コマツ ダンpresentsぶった切りバイク批評 第四回
GSR250のベーシックモデル(※1)が登場した時、「なんだこのモッサリとしたデザインの不細工なバイクは」と心の中で思っていたのを覚えている。しかし、それから数年が経ち、何度もGSR250に乗る機会に恵まれたいまでも、スタイリングに関する印象こそ変わらないが、乗り味に関してはすっかり惚れてしまっている。普通自動二輪免許で乗れる枠のバイクにあって、他車とは一味違うインパクトをもつGSR250。今回はフルカウルモデルのGSR250Fを紹介しつつ、スズキブランド(※2)の独特な世界観をお伝えしようと思う。
※1)GSR250が日本で登場したのは2012年7月。250ccのバイクとしてはスタンダードなパッケージとしながら、スタイリングで目を引き寄せた。
※2)静岡県浜松市を本拠地とするスズキは、ホンダ、BMWと並ぶ、2輪車と4輪車の両方を手がける会社。海外での人気も高く、日本を代表するグローバルカンパニーのひとつだ。
ネイキッドモデルである最初のGSR250が登場したのは、2012年のこと。同社隼のエンジンを搭載した、スポーツネイキッドモデルである“B-KING”(※3)のイメージを受け継いだというデザインは、250ccクラスとしてはボリューミー。日本での登場よりも先に中国で販売され、のちに欧州、中南米の道も走るようになった、いわゆるグローバル戦略モデルである。
以前、GetNavi webの編集長を務める山田氏と仕事をともにしたとき、「GSRはカッコいいい」と言われて素直に首を縦に振れなかったことを覚えているが、日本国内のセールスを好調に伸ばした。私が旧時代人間であり、山田氏をはじめ、いまバイクに乗る人たちは「新人類感覚」(※4)を備えているのだと思わされた出来事だ。そんなGSR250は勢いを増し、ハーフカウルのGSR250S(※5)、そしてフルカウルのGSR250Fと派生モデルを充実させた。
※3)2007年に登場したネイキッドモデルで、1340cc四気筒エンジンを搭載。リアシート下の極太マフラーや大きな燃料タンクなど、独特なデザインで注目を浴びた。
※4)GSR250はもとより、ホンダのNM4や新型(4代目)プリウスを“カッコいい”と言う人たちのことを指す、私的造語。そっち側の気持ちも知っていないと売れるものが作れない。
※5)半端な感じもするが、ライダーが跨っているとまとまりがいい。S・F共通して言えるのは、フロントカウルの防風効果は見た目ほどではない、というのが個人的感想。
GSR250が登場した当時はカワサキ・Ninja250(※6)が大ヒットしており、追従する形でホンダがCBR250R(※7)を発表。250ccクラスのブームに火が付き始めたころで、カワサキはNinjaブランドの入門モデル、ホンダはCBRというスポーツモデルのイニシャルを250ccクラスで復活させた格好だった。どちらもカウル付きモデルだったのに対し、スズキが選んだのはネイキッドモデルであるGSRであり、他ブランドとの違いを明確に色づけた。
搭載する並列2気筒エンジンは、180度クランクとバランサーを装備しており、全域での低振動を実現。エンジンから伸びるエキゾーストパイプはボディの左右に振り分けられており、GSR250の特徴となっている。
やや大きめの車格を持ち、手前に伸びたアップハンドルとシートの位置関係が良く、本当に楽な乗車姿勢だ。ライダーとパッセンジャーとの段差も少なく、厚手に作られたシートやグラブバーの装備などは、タンデムでの使い勝手もしっかりと考えられているものである。一方のGSR250Fはフルカウルとなっており、高速道路を使ったツーリングでも走行風を軽減するため、疲労度も少なく快適なものとされている。
※6)2008年に登場したNinja250Rが、250ccブームの火付け役。現在は2気筒エンジンを搭載するNinja250とシングルエンジンのNinja250SLをラインアップしている。(写真は2008年モデル)
※7)2010年に登場した、いまのCBR250Rはシングルエンジンを搭載。80~90年代にヒットした4気筒エンジンのCBR250を知る旧時代ライダーを驚かせる結果に。つい先日、2気筒エンジンのCBR250RRが発表された。(写真は2011年モデル)
F(フルカウル)とS(ハーフカウル)モデルのフロントマスクは同形状。これを“カッコいい”と言うセンスが私にはわからないが、バカ売れした。カウルが着くことによってフロントヘビーになるため、個人的にはスタンダードの方が好み。
並列2気筒のエンジンは低回転から粘りがあり、とても扱いやすい。4気筒クオーターを知る世代にとっては「え? 2気筒? 2バルブ? だせえ……」と思えるが、この程度で十分だということだろう。時速100キロそこそこで巡行は可能。
250ccクラス唯一の左右2本出しマフラー。こういったところに高級感を魅せるのはスズキの得意技だ。軽い印象でスポーティさを求めるのではなく、厚みをもたせることで所有欲をくすぐる。スポーツ派としては「マフラー1本の方が軽くない?」と思ってしまう。
メーカーいわく“テールランプの外にクリアレンズで覆うダブルレンズ効果によって、高級感を表現している”というテールセクション。……、まあそれはいいとして、GSR250のデザインは節々に“イカ”っぽく見えるところがあるように思う。
大型でゴージャスな多機能デジタルメーター。アナログタイプの回転計を中央に置き、その脇にシフトインジケーター、液晶には速度計をはじめ、様々なインフォメーションを備える。視認性は良く、アップハンドルは至極楽なポジションを生む。
厚手のシートは長時間の乗車でも疲れにくい。パッセンジャーとの段差が少ないことや大き目のグラブバーが装備されるなど、タンデム走行も視野に入れた設計だ。フロントタンクの淵にウインカーが内蔵されている。
少し前のBMWが250ccクラスを作ったならば、こんな感じだっただろう
何度も書いて恐縮なのだが、スタンダードでもSでもFでも、スタイリングに関しての印象はいまだに否だ。だが、GSR250は最高に好きなバイクである。個人的にはカウルを装備するためフロントヘビー(※8)になるSやFよりも、ネイキッドモデルのGSR250が自然なコーナーリングを楽しめ、もっともバランスに優れていると感じる。
発表当時の“乗らず嫌い”だったころは、並列2気筒エンジンでこの車格だと、低速ではさもダルイ乗り物なのだろうと考えていたが、実際に乗ってみると低回転からしっかりしたトルクを発生し、街中で乗りやすさに驚いたことがある。高速での走りは安定しており、1日300キロ程度のツーリングをこなしても疲労度は少ない。ワインディングに持ち込めば、思ったラインをトレースすることができ、攻める楽しさも味わえる。総じて言えることは“秀でている部分こそないが、すべてにおいてソコソコ優秀”ということ。これには少し前のBMW的なバイク(※9)という印象を持っている。
今でこそ、スーパースポーツやメガスクーターなどその分野に特化したモデルを多数揃えるBMW。2000年前後までのモデルは、テクノロジー的に優れているものの、それをレースで勝つためや最高速を出すために使うのではなく、ライダーそのものの心に訴えかけてくるような気持ちよさに費やしていたように思える。尖った性能というよりも、トータルで見た場合にとてもいいバイクだと言えるものだった。そういった点がGSR250には感じられるのだ。
何にでも使えるがゆえバイクライフは充実し、長く楽しめるであろうGSR250。ビギナーやエキスパート、リターンライダーにも幅広く勧められる一台である。
※8)重量が車体の前方に集中し、バランスが悪いこと。4輪車の場合は、アンダーステア傾向が強まると言われることが多いが、2輪車の場合には一概にそうとも言えない。
※9)言わずと知れたドイツを代表するプレミアムモーターブランドのBMW。実は昨年、普通免許で乗れるG310Rというバイクが発表されている。日本への導入時期は未定。
SUZUKI
GSR250F
販売価格:51万4080円
エンジンタイプ:水冷4ストローク2気筒、2バルブ
ボアxストローク:53.5 mm x55.2 mm
排気量:248cc
最高出力:18kW (24 ps) / 8,500 rpm
最大トルク:22 Nm / 6,500 rpm
圧縮比:11.5 : 1
点火/噴射制御:フルトランジスタ式、フューエルインジェクション
寸法・重量:全長:2,145mm、全幅:790 mm、全高:1,255 mm
シート高:780mm
車両重量:189 kg
燃料タンク容量:13ℓ
タイヤサイズ:F 110/80-17M/C、R 140/70-17M/C
【URL】
GSR250F http://www1.suzuki.co.jp/motor/product/gsr250fl5/top