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2020/8/23 18:30

今も各地を走り続ける東急「譲渡車両」を追う〈東日本版〉

【注目の譲渡車両②】元東急電車が「いい電」となって福島を走る

◆福島県 福島交通1000系(元東急1000系)

↑元東急1000系の中間車を改良した福島交通1000系。正面に「いい電」のヘッドマークが付く。同タイプが他の私鉄にも導入されている

 

福島市の福島駅と飯坂温泉駅を結ぶ福島交通飯坂線。主力電車は1000系で、元東急の1000系が元となっている。

 

東急1000系は1988(昭和63)年12月に登場したステンレス製の電車で、世界初の制御方式を採用していた。すでに東横線の1000系は引退したものの、池上線・東急多摩川線では、今も主力として走り続けている。

 

福島交通に導入された1000系は、2両×4編成と、3両×2編成の合計14両。既存の7000系(元東急7000系)の置き換え用として導入された。

 

福島交通の1000系は、元東急1000系とは正面の形が異なる。元東急1000系の中間電動車を東急テクノシステムが改造した電車で、非貫通タイプの運転台が取り付けられた。主回路にはVVVFインバータ制御方式が使われている。福島交通にとって、始めての同方式の採用で、省エネ型電車として役立てられている。さらに車両の長さが18m(3扉車)と、東京の都市部を走る電車の平均的な長さ20m(4扉車)よりも短いことから、地方の私鉄路線では扱いやすい車両サイズとなっている。

 

ちなみに、同タイプの中間車を改良した1000系は、ほかに上田電鉄(長野県/詳細後述)や、一畑電車(島根県)にも導入されている。姿形はほぼ同じで、デザインや機能を共通化した地方の私鉄向け電車といって良さそうだ。

 

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【注目の譲渡車両③】秩父では東急出身の3タイプが走っている

埼玉県内を走る秩父鉄道。ここでは東急8500系、8090系を元にした3タイプの電車が使われている。線路がつながり、電車の甲種輸送まで行う東武鉄道の車両を導入せずに、あえて東急の電車を利用しているところが興味深い。

 

◆埼玉県 秩父鉄道7000系(元東急8500系)

↑元東急8500系は秩父鉄道では7000系として運用されている。秩父鉄道の元東急電車はみな先頭に緑色と黄色のグラデーション模様が付く

 

2009(平成21)年3月から運行を開始した秩父鉄道7000系。元は東急の8500系である。8500系は、1975(昭和50)年生まれで、主に田園都市線と、乗り入れる東京メトロ半蔵門線、東武伊勢崎線、そして大井町線を走った。新造当時、通勤電車の技術を集約した車両とされ、鉄道友の会からローレル賞を受賞している。車両数も多く400両が造られた。すでに導入されてから40年以上になる。

 

東急田園都市線では新型車両の導入が進み、徐々に減りつつあり、引退が近づきつつあるが、立派なご長寿車両と言って良いだろう。ちなみに筆者も最近、同車両に乗車したが、エアコンに加えて首振り扇風機が天井に付いた車両が走っていて、懐かしく感じられた。

 

秩父鉄道へ譲渡されたのは3両×2編成。本来は同車両が多く譲渡される予定だったが、東急からの提供車両の予定が変更され、この車両数にとどまっている。

 

◆埼玉県 秩父鉄道7500系(元東急8090系)

↑秩父鉄道7500系。写真は秩父鉄道のオリジナル塗装車両。7500系のラッピング電車も出現している

 

7000系(元東急8500系)が計6両にとどまっているのに対して、今や秩父鉄道の主力電車となっているのが、7500系と7800系である。元となった電車は両形式とも東急の8090系だ。

 

8090系は1980(昭和55)年12月に登場した。この車両も意欲的な電車だった。日本初の量産ステンレス軽量車体を採用している。強度を保ちつつも、従来のオールステンレス車両よりも、1両で2トンほど軽量化、編成全体で8%の軽量化を実現した。当時は、まだ鉄道業界では縁が薄かったコンピューター解析による車体設計が行われたとされる。90両が製造され、当初は東横線を、さらに田園都市線や大井町線を走った。本家では徐々に車両数が減っていき、昨年2019年、静かに引退を迎えている。

 

車両の軽量化を実現した8090系だったが、2010年以降から秩父鉄道に譲渡された。形式は7500系と7800系に分けられる。7500系は3両編成、7800系は2両編成で運行されている。正面の形が少し違うので、ここでは分けて紹介しよう。まずは7500系から。

 

7500系は元東急大井町線を走っていた8090系で、5両編成を3両に短縮するにあたり、パンタグラフの位置の変更などの改造を受けている。車体の帯も側面に緑色、正面は緑色と黄色のグラデーション模様が入る。色が異なっているものの、外観は東急当時の8090系のままを保っている。すでに3両×7編成と秩父鉄道の電車の中では大所帯となった。

 

◆埼玉県 秩父鉄道7800系(元東急8090系)

↑秩父鉄道7800系は元東急8090系の2両編成タイプ。中間車を改造したため、正面のデザインが7500系と大きく異なっている

 

秩父鉄道にやってきた元東急8090系。東急大井町線を走っていた頃は5両で走っていた。秩父鉄道に譲渡されるにあたり、5両のうち3両がまず7500系に改造された。残りの2両を使って編成されたのが7800系である。中間車を改造、運転台を設けたため、顔形が7500系と異なっている。

 

7500系は8090系のオリジナルな姿そのままで、正面に傾斜が付いた顔形。一方の7800系はほぼ平面で、連結側の平坦な妻面を利用したことが分かる。運転台の窓部分がブラックに塗装され、7500系に比べると、やや渋くなった印象も。7800系は2013年から走り始め、2両×4編成が運用されている。

 

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