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2020/12/22 6:00

誕生は必然ーー電動式ハーレーダビッドソン「ライブワイヤー」を写真多めで解説

2019年に本国・アメリカで先行発売された電動ハーレーダビッドソン「ライブワイヤー(LiveWire)」。ハーレーファンはもちろん、多くのバイクファンの間では「まだか、まだか」と日本モデルの登場を心待ちにする声が多かったのですが、2020年12月ついに初お目見えとなりました。

販売がスタートするのは2021年2~3月で、輸入状況次第で前後することもあるようですが、これに先立ちライブワイヤーの実車を見てきました。これまで、高排気量・V型2気筒のガソリンモデルが基本だったハーレーダビッドソン。最新テクノロジーの投影によって誕生した電動モデル・ライブワイヤーがどんなものなのか。その全体像を紹介します。

【ハーレーダビッドソン「ライブワイヤー」を写真で先見せ(画像をタップすると拡大画像が表示されます)】

 

オートマチックモデルで、車検はない

電動の細部に入る前に、まずは外観と概要を見ていきましょう。全長は2135mm、シート高は795mm、重量255kgと、従来の高排気量バイクと大差はないものの見ての通りスポーツスターやH-Dストリートのように軽快でスポーティな走りを感じさせるモデルに仕上がっています。

 

実際に筆者もまたがってみましたが、ライディングポジションが結構前屈み。正直やや恐怖感を抱いたところもありますが、同時にストップ&ゴーが繰り返される街中ではなく、ロングライド時であればこのポジショニングによって体の負担が少なく、軽快に走れそう。デザインはハーレーダビッドソン社のベン・マッギンリーという若手デザイナーが創案しました。2021年からの販売ではオレンジヒューズ、ビビッドブラックの2カラーが展開され、いずれも希望小売価格は349万3600円(税込)となっています。

↑ライブワイヤー・オレンジヒューズ

 

↑ライブワイヤー・ビビッドブラック

 

ライブワイヤーはギアチェンジのないオートマチック車。免許区分は「大型自動二輪車免許」または 「大型自動二輪車免許(AT限定)」 です。また、電動バイクなので車検はありません。しかし、安全・快適に乗るためにはディーラーでのメンテナンスが必要になります。メーカー側では、初回1か月または800km走行のどちらかのタイミングでの初回点検に加え、定期的な点検を推奨しています。

 

スロットルを開けた瞬間、100%のトルクを実現!?

次に完全電動化の細部を見ていきましょう。まず、目を引くのが心臓部に備えられた黒く巨大な高電圧バッテリーです。

↑ボディ中央の黒い部分がライブワイヤーの巨大バッテリー。その下のシルバーの箇所にモーターが配置されています

 

このバッテリーは、これまでのハーレーダビッドソンのシンボルでもあったVツインエンジンの位置に装備されているもので容量は15.5kWh。スロットルを開けていない起動時には、回生充電され、一度の充電で最大235kmの走行が可能。さらに高速道路での連続航続距離は最大152kmとなり、東名高速で言うと、東京インターチェンジから静岡市内までを走りきることができます。

 

保証面も大丈夫。新車購入後から5年間、バッテリーには走行距離無制限の保証が付帯されるとのことで、安心して維持できそうです。

↑ライブワイヤーには2つの充電方式があります。夜間や自宅での普通充電は、ガソリンタンク代わりのトップ部のソケットに繋いで行います。約12.5時間で、0%~100%までのフル充電が可能

 

↑もう1つの充電方法は、外出先などでの急速充電。付属充電ケーブルをシート下のソケットに繋いで行います。約40分で0~80%の高速充電、約60分で0~100%の満充電が可能

 

↑急速充電は、出先のサービスエリア、パーキングエリア、道の駅などでも手軽に行うことができます

 

電動モーターモビリティの一番のワクワクポイント、同時に恐ろしいのが大トルク。内燃機関の乗り物は、いきなり最大トルクに到達することはないわけですが、このライブワイヤーはスロットルをひねった瞬間、一気に100%のトルクを発揮します。

↑スロットルをひねった瞬間にフルパワーの出力に至るライブワイヤー

 

約3秒でいきなり時速100キロに到達することもできるとのことで怖くなった筆者でしたが、安全装置的なロック機能があり、リミット設定もかけられるとのこと。ホッとしました。

 

ところで、ハーレーダビッドソンはもちろん、バイクの醍醐味の一つがエキゾーストノート……つまり排気音なのですが、ライブワイヤーは電動式なので排気ガスが出ません。こうなると、魅力が薄いのでは?と思うかもしれませんが、そこはバイクファンの心情をわかっているハーレーダビッドソン。エキゾーストノート代わりとして、モーター音があえて出るように設計しています。

 

タッチスクリーンで、7つのライドモードを選べる

↑ハンドル中央に装備されたタッチスクリーンにより、乗り味の異なるモードを操作できる仕組み

 

ライブワイヤーは完全電動であるがゆえ、ハンドル中央に装備されたタッチスクリーンによって、個体の全てを把握、操作できるのも特徴です。スピードメーター、バッテリー残量がわかるほか、本モデル特有のライドモードを選ぶことができます。

 

ライドモードには、4つのプログラムモード、3つのカスタムモードがあり、それぞれの特徴は下記になります。

1.スポーツモード
ライブワイヤーの潜在的な性能を、ダイレクトかつ正確に引き出し、 フルパワーと最速のスロットルレスポンスを可能にするモード

2.ロードモード
日常的に使用するための技術をブレンドし、ライダーにとってバランスのとれたパフォーマンスを発揮するモード

3.レインモード
抑制された加速と限定された再生を実現。より高いレベルの電子制御介入を強調するモード

4.レンジモード
スロットル入力に対してスムーズかつ的確なレスポンスを実現するためのセッティングをブレンド。高いレベルでのバッテリー回生を行い、走行距離を最大限に引き出すことができるモード

5.カスタムモード(3種類)
ライブワイヤーをオフにした状態で、タッチスクリー ンにA、B、C と表示されるカスタムモードを最大3つ作成することが可能。パワー、回生、スロットルレスポンス、トラクションコントロールのレベルを特定の範囲内で組み合わせて選択することができます

 

このように自分のライディングスタイルに合わせて、最も相応しいモードに設定すれば、より快適な運転を楽しめるのもライブワイヤーの特徴でもあります。

↑その気になれば、ポテンシャルを最大限発揮できるのも特徴。2020年9月にアメリカ・インディアナポリスで開催されたドラッグレースでは、ライブワイヤーは市販電動バイクの最速記録を樹立しました(200m=7.017秒、400m=11.156秒、時速177.6km)

 

バイク本来の機構も、細部にまでこだわりが!

↑バイク本来が持つ機構も、細部にわたってこだわり抜かれたライブワイヤー

 

ここまで主にライブワイヤーの電動システムの特徴を紹介しましたが、では肝心のバイク本来が持つ機構はどうなっているのでしょうか。まず、フレームには鋳造アルミが採用されており、バイク全体の軽量化に寄与しながら、もちろん強度を高めています。

↑ボディを支える艶消しブラックのフレームは、鋳造アルミによるもの

 

そして、乗り味と確実な制御機能を実現させるためフロントに、SHOWAによるSFF-BP(フルアジャスタブル倒立フロントフォーク)、リアにBFRC-lite(フルアジャスタブルリアショック)が採用されています。さらにフロントブレーキのキャリパーはBremboのMonoblockを採用。300mm径のデュアルローターをしっかりグリップしてくれます。

↑SHOWAのフルアジャスタブルリアショックを搭載したリア付近。もちろん好みの伸び側減衰力に調整することができます

 

↑SHOWAのフルアジャスタブル倒立フロントフォークに付随する足回り。Bremboのキャリパーを採用

 

さらにライブワイヤーのためにミシュランが特別設計したScorcher Sportタイヤが履かれており、コーナリングでのグリップも十分。あらゆるライドでスタビリティーを発揮します。

↑ミシュランによるライブワイヤーのためのタイヤ、Scorcher Sport。フロントが17インチ×120、リアが17インチ×180

 

そして、最後。忘れちゃいけない気になるフロントとリアのルックスです。まず、フロント極めてシンプルなライト周りですが、ウィンカーなどの保安部品の細部がどことなくレーシーな印象を与える一方、ミラーはこれまでのハーレーに多かった段のついたケースのものを採用。このフロントから温故知新を具現化したような印象を受けました。

 

さらにリアはナンバープレートの両サイドにウィンカーを、フェンダーを支えるフレームにストップランプを配置。極力出っぱらさせないよう、細部まで工夫が施されています。これら無駄な装飾をせず、どことなくあえて無骨さを残している点は、ハーレーダビッドソンの流儀のようにも感じた筆者でした。

↑極めてシンプルなフロント周り

 

↑これ以上はありえないことをわからせてくれるほどの、極めてシンプルなリア周り

 

賛否両論というより必然だった電動ハーレー

ここまで、電動ハーレーダビッドソン・ライブワイヤーの全体を見てきましたが、最後にハーレーダビッドソン ジャパン・プロモーションマネージャーの大堀みほさんに、ライブワイヤー開発の背景について話を聞きました。

↑ハーレーダビッドソン ジャパン・大堀みほさん。プライベートではハーレーダビッドソンの「スポーツスター」を愛用されているとのこと

 

ーー言うまでもなくバイクファンにとって、ハーレーダビッドソンは特別なメーカーです。電動バイク・ライブワイヤーの開発には賛否両論があったのではないかと思うのですが。

 

大堀みほさん(以下、大堀) それが、本国では面白い事態が起きているんですよ。ライダー歴が浅い人、バイクには造詣がなかったけど、ガジェット好きでこれを機にバイクやハーレーダビッドソンに興味を持つ人が増えているようです。従来の「ハーレーダビッドソンの空冷エンジンが好きだ」という流れはこれからも続くと思いますが、一方でハーレーの創業時から続く「変革を恐れない」というこだわりは、ライブワイヤーにも現れていると思っています。

一般的に、ハーレーダビッドソンと言うと、「アメリカンでドコドコとゆったり走る」イメージがあるかもしれませんが、実際には様々なモデルがあり、各モデルそれぞれにファンが存在しています。なので、今回のライブワイヤーは賛否両論の末というより「新しいバイクの楽しみを提供する」という意味で必然的に開発されたと思っています。

 

ーーその「変革」には時世的な影響もあったのでしょうか。日本国内の四輪では2000年代から電動自動車が浸透し始め、最近では「2030年にガソリン車の新車を廃止する」という政府の方針も発表されました。

 

大堀 社会的な流れはもちろん意識しています。排出ガスに対する取り組みは四輪が先立って行っていますが、その波は二輪メーカー各社にも来ています。いわゆるSDGsのように持続可能社会を考えていかないことには企業は生き残っていけませんので、そういった意味でライブワイヤーを開発した経緯はあります。

しかし、バイクというのは「乗ってみて面白い」「カッコ良いものに乗りたい」というものでないと淘汰されていってしまうと思うんですね。バイクをただの足として考るのであれば、スクーター、自転車など代替品は他にもあると思いますし。しかし、「ハーレーダビッドソンに乗りたい」と思ってくださるお客さまに対して、前述のような社会的なことを意識しつつ新しい価値の提供をするということで、今回のライブワイヤーの開発に至ったところがあります。ですから、見ていただいた通り機能面だけでなく、デザイン面にもすごくこだわったモデルです。

まだ発表したばかりのライブワイヤーですが、このモデルを通してバイクの新しいライディング体験を提供できるとも思っています。ぜひ機会がありましたら、店頭へのご来店や、今後実施予定の試乗会などにお越しいただき、ライブワイヤーに触れていただければ嬉しいです。

↑2021年の発売より、日本のバイク市場でのライブワイヤーの席巻が始まる予感がしました

 

電動ハーレーダビッドソン、ライブワイヤーは未来を見据えた同社の新しいバイクの提案であり、この試みがバイク市場全体にも連鎖するようにも思いました。環境、機能、ルックスとも三方ヨシのライブワイヤー。ぜひ機会があったら触れてみてください!

 

撮影/我妻慶一