハ28形・キハ52形(JR西日本→いすみ鉄道)

↑キハ28形(前側)とキハ52形の組み合わせで走る「急行列車」。いすみ鉄道の看板列車だ。キハ52形は現在、国鉄一般色に塗装を変更

 

譲渡車両を最も有効に生かした例といえば、千葉県を走るいすみ鉄道であろう。前任の社長がレトロな車両の運行にこだわったこともあり、ちょうど、引退しようとしていた国鉄形気動車を譲り受け観光列車に仕立てた。

 

車両はキハ28形と、キハ52形の2両である。いずれも、国内で稼働できる車両は、いすみ鉄道の車両のみで、非常に貴重な車両となっている。キハ28形はキハ58系の一形式で、1960年代に大量に製造され、幹線およびローカル線の急行列車に使われ活躍した。昭和の鉄道を知る世代にとって、非常に懐かしい車両だ。

 

一方のキハ52形は、普通列車用に造られたキハ20形を勾配路線用にエンジンを強化したタイプで、いすみ鉄道へやって来る前には、大糸線のJR西日本区間、糸魚川駅〜南小谷駅(みなみおたりえき)間を走った車両だった。

 

こうした歴史を持つ車両にこだわって譲り受けたわけで、その効果は大きかった。

 

いすみ鉄道では2両を「急行列車」として運用。車内で食事が楽しめるレストラン列車としても運行している。ヘッドマークには土曜日は「夷隅(いすみ)」、日曜日は「そと房」、祝日はヘッドマークなし、と何とも心憎い演出をしていて、鉄道ファンを喜ばせている。

 

【注目の譲渡車両③】第3のご奉公先という古参の気動車が走る

◆キハ20形(JR西日本→水島臨海鉄道→ひたちなか海浜鉄道)

↑2019年秋に塗装し直されたばかりのキハ205。週末に勝田駅〜阿字ケ浦駅を1〜2往復するのみと貴重な運行なため注目度が高い

 

いすみ鉄道とともに譲渡車両を活かしているのが、茨城県を走るひたちなか海浜鉄道だ。ひたちなか海浜鉄道で注目を集めるのがキハ20系20形(同社での形式名はキハ205)だ。このキハ20系、ローカル線の無煙化に貢献した車両で、製造されたのは1957年〜1966年。1126両と大量の車両が造られた。

 

ひたちなか海浜鉄道のキハ20は、国鉄とJR西日本、JR四国から、岡山を走る水島臨海鉄道に譲渡された13両のうちの1両で、水島臨海鉄道時代に冷房装置が取り付けられた。1996(平成8)年にひたちなか海浜鉄道の前身、茨城交通に移籍し、それが現在の会社に引き継がれた。ちなみにキハ20形の現役車両は、現在では同社の1両のみで、貴重な存在となっている。半世紀以上、鉄路を走り続ける姿は、それこそ走り続ける“歴史の証人”と言って良いだろう。

 

キハ205は、2019年に塗り替えられ、きれいな姿で路線を走る。運行は週末(必ず走るとは限らない)に数往復といった非常に限られていることもあり、貴重な走行日に、同線を訪れる人が目立っている。

 

◆キハ11形(JR東海・東海開発事業→ひたちなか海浜鉄道)

↑ひたちなか海浜鉄道のキハ11形。写真のキハ11-6はJR東海の関連会社にあたる東海交通事業の城北線を走っていた気動車だ

 

ちなみにひたちなか海浜鉄道では、ほかにもJR東海と関連会社からの譲渡車両が使われている。キハ11形3両で、1両はJR東海から、残り2両は、JR東海の関連会社、東海交通事業の車両だった。東海交通事業は名古屋市近郊を走る城北線を運行する会社で、非電化の路線のため、このキハ11形が使われていた。

 

【注目の譲渡車両④】残るのはここだけ! 水島臨海鉄道の気動車

◆キハ30形・37形・38形(JR東日本→水島臨海鉄道)

↑国鉄標準色のキハ38形と水島臨海色のキハ37形が連結された朝の列車。同社でもこうした色の異なる車両の連結風景は珍しい

 

JR東日本の気動車を導入して生かしているのが、岡山県を走る水島臨海鉄道だ。同路線はJR貨物の資本が入ることもあり、JRグループと関わりが強い。現在も貨物列車がJR山陽本線との相互乗入れを行っている。同社は古くからJRの譲渡車両を多く導入してきた。

 

現在、主力車両にはMRT300形を使用しているが、ほかに国鉄形のキハ30形を1両、キハ37形を3両、キハ38形1両を所有している。この5両は、すべてJR東日本の久留里線を走っていた車両だ。久留里線では2013年に新型車両を導入したが、余剰となった気動車を、水島臨海鉄道が譲り受けた。

↑キハ30形は、1961年〜1966年に造られた。正面は装飾のない平坦な姿で、当時の国鉄の車両づくりの傾向がうかがえる

 

キハ37形とキハ38形は、国鉄時代に新造された車両で、造られた車両数が少ない。キハ37形は5両、キハ38形は7両のみ造られた。元々少なかったこともあるが、現在、残る車両は水島臨海鉄道の計4両のみ。

 

一方のキハ30形は各地の通勤・通学用に使われた車両で、この車両も稼働できる車両は水島臨海鉄道の1両のみとなっている。同社ではキハ37形とキハ38形は、朝夕の利用者が多い時間帯に運用、一方、キハ30形は主にイベント開催日の列車などに使われている。

 

いずれの形式も貴重な車両だけに、末長く走り続けてほしいものである。

 

【注目の譲渡車両⑤】ちょっと残念な錦川鉄道のキハ40

◆キハ40形(JR東日本→錦川鉄道)

↑導入された当時のキハ40-1009。座席はロングシートながら、テーブルが設けられ、観光列車として走れるように改造された

 

山口県を走る錦川鉄道にも、元JR東日本のキハ40形が譲渡され、在籍している。同車両は1982(昭和57)年製で、栃木県内を走る烏山線(からすやません)を2017年3月まで走っていた。3300万円で購入(輸送費込み)と発表されている。

 

譲渡車両の金額は、明らかにされないケースが多いが、同鉄道会社は第三セクター経営で、自治体が経営に加わっていることもあり、公にされた。新型車両は1両が1〜2億円とされているだけに、この金額ならば、地方鉄道にとっても手を上げやすい金額と言えそうだ。

 

この錦川鉄道のキハ40系は、内部を改造、レトロ調車両としてイベントや貸切列車として運行されている。

 

ただ、この鉄道会社のキハ40は他社の譲渡車両に比べて注目度が低いように思える。その理由としては、錦川鉄道が大都市圏から遠いこと。中国地方を走るJR西日本のローカル線には、まだ同形のキハ40が多く走ること。そうした理由もあって、譲渡されたキハ40があまり目立っていないように見える。ちょっと残念だ。とはいえ、烏山線当時の塗装は、同線の現役のころを知る者としては懐かしく感じることも事実だ。

 

【注目の譲渡車両⑥】装いを一新した道南いさりび鉄道のキハ40

◆キハ40形(JR北海道→道南いさりび鉄道)

↑濃緑色のキハ40形1810号車。道南いさりび鉄道に引き継がれたキハ40すべてが塗装変更され多彩なオリジナルな車体色が楽しめる

 

新幹線の路線延長により、JRの在来線が第三セクター鉄道に引き継がれるケースが多い。こうした路線では、それまで走り続けてきたJRの車両がそのまま新会社へ引き継がれるケースが目立つ。

 

2016年3月26日に開業した道南いさりび鉄道。元JR津軽海峡線の五稜郭駅と木古内駅間を引き継いだ。

 

引き継がれたのはキハ40形で計9両。すでに新会社発足から4年たった。キハ40形はすべて同社オリジナル色に塗装し直され、一部の車両は内装も変更している。塗装は山吹色、濃緑色、白、赤ほか、国鉄首都圏色、国鉄急行色とバラエティに富む。

 

外観こそキハ40だが、こうしてバラエティに富んだ姿を見ると、JRと異なる鉄道会社らしくなりつつあることが実感できる。塗り替えにより新たなイメージの発信をし続ける同社に好感を覚える鉄道ファンも多いのではないだろうか。

 

【注目の譲渡車両⑦】種車はキハ40形という会津鉄道の展望車

◆キハ40形(JR東日本→会津鉄道)

↑会津鉄道のお座トロ展望列車。会津若松駅側に展望タイプのAT-400形が連結されている

 

会津鉄道の観光列車「お座トロ展望列車」。使われるのはAT-400形とAT-350形だ。AT-400形は展望タイプの車両で、AT-350形はガラス窓が取り外せるトロッコタイプだ。このAT-400形、正面と側面が大きなガラス窓となっている。この車両は果たして元は何だったのだろう?

 

AT-400形は2003年にJR東日本のキハ40形を購入、改造を施した車両だ。観光用の展望型車両に大改造したのである。

 

3分の1ほど床を高くしたハイデッカータイプに、3分の2がお座敷席の一般室と改造された。当時、国鉄形車両を改造したジョイフルトレインが流行したこともあり、そうした大胆に改造した車両も多かった。一見しただけでは、この車両がキハ40とは分からないが、AT-350形と連結する側に、キハ40の面影が残る。

 

【注目の譲渡車両⑧】JRからJRへ異色の譲渡車両キハ185系

◆キハ185系(JR四国→JR九州)

↑久大本線を走る特急「ゆふ」として利用されるキハ185系。背景は湯布院のシンボル由布岳。赤い列車が走る風景が魅力となっている

 

JRからJRに譲渡された気動車がある。こうしたJR間での譲渡という例は珍しい。そんな貴重な例がJR九州のキハ185系だ。

 

キハ185系は国鉄最晩年の1986(昭和61)年、JR四国用に開発した車両だ。JR四国ではその後に、山岳路線に強い2000系気動車を開発したことから、キハ185系が余剰となった。そんなキハ185系をJR九州が20両を買い取った。

 

その後のJR九州の車両の活かし方が興味深い。JR九州では赤と銀、または赤一色と華やかな色に塗り替えた。2両は特急「A列車で行こう」といった改造を施して、観光特急として生かしている。譲渡車両の元のイメージを大きく変えて、上手く生かした例と言って良いだろう。

 

【注目の譲渡車両⑨】全国の鉄道会社で重宝がられるDE10形

◆DE10形ディーゼル機関車(JR各社→真岡鐵道、東武鉄道など)

↑真岡鐵道のDE10もSLもおか号の運行に欠かせない。車庫のある真岡駅と下館駅間のSL列車の回送に利用されている

 

最後はディーゼル機関車の譲渡を取り上げておこう。JRから私鉄や臨海鉄道などへの譲渡されるケースが多いのがDE10形ディーゼル機関車だ。

 

DE10形ディーゼル機関車は国鉄により1966(昭和41)年から1978(昭和53)年までに計708両が製造された。ディーゼル機関車として万能タイプで、貨物駅構内での貨車の入換、短距離区間の貨物列車の牽引、さらにローカル線区での旅客列車の牽引などに使われてきた。

 

JR各社にその多くが引き継がれた。車両が造られてからすでに半世紀以上たち、JR東海ではすでに全車両が引退、またJR貨物でも新造機関車の導入で、活躍の場がせばまりつつある。一方で便利に使えるところが重宝がられ、今も多くが使われ続ける。

 

こうした万能タイプの機関車ということもあり譲渡される車両が多い。秋田臨海鉄道や衣浦臨海鉄道(愛知県)や、貨物専用鉄道の西濃鉄道(岐阜県)といった会社では国鉄清算事業団からDE10を購入している。

↑東武鉄道のSL大樹を後押しするDE10。東武鉄道では2両のDE10を所有しており、SL列車の運行をサポートしている

 

さらに真岡鐵道や、東武鉄道はSL列車を運行する時の補助役としてDE10を導入している。またわたらせ渓谷鐵道や嵯峨野観光鉄道では、トロッコ列車の牽引用にDE10の譲渡を受けている。

 

東武鉄道といった大手私鉄が、SL列車用とはいえ、JRから車両を譲り受けるのは異例といって良いだろう。ちなみに東武鉄道では、2両のDE10をJR東日本から譲り受けているが、1両の車両は、JR北海道で活躍した特急「北斗星」の塗装を施して導入された。今後、どのような姿で列車の牽引に関わってくるのか、注目されるところだ。

 

これまで見てきたように、JRからの譲渡車両は、譲渡された先でも、さまざまな姿で利用されている。長期間にわたって活躍する姿を見る、また乗ることは、鉄道好きにとっては無常の楽しみだろう。末長く、こうした車両が活かされることを願いたい。

 

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