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2021/7/3 17:00

進化する踏切!? 全方向踏切警報灯シェアNo.1の「保安機器メーカー」を探訪する

〜〜保安機器メーカー 東邦電機株式会社〜〜

 

鉄道の安全運行に欠かせない踏切。日ごろ何気なく利用しているが、じつはなかなか奥深いものがある。先ごろ踏切機器などを中心に製作する企業を訪れる機会があった。今回は企業の探訪記と、踏切の最新情報をお届けしたい。

 

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【はじめに】この10年で大きく変わっている踏切の設備

踏切はこの10年でかなり進化している。特に変わったのが、赤色ライトの点滅、つまり列車の接近を伝える「警報灯」だ。これまでは、丸い黒い板の真ん中に据えられた丸いライト、そして日よけのツバが付くタイプが多かった。ところが現在、踏切を巡ってみると、このタイプはそう多くないことが分かる。毎週、鉄道原稿を書く筆者だが、これほど従来のタイプが減っていることに気付いていなかった。

 

さらに、目新しい表示器を付けた踏切にも出会うことができた。どのような新しい機器が付けられていたのかレポートしよう。

 

↑小田急江ノ島線の東林間駅前にある相模大野6号踏切。警報灯は全方向形。頭上の警報灯と列車進行方向指示器には踏切注意の表示が付く

 

小田急江ノ島線の東林間駅前にある踏切。片側は古いタイプの警報灯だが、もう一方は「全方向形」と呼ばれるタイプが付いていた。さらにオーバーハング、要は上空に付く警報灯もある。これは前後両方向から確認することができる両面形だ。そして矢印でどちらから列車が来るかを知らせる「列車進行方向指示器」。前後両方から見ることができ、さらに列車が来ない時には、「踏切」「注意」と表示される。これは頭上の警報灯も同じだ。

 

この中の機器で「全方向形」と呼ばれる周囲360度から見える警報灯の出現が、踏切の機器に変革をもたらしたのである。

 

この全方向形の警報灯を生みだしたのが東邦電機工業株式会社。全方向踏切警報灯シェアNo.1の企業である。今回は、こちらの相模工場を訪れて機器自体を見る機会を得て、さらに製作現場を見学させていただいた。知れば知るほど興味深い“踏切機器の世界”に迫ってみたい。

↑神奈川県座間市にある東邦電機工業株式会社。踏切機器が屋外に設置され、点滅や作動風景を見ることができる

 

【進化する踏切①】全方向形の出現でどのような変化があったのか

↑従来型の警報灯が付く踏切。片面のみの警報灯の場合、このように道の向きに合わせて複数の警報灯を設置しなければならない

 

踏切のなかでも特に目立つ警報灯。赤色の点滅で、列車の接近をクルマや歩行者に伝えている。踏切には欠かせない重要な装置である。従来の片面しか見えないタイプに比べて、全方向形や両面形の警報灯にはどのような利点があるのだろうか。

 

例えば上記の踏切の例。線路とほぼ直角に交わる大通りと、線路沿いの道があり、2本の道が踏切手前で交差する。片面タイプの警報灯の場合、こうした箇所では、それぞれの道向き用のものを用意しなければならない。

 

ところが、全方向形であれば、柱に付ければ、すべての方向から点滅が確認できる。大型車、小型車、そして歩行者が確認できるよう、上下に2つの警報灯を装着すれば良い。上の写真の踏切のように片側に4つの警報灯を付ける必要がないのだ。そして右の柱に装着された警報灯まで含めると8つを4つに減らすことができる。

 

つまり、全方向形は警報灯の個数を減らすことができ、省力化が可能となるわけだ。この全方向形の警報灯を開発したのが東邦電機工業だった。最初に世に出たのは2004(平成16)年。当初はなかなか浸透していかなかったが、一つの出来事に多くの鉄道会社が興味を示した。

↑初期の全方向形の警報灯。基板は4枚付き、カバーも透明だった。点灯した姿が左下。3枚を使った現在の基板よりもやや楕円に見える

 

東邦電機工業の広報担当は次のように話す。

 

「ある鉄道事業者さんがこの全方向形を付けてくださって、そのことが大きかったですね」。どのようなことだったのだろうか。

 

この鉄道事業者では、これまで遮断かん(遮断機の先に付いたさお部分)の破損に悩んでいた。試しに警報灯を全方向形に変えたところ、遮断かんの破損が劇的に減った。つまり、片面の警報灯に比べて、視認しやすい全方向形のほうが、ドライバーも点滅のしはじめに気付きやすいという長所があったのである。大型車のドライバーも踏切の進入前に気付くことができ、そのことで遮断かんの破損が減ったのだった。

↑寒冷地、多雪地帯向けの全方向形警報灯。カバーにヒーターが付き、着雪を防ぐ。点滅時が右。ヒーターの線が入っていることがわかる

遮断かんの破損が劇的に減ったことにより、他社も次々と全方向形を取り入れるようになっていった。現在では、多くの踏切にこの全方向形警報灯が付けられ、踏切の安全に欠かせない機器となっている。

 

全方向形には雪の多い環境でも力を発揮する融雪形タイプも造られている。さらに降雪地帯向けに防雪フードなども用意されている。

 

踏切の設置場所によっては前後で見えれば良いところもあり、平たい形の「両面形」の警報灯もつくられている。

 

【進化する踏切②】全方向形警報灯の製作工程を見学した

全方向形の警報灯を開発した東邦電機工業の製作現場を見学させていただいた。個人のイメージで申し訳ないが、工場と言えば、狭く雑然としているのだろうな、と思っていたが、そんな印象が覆された。きれいに整頓されていて、工場というよりオフィスに近い印象だった。同社は35年間無災害を達成している工場でもあるのだが、これはやはり日々の積み重ねによるものなのだろう。もちろん、塵や埃のない工場が精度の高い機器を生むために欠かせないポイントになっているのであろう。

 

さて、全方向形警報灯の製作現場では、女性スタッフが黙々と組み立てを進めていた。現在、赤色LEDが付いた基板は3枚、それをアルミ板に組み込んでいく。上から見ると基板と基板の角度は120度だ。全方向形の開発当初は4枚の基板でつくっていたが、現在の3枚となっている。この方がコストダウンにも結びつき、また見え方もほぼ円形となり、利点も大きいのだそうだ。

 

↑全方向形の警報灯の組立手順、作業台で進める①〜⑥の工程は本文を参照

 

写真でまとめたそれぞれの作業工程を追うと、

 

①基盤の装着。写真ではすでに2枚の基板を装着積み、そこに最後の1枚を組み込んでいく。
②ボルト止め。
③円筒レンズをかぶせる。
④電源をつないでテスト。点灯しないLEDがないかどうかをチェックする。
⑤底部の板をボルト止めする。
⑥背板(はいばん)を2枚とりつける。基板に合わせて角度は120度となっている。

 

全方向形の警報灯は、基板に付く細かい無数のLEDが赤く点滅する。さらにかぶせる円筒レンズも赤い。LEDも赤く光り、かぶせるレンズも赤。昼間の視認性を向上させる開発当初に透明だった円筒レンズを、赤いものに変えている。

↑組立て済みの全方向形警報灯。1日中、点灯した状態でのテストが行われる。常時点灯した時の光はかなりまぶしいと感じた

 

【進化する踏切③】ほか踏切機器の制作風景も見せてもらった

工場内では警報灯以外にも踏切の関連機器が製造されていた。そんな光景をいくつか見ていこう。まずは列車進行方向指示器から。

 

◆列車進行方向指示器(LED形)

列車進行方向指示器とは、列車がどちらから接近しているのか、知らせる機器だ。工場内には、作業台の上に矢印のみの部品がいっぱい並べられていた。その近くには、黒いステンレス製の箱。この箱の穴が開いたところに矢印の部品を組み込んでいく。

↑列車進行方向指示器の製作現場。矢印部品だけが並んだところは、ちょっと不思議にも感じた

 

写真を細かく見ていこう。

 

①工場内に置かれた矢印の部品。点灯していない時は、紫色に見えた。左右別方向に交互にきれいに並べられていた。
②LEDの矢印表示器を箱の中にきれいに入れていく。
③ボルト止め。
④できあがり、点灯した状態。消灯時は紫色だったが点灯すると赤色に見える。

 

列車進行方向指示器は、鉄道会社によって仕様が異なり、今回見せてもらったのは一つの例だそうだ。

 

◆踏切警標造り

踏切警標とは、支柱(踏切警報機柱)の上についているバツ印のこと。この警標の製作工程もちょうど見ることができた。あらかじめ黒に塗装されたアルミ板に、光を反射する黄色のリフレクターのシートを貼っていく。

↑黄色のリフレクターのシートを貼り込んで踏切警標が造られていく

 

工程を追ってみよう。

 

①最初にアルミ板の端からシールを貼っていく。はみ出さず、ずれないように貼ることが大切になる。
②裏面に付いたシールをはがしつつムラの出ないように貼る。
③ローラーを使い気泡を抜く。丁寧な作業が必要なように感じた。
④バツに組み合わせ、黄色と黒が均等になっているかを確認。ボルト止めは、次の工程で行われる。

 

この工程で発見したのは、黄色シート部分のみリフレクターとなっていたこと。確かに黒面での光の反射は無理だろう。当たり前のことながら、こうして見せてもらうことで良く理解できた。

 

◆スピーカーの確認

警標とともに支柱の上にはメガホンのようなスピーカーが付いていて“カンカンカン”という音を出して、列車接近を伝えている。光る警報灯とともに、音で列車接近を伝える大切な機器である。

 

このメガホン型のスピーカーが正常に鳴るかどうか、通電して確認する。“カンカン”と鳴れば、問題なしとなって出荷になるわけだ。

↑工場内ではスピーカーが鳴るかどうか確認作業が行われていた。作業台の上には、テストを待つスピーカーが並ぶ

 

進化する踏切④】雨風あたる屋上で長期間の耐久テストが続く

こうして造られた踏切機器は、工場内で出荷前に十分にテストしてから鉄道会社に向けて出荷される。とはいえ、踏切が立つ場所は、機械が設置される環境として決して恵まれているとは言えない。風雨にさらされる状況で、製品が性能を発揮できるか、長年、風雨にさらされても故障することはないのか、そうした耐久テストが工場の屋上で行われていた。

 

屋上には、同社のさまざまな製品が並んでいた。そして、みな間違いなく稼動していた。警報灯も点滅を繰り返している。かなりの年月を経たものもある。一部は取り付けた柱などに錆が少し浮き出してきていた。

↑屋上に並ぶ東邦電機工業の製品。風雨にさらされ耐久テストが行われている。夜は20時で消灯しているそう(近隣に住宅があるため)

 

↑屋上で一番古いのが出発反応標識で、1990年5月19日という設置日のテープが付けられていた

 

そんな中で一番の“ご長寿”は1990(平成2)年5月につくられた出発反応標識だった。出発反応標識とは、視界が悪い駅ホームなどに付けられ、発車準備が整ったことを車掌に伝える装置である。同機器は、設置後すでに30年以上たったものの、しっかり点灯していた。けなげなものである。

 

【進化する踏切⑤】ユニバーサルデザインの新型警報灯も発表

東邦電機工業のショールームでこれまでに見たことない警報灯を見つけた。同社の全方向形に形は近いが、より滑らかな印象。赤色のレンズカバーが基板をきれいに覆う形をしている。

 

「踏切警報灯(全方向形)ecok(エコケイ)」という名称がついている。2020年に登場したというこの機器。どのような警報灯なのだろうか。まずは上部のアルミ板がフタ状になっている。覆う背板はなく、レンズは滑らかにカーブしたスタイル。そして軽量化されている(従来の4.6kgに対して3.7kg=本体のみ)。加えて従来型に比べて消費電力を30%抑えている。

 

ユニバーサルデザインとしたことも大きな変化だ。赤色を見極めることができにくい色覚障害の人も認識しやすい波長成分のLEDを利用しているのだそうだ。

↑ユニバーサルデザインを配慮して開発された新しい警報灯。下からでも良く見えるようにつくられている

 

色覚障害を持つ人への対応には、国も乗り出しており、すでに交差点などで利用されていた赤色と、黄色で示す「一灯式信号機」を取り外す傾向が強まっている。黄色と赤色の見分けがつきにくいためだ。

 

そうした時代の流れもあり、警報灯にユニバーサルデザインを取り入れたわけである。今は発売を始めて間もないだけに、出荷も少なめとのことだが、鉄道会社でも徐々に取り入れるところが出始めているという。

 

ところで、一般には縁の薄い踏切機器のメーカーだが、最近は、一般向けグッズも用意している。最後に同社がつくるオリジナル踏切グッズも紹介しておこう。

 

◇意外に受けている踏切グッズ

↑左から踏切ボールペン、踏切ストラップ、踏切ピンバッジ、ふみきりマスキングテープ(右下へ)。専門メーカーのグッズだけにかなり凝っている

 

黄色と黒に色分けされた「踏切ボールペン」に、360度光る「踏切ストラップ」。平面形の警報灯などをデザインした「踏切ピンバッジ」。そして警報灯や、警標といった踏切の多彩な柄がはいったマスキングテープ、などのグッズが販売されている。専門メーカーの商品だけに、鉄道好きは魅力を感じるグッズに違いない。詳しくは下記を参照していただきたい。

 

https://www.toho-elc.co.jp/original-goods/

 

踏切機器のメーカーを訪れたことにより、踏切に関して多くの発見があった。そして興味も増した。なかなか注目をあびにくい設備ではあるものの、今後も目を向けていきたいと思った。

 

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