【SL大樹に注目③】人気のSL大樹の列車&車両の歩みをたどる
ここからは、せっかくの機会なので、SL大樹の歩みをふりかえっておこう。
SL列車の運転計画は今から5年前にさかのぼる。2015年8月10日にJR北海道が保有するC11形207号機を借り、東武鉄道鬼怒川線で運行することを発表された。ちなみに207号機は、かつて走った路線で濃霧に悩まされたことから、その対策として、前照灯を2つ付けている。通称“カニ目”という造りで人気となった。近年はSL函館大沼号などの観光列車の牽引に使われていた。
まずは、この207号機をJR北海道からかりることができた。もちろんSL列車は蒸気機関車だけでは運行できない。乗客が乗車する客車が必要となる。ちょうどJR四国が14系・12系客車を使わずにいたこともあり、この客車を譲り受けた。蒸気機関車の運行をバックアップする補機用に、JR東日本のDE10形ディーゼル機関車を譲り受けた。さらに安全機器類などを搭載するための車掌車もJR貨物とJR西日本から譲り受けた。
起点の下今市駅と、終点の鬼怒川温泉駅に方向転換する転車台がほしい。そこでJR西日本の長門市駅と、三次駅(みよしえき)にあった転車台を譲り受け、輸送して整備した上で設置した。
さらに専門のスタッフを育てなければいけない。蒸気機関車運行用の機関士、機関助士、検修員、整備員の育成が必要となる。何しろ、東武鉄道では1966年6月にSLの運行が終了していた。当時を知る人も社内にはいなかった。そこで秩父鉄道、大井川鐵道など、蒸気機関車を動かしている鉄道会社へ、乗務員の研修を依頼した。こうして他の鉄道会社の協力を得て、蒸気機関車の扱い方を学んでいったのである。
こうした自社以外の多くの鉄道会社の協力を得て、一つのプロジェクトを成し遂げていくというスタイルは、これまでの鉄道業界では、ほぼなかったことだけに、注目を集めた。
そして2016年12月1日、今回、火入れ式が行われた同じ南栗橋SL検修庫で、SL列車の名前が「大樹」と発表された。C11形207号機のお披露目も行われた。4年前を写真で振り返ってみよう。
2016年12月1日に列車名「大樹」が発表されるとともに、南栗橋駅構内に設けられたSL用の側線を颯爽と走る姿も報道陣に公開された。
この時には、現在使われている車掌車のヨ8000形(8709)とヨ5000形(13785)を連結して走る姿を見ることができた。ヨ8000形はSL大樹にも連結されて、活躍中だが、ヨ5000形はその後の姿を見ていない。ちょっと気になる存在でもあった。
【SL大樹に注目④】転車台の作業が人気イベントとなった
2016年12月に列車名が発表された。その後8か月にわたり、試運転などの準備が進められ、2017年の8月10日に正式に運転が始められた。かなり時間をかけて準備されたSL運転だったことが分かる。
筆者もSL大樹の運転開始後に、たびたび沿線を訪れたが、まずは最初に驚かされたのが転車台の設置場所+公開方法だった。
起点となる下今市駅は、北側スペースに扇形庫と転車台が設けられた。見学用の転車台広場が造られ、また隣接してSL展示館が設けられた。転車台を使っての方向転換の作業が、人気のイベントとなった。
下今市駅の転車台は駅構内なので、見学は乗客や入場した人が限られる。鬼怒川温泉駅の場合は、最初に見た時は、びっくりさせられた。
駅の玄関前に転車台が設けたのだった。この場所ならば、誰もが気軽に方向転換の風景を楽しむことができる。駅の構内でなく、駅前にわざわざ転線しなければいけないのは、手間かも知れない。だが、転車台でぐるりと回る作業を、一つのエンターテイメントとして売り出したのは、さすがに大手私鉄ならではのアイデアだと感心させられたのだった。
SL大樹が運行され始めてすでに4年となる。この鬼怒川温泉駅の駅前での転車台による方向転換は、すでに温泉地を訪ねる観光客にとっても、楽しみなイベントとしてすっかり定着しているかのようだ。