〜〜大鉄私鉄4社のレア塗装・リバイバル塗装2021〜〜
赤・青・黄色・緑……大手私鉄各社が走らせているレア&リバイバル塗装車の電車の姿を並べてみると、色見本のような鮮やかな色の電車がそろう。
このところ、鉄道会社では各社の基本色とは異なる希少な色に塗り替えたり、ラッピングしたりした電車が多く現れている。すでに首都圏を走る大手私鉄のほとんどがレア塗装車を走らせている。どのような車両が走っているのか、具体例を見ていこう。当然ながらそこには、鉄道会社の意図が見え隠れしている。
【レア塗装車その①】注目度が低い路線に鮮やかレッド車両が登場
◆西武鉄道多摩湖線9000系「RED LUCKY TRAIN」
西武鉄道の多摩湖線は国分寺駅と多摩湖駅を結ぶ9.2kmの路線だ。西武の路線の中では、あまり目立つ存在とは言えず、地味目の路線だった。路線には長い間、同鉄道の中で最も古い車両の新101系が走っていた。そんな多摩湖線だが、駅のホームドア設置のために、3ドアの新101系は2021年2月で運行が終了。代わりにワンマン仕様、4ドアの9000系を投入した。さらに3月末には赤い9000系電車が走り始めている。
赤い色に塗られた9000系9103編成は2014(平成26)年7月から、京浜急行電鉄とのコラボレーション企画として、「幸運の赤い電車RED LUCKY TRAIN」として走っていた。当時は10両編成で、京急と同じく赤地に側面の窓周りなどクリーム色に塗り分けられていた。多摩湖線に入線するにあたって、4両となり、またワンマン運転が可能なように改造され、真っ赤一色となった。RED LUCKY TRAINの赤が、さらに強調され、鮮やかになったのだった。
多摩湖線には他に紺色、また9000系の元の色でもある黄色の編成も走る。路線を走る電車は赤、紺、黄色が入り交じりかなり賑やかになった。
こうした車両色を導入することによる効果を考えてみよう。まずは目立つ。路線のイメージアップを図ることができる。レア塗装が走っているということで鉄道ファンが訪れる。さらに子どもたちにも人気となる。要はレア塗装、リバイバル塗装は、鉄道会社にとって、少なからず誘客につながっている。どちらかといえば、閑散路線でこうした車両の導入が多いことからもうかがえるだろう。
◆西武鉄道多摩川線 新101系「赤電塗装車」「ツートンカラー」
西武多摩湖線から消えた新101系だが、西武多摩川線と、西武狭山線(こちらは平日のみ運行)を今も走る。新101系もレア塗装、リバイバル塗装車が目立つ。1960年代・70年代の西武電車の標準色“赤電塗装”と呼ばれる車両も走り、人気車両となっている。他に、ツートンカラー(黄色とベージュ色)、黄色一色車両。近江鉄道色、伊豆箱根鉄道色と、すでに新101系は、レア&リバイバル塗装ばかりになっているといって良い。逆に白い色の標準タイプが消えつつあることも興味深い。
新101系はすでに多摩湖線から消えて、車両数が減りつつある。多摩川線の新101系もいつまで走るのか、危ぶまれる存在となっている。
西武鉄道では、埼玉西武ライオンズにちなんだ20000系「L-train」、そして30000系「DORAEMON-GO!」も走らせている。このあたりは西武球団のPR用、また親子連れを強く意識したラッピング仕様となっている。
大手私鉄で唯一の新都市交通システム・案内軌条式鉄道を利用している西武山口線(レオライナー)。同線を走る8500系の8521編成が茶色と黄色のカラーとなり5月15日から走り始めている。この茶色と黄色というカラー塗装は、赤電塗装よりも前の1950年代・60年代に走っていた塗装車両だ。筆者は西武沿線で育っただけに、懐かしい思い出もあり一度乗りに行きたいな、と考えている。
【レア塗装車その②】すっかりおなじみになった青色・黄色電車
◆京急600形・2100形「KEIKYU BLUE SKY TRAIN」
レア塗装を各社に定着させたのは、京浜急行電鉄(以下「京急」と略)の影響が大きかったように思う。その元祖というべき存在が、「KEIKYU BLUE SKY TRAIN」だ。600形と2100形の両形式に青い塗装の電車が1編成ずつ用意されている。青は京急の路線が走る「羽田空港の空」「三浦半島の海」をイメージした色だったとされる。
この「KEIKYU BLUE SKY TRAIN」が走り始めたのは600形が2005(平成17)年3月14日、2100形が2005(平成17)年6月11日からと16年前のことになる。すでにベテランの域に達したレア塗装車となっている。
◆京浜急行電鉄1000形「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」
さらに、2014(平成26)年5月1日から1000形1057編成を黄色に塗装変更を行い「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」として走らせ始めた。
この黄色電車は、もともと京急の電動貨車デト11・12形の色を意識して塗られたもので、当初、3年間の予定で運転を開始した。ところが、予想以上に好評だったこともあり、その後も継続して運転されている。「黄色い電車を見ると幸せになる」という“都市伝説”まで語られるようになり、変えるに変えられないという状況にまでなった。
さらに、もともと黄色の電車が多かった西武鉄道とのコラボレーション企画にまで進展。京急から提案して、前述のように西武鉄道には「幸運の赤い電車RED LUCKY TRAIN」が走るようになった。その後には両社で営業面での協力が盛んに行われるなど、私鉄同士の縁を強めることにも一役かっている。
「KEIKYU BLUE SKY TRAIN」「KEIKYU YELLOW HAPPY TRAIN」の3編成は京急のホームページで、連日、細かい運転時間まで発表されている。こうした細かい配慮も、レア編成の人気を長持ちさせている原因なのかも知れない。
【レア塗装車その③】沿線の観光PR用に生まれたラッピング車
◆京王電鉄8000系「高尾山トレイン」
次に京王電鉄のレア塗装車を見ていこう。京王の車両はすべてがステンレス車両ということもあり、ラッピングによってレア塗装車を生み出している。
そんな代表が京王線を走る8000系「高尾山トレイン」。京王沿線の人気の観光地でもある高尾山のPRを図るために2015(平成27)年9月30日に運行を開始した。もとは高尾山口駅のリニューアルや、高尾山温泉「極楽湯」の開業を機会にラッピング車両として模様替えされた。
ベースの薄緑色は1957(昭和32)年から同路線を走った2000系の塗装色をイメージしたもので、側面には、高尾山の春、夏、秋、冬、若草の5パターンのイラストで四季折々の高尾山の魅力を紹介している。
2017(平成29)年には東京屋外広告協会主催の「第10回東京屋外広告コンクール」の第4部門(車体利用広告)で、最優秀賞の東京都知事賞を受賞している。ちなみに民鉄としてははじめての最優秀賞となった。
◆京王電鉄9000系「サンリオキャラクターフルラッピングトレイン」
「高尾山トレイン」とともに代表的なラッピング車両が「サンリオキャラクターフルラッピングトレイン(特別ラッピング車両)」。京王相模原線の京王多摩センター駅最寄りにある「サンリオピューロランド」への、京王線の利用促進を図るということで生まれたラッピング車両だ。淡いピンク色をベースにサンリオのおもなキャラクターが描かれている。2018(平成30)年11月1日に走り始め、運行時期は当面とされたが、人気車両のためか現在も走り続けている。
ちなみに9000系10両編成車は、都営新宿線への乗り入れ対応車ということもあり、同ラッピング車も、京王線内だけでなく、都営新宿線の終点である本八幡駅まで乗り入れている。東京都内だけでなく、千葉県内まで走るわけで、そのPR効果も大きいと言えるだろう。
◆京王電鉄7000系「キッズパークたまどうとれいん」
京王電鉄のラッピング車両でも、とびきりレア度が高いのがこの電車ではないだろうか。2018(平成30)年3月から走り始めた「キッズパークたまどうとれいん」と名付けられたラッピング車両で、高幡不動駅と多摩動物公園駅間を結ぶ京王動物園線のみを走る。
7000系4両7801編成を利用。淡いピンク色ベースで、多摩動物公園駅前にある多摩動物公園、京王れーるランド、屋内型遊戯施設「京王あそびの森 HUGHUG(ハグハグ)」といった施設のイラストが描かれている。
さらに車内が楽しい。各車両が1号車から4号車までゾウ、トラ、シカ、フラミンゴといった動物達のイラストがあちこちに。座席シートなどもイラスト入りの特別なつくりとなっている。子どもたちには楽しいラッピング車両といって良いだろう。
◆京王電鉄井の頭線1000系「レインボーカラー」
京王電鉄の井の頭線にも珍しいラッピング車両が走る。同路線を走るのは1000系のみだが、同車両は前面と側面の帯に7通りのパステルカラーで色分けされている。それぞれの色は基本4編成ずつで、これもレアと言えばレアなのだが、全29編成中の1編成という、さらにレア度が高い車両が走る。
それがレインボーカラーの1729編成。沿線の魅力を発信しようと生まれた車両で、ハチ公、井の頭公園、神田川、あじさい、さくらをイメージした特別ラッピング車両として運行開始された。レインボーの七色の帯色が特長で、2012年10月に誕生している。当初は1年間の運転予定だったが、人気でのびのびとなり、すでに10年近い期間を走る井の頭線の名物編成となっている。
【レア塗装車その④】小田急では希少な赤色レア塗装車
◆小田急電鉄1000形「赤い1000形車両」
小田急電鉄は、華やかな特急ロマンスカーを目立たせるためなのか、通勤形電車の塗装を大きく変更したレア&リバイバル塗装車がほとんど走らない。そんななかで、唯一のレア塗装といえるのが「赤い1000形車両」だろう。1000形のステンレスの地に水色の帯という標準タイプとは異なり、赤色ベースの鮮やかな車両が走る。
この赤い車両は小田原駅〜箱根湯本駅間の箱根登山鉄道線向けに用意されたもので、箱根登山鉄道と姉妹鉄道提携を結ぶスイスのレーティッシュ鉄道の赤い車両をイメージして生まれた。現在の車両数は4両×4編成で、2009年3月からの運行と、すでに12年にわたって走り続けている。通常時は箱根登山鉄道線内がメインだが、時々、イベント列車として小田急線内での運用もあり、注目の列車となっている。
※まだまだありますレア&リバイバル塗装車。東武鉄道、東急電鉄などの車両は次回の〈後編〉に続きます。