〜〜大鉄私鉄4社のレア塗装・リバイバル塗装2021〜〜
“黄色い電車に出会えた。今日はいいことがあるかも!?”というような楽しみ方をしている人が意外に多いそうである。暮らしに潤いを与えてくれるカラフルなレア塗装の電車たち。前回に引き続き、首都圏を走る大手私鉄のレア&リバイバル塗装車を取り上げてみよう。
【前編はこちら】
【はじめに】レア塗装となる車両の傾向と撮影時の課題
前回も見たようにレア塗装車は、幹線路線よりも、閑散路線を走らせることが多い。レア&リバイバル塗装により、誘客効果が期待できるからだ。だが、乗りに行こうと突然訪れてもその日に走っているとは限らない。車庫に入っていたり、検査中の時もあり、出会えないこともある。
そこで、訪れる時はネット上に流れている運用情報(例えば「●●線運用情報」と検索してみればよい)をチェックした上で訪ねたい。首都圏の大手私鉄路線の場合、こうした運用情報が充実している。レア塗装車がどこを何時に走っているのか、すべてが分かるような仕組みとなっている。
レア塗装車は “古参車両”も多く、いつ引退してもおかしくない。筆者も撮りに行こうと日程を調整していたのだが、いつの間にか走らなくなっていたこともあった。
こうした車両は逃してしまったら、二度と撮れない可能性があるのだ。さらにコロナ禍もあり密を避けるためか、サヨナラ運転が発表されないことも多くなっている。
ほかの注意点としてはLED表示の問題もおさえておきたい。古参の車両でも、最近はLED表示器に変更されることがある。ちなみにすぐ下の写真にある東武鉄道の8000系もそうで、この“後付け”のLEDが厄介だ。きれいに撮影しようとすると100分1という遅めのシャッター速度が必要となることも。新しい車両のLED表示器に比べるとシャッター速度を遅くしなければならず、かなり“シビア”になることを確認しておきたい。
【レア塗装車その⑤】最大勢力を誇った東武8000系最後の輝き?
◆東武鉄道 亀戸線・大師線8000系 リバイバルカラー
東武鉄道は“レア塗装車づくり”が活発な鉄道会社である。どのような路線を走っているのか、見ていこう。
まずは亀戸線と大師線。この路線を走る8000系は、かつて東武鉄道の主力車両で、1963(昭和38)年から20年の製造期間中、私鉄では最大の712両が造られた。東武では最大勢力を誇った8000系だったが、徐々に減っていき、東武アーバンパークライン(野田線)を除き、第一線から退きつつある。亀戸線・大師線ではこの8000系が2両化されて走り、2016(平成28)年3月23日にレア塗装車の導入が始まった。
まず走ったのが、インターナショナルオレンジ色と呼ばれるオレンジ塗装をベースにミディアムイエローの帯を巻いた8577編成だった。塗装の呼び名は「標準色」。昭和30年代に、東武鉄道の「標準色」として採用された塗装だった。
最初のレア塗装が好評だったことから、2017(平成29)年2月16日には、かつての「試験塗装色」として試された、グリーンのベース色に白帯(ジャスミンホワイト帯)の車両を登場させた。
さらに第3弾として、2017年7月13日から「試験塗装色」だったミディアムイエロー色の地に、インターナショナルオレンジ色の帯を巻く8000系を走らせている。
運行期間は当面の間ということだったが、4~5年たった今も、3色の塗装車は亀戸線・大師線を走り続けている。もう欠くことができない同路線の名物車両となっているようだ。
◆東武鉄道 東上線・越生線8000系 塗装変更車
亀戸線・大師線よりも先にレア&リバイバル塗装されたのが東武東上線・越生線を走る8000系4両編成だった。東上線開業100周年に合わせての塗り替えで、2014(平成26)年3月29日に「セイジクリーム」という淡いクリーム色に変更された。
ちなみにセイジクリームは1974(昭和49)年に登場した当時の標準色でもある。このリバイバル色が好評だったことから、2014(平成26)年の11月22日からは、1編成がオレンジ色とベージュ色の「ツートンカラー」に塗装変更されている。
ちなみにツートンカラー塗装は、セイジクリーム色となる前の東武鉄道の標準色でもあった。今でも2編成の塗装変更車が東上線・越生線を走る。とはいえ、走るのは寄居駅〜小川町駅間、もしくは越生駅〜坂戸駅間のみとなっている。
なお東上線・越生線には東上線全通90周年を記念して、濃い青色に黄色の帯の「フライング東上号」が2015(平成27)年11月28日に登場したが、同塗装は2019年7月で運行が終了している。
◆東武鉄道 日光線・鬼怒川線6050型「往年の6000系リバイバルカラー」
6050型は東武鉄道で希少な2ドア、セミクロスシート仕様で、東武日光線や鬼怒川線の運用に利用されている。この形式には6000系(非冷房車)を更新した車両と、増備のために新造された車両がある。
2019(平成31)年、東武日光線90周年を記念して生まれたのが「往年の6000系リバイバルカラー」と呼ぶラッピング車両。通常の塗装はジャスミンホワイトに、サニーコーラルオレンジと、パープルルビーレッドの2本の帯が入るが、同ラッピング車両は、6000系のころのロイヤルベージュとロイヤルマルーンのツートンカラーが再現されている。リバイバルカラーとされたのは6162編成と6179編成の2編成(計4両)で、現在、南栗橋駅・下今市駅〜東武日光駅・新藤原駅間を走る。
ちなみにリバイバル塗装となった2編成のうち、6162編成が6000系の更新車で、元は6000系6119編成だった。同編成が6000系として生まれたのは1966(昭和41)年とかなりの前のことになる。
◆東武鉄道 東上線・50090型「池袋・川越アートトレイン」
2019(平成31)年3月に登場した東武東上線の「川越特急」。池袋駅〜川越駅間を最速26分で結ぶ。同特急が走り始める1か月前に登場したのが「池袋・川越アートトレイン」と呼ばれるラッピング塗装車両だった。同車両は若手画家、古家野雄紀氏が“川越に彩りを加える”というテーマで作画を担当、10両編成の全車両を使って川越の魅力を発信しようという試みが取り入れられている。
車両は座席定員制列車「TJライナー」用に設けられた50090型。クロスシート・ロングシートの横向き・縦向きが転換できる「マルチシート」を取り入れている。シートの転換が容易にできることもあり、TJライナー、川越特急といった優等列車だけでなく、普通列車としても走るなど、マルチな使われ方をしている。
【レア塗装車その⑥】気になるレトロ塗装車が3路線を走る
◆東急電鉄・東横線5000系“青ガエルラッピング”
東急電鉄も、レア&リバイバル塗装の宝庫だ。東横線と、池上線・多摩川線をレア塗装車両が走る。東急東横線が5000系と5050系、東急池上線・多摩川線では1000系にラッピング塗装が施されている。
まずここでは東横線を見ていこう。東急電鉄では5000系が東急の“標準車両”とも言える電車だが、路線ごとに形式名が異なる。まず基本となった田園都市線用が5000系、東横線が5050系、そして目黒線用が5080系となっている。ここには例外があり田園都市線用の5000系は一部が東横線へ転用されている。この転用された5000系5122編成が通称“青ガエルラッピング”塗装車となった。
緑色で独特な姿形から“青ガエル” と呼ばれた初代5000系を起源とする塗装色だ。“青ガエルラッピング”塗装車は東横線が開業90周年を記念して2017(平成29)年9月から走り始めた。当初は1年の予定だったものの、好評につき期限は徐々に伸びていき、すでに4年目となる。人気なだけにあえて変更する必要もないということなのだろう。
◆東急電鉄・東横線5000系「Shibuya Hikarie号」
東横線の青ガエルラッピングとともに名物車両となっているのが「Shibuya Hikarie号」。渋谷駅近くにある商業施設の「渋谷ヒカリエ」の1周年記念プロモーション用に5050系4000番台(4010編成)が“特別車両”として新造された。2013(平成25)年4月からの運行で、ゴールドをメインカラーでラッピングされている。
車内にもひと工夫が見られる。シートの色分け、天井部の色づかい、吊り手に8色を採用するなど、賑やかな造りとなっている。さらに編成に1箇所のみ「キラリと光るハートマーク」を手すりに刻印。“見つけると幸せになれるかもしれない”というメッセージ性を持たせている。
このラッピング編成は、各社のレア&リバイバル塗装車と比べて、かなり手の込んだ造りにしている。すでに8年目となり、長生きなレア車両となっている。東横線内だけでなく、東京メトロ副都心線、東武東上線、西武池袋線、また横浜高速みなとみらい線へ乗り入れていて、そのPR効果は絶大なようだ。
◆東急電鉄 池上線・多摩川線1000系「緑の電車」
東横線とならび、レア&リバイバル塗装が目立つのが池上線・多摩川線系列だ。同路線には2編成のリバイバル塗装車が走る。
まずは1000系の緑一色の3両編成で「緑の電車」と呼ばれている。「池上線活性化プロジェクト」の一環として、この編成は2019(平成31)年11月25日から走り始めた。“なつかしさ”を感じる旧3000系「緑の電車」にちなみ、1013編成が緑一色のラッピング塗装に変更された。旧3000系は1989(平成元)年まで走り続けていた緑色の名物車両である。
この編成、同線を走る1000系とやや異なっている。通常の1000系の正面を見ると、貫通扉が中央からややずれたところにあるが1013編成の前後両側の車両、クハ1013号とデハ1312号車とも、中央に貫通扉がある。なぜなのだろう。
同車は当初、東横・目蒲両線用に8両編成として造られた。4両×2編成に分割できるように、クハ1013号とデハ1312号の中央部に貫通扉を設けて連結が可能にしていた。その後、池上線・多摩川線用に3両編成化した際に、中央に貫通扉がある車両同士を前後にするために組み換えを行った。そのためにこの編成のみ、貫通扉が中央となった。ほかの1000系と組み合わせなかったのは、運転士の操作ミスを防ぐため。貫通扉の位置により、運転室の機器の配置が異なるそうである。
同編成をよく見ると中央に貫通扉を持つとともに、通常は中間車側の連結器部分に白ペンキで書かれる「形式」「自重」「定員数」などの表記が、先頭車側にある。以前は中間車だったのですよ、という整備スタッフからのメッセージであるようにも受け取れておもしろい。レア塗装であるとともに、車両の造りや塗り方にもこだわりが感じられる。
◆東急電鉄 池上線・多摩川線1000系「きになる電車」
池上線・多摩川線にはもう1編成、リバイバル塗装車が走る。名前は「きになる電車」。それこそ気になる電車だ。濃紺と黄色のツートンカラーのボディ。側面には「T.K.K」のロゴが入る。T.K.Kとは、東急電鉄の前の会社名、東京急行電鉄株式会社(Tokyo Kyuko Kabushikigaisha)の略称で、ひと時代前の東急の電車には、この略称が車体に入っていた。また濃紺と黄色のカラーは1951(昭和26)年から1966(昭和41)年まで池上線と旧目蒲線を走っていた電車色なのである。
同列車は内装も凝っていて室内は木目調、吊り手も木製で職人が手作業でつくったもの。室内のライトも電球色のLED照明となっている。
◆東急電鉄 世田谷線300系「幸福の招き猫電車」
世田谷線は、東急電鉄の路線の中でも異色の路線だ。元は路面電車の玉川線で、他線は廃止されたものの、三軒茶屋〜下高井戸間のみが残った。走る車両は路面電車タイプで、300系のみ。2両連結の10編成が走る。すべて車体色が異なり、みなレア塗装と言えるだろう。
ここでさらにレアなのが招き猫電車だろう。正式名称は「幸福の招き猫電車」。沿線にある豪徳寺が招き猫発祥の地で、2017(平成29)年9月25日から玉電開通110周年を記念して生まれた電車だ。ちょうど1年後の2018(平成30)年3月までの限定で運転された。
この「幸福の招き猫電車」が、今度は世田谷線50周年記念企画の一貫として2019(平成31)年5月から運行再開されている。新たな「幸福の招き猫電車」は、前回に比べてさらにパワーアップして、正面部分には耳が付けられた。もちろん車内の床面には猫の足あとが、吊り手も招き猫にちなむ形に。今回は1年のみならず、現在も走っている。どうも世田谷線に欠くことができない名物車両となってしまったようだ。
【レア塗装車その⑦】いわくつきの京成レア塗装車がおもしろい
◆京成電鉄3700形「千葉ニュータウン鉄道への賃貸車両」
京成電鉄のレア塗装車はちょっと不思議な成り立ちがある。京成電鉄は北総鉄道との相互乗り入れを行っている。北総鉄道は京成電鉄が筆頭株主だ。北総の自社所有車両以外に、京成から3700形(3編成×8両)を賃貸契約で借りている。こちらは北総7800形と形式名を変更、帯の色を水色、青色の2本としている
さらに北総鉄道では千葉ニュータウン鉄道が所有する電車も走る。同社所有の電車を走らせる一方で、京成から3700形(1編成×8両)をリースしている。こちらも帯の色を水色と黄色に変更し、京成の3700形を9800形と形式名も変えている。これらの編成をレア塗装とすることには、多少の無理があるかも知れないが、なかなかおもしろい変更例なので取り上げておきたい。
◆京成3500形「芝山鉄道への賃貸車両」
京成電鉄には、もう1編成の賃貸車両がある。芝山鉄道へリースしている3500形だ。芝山鉄道は東成田駅〜芝山千代田駅間のわずか2.2kmの路線を持つ小さな鉄道会社で、京成電鉄も出資している第3セクター方式で運営され、京成成田駅からの乗り入れ運転が行われている。
自社車両は持たず京成電鉄3500形3540編成を2013(平成25)年4月1日からリースして走らせている。前述した北総鉄道、千葉ニュータウン鉄道への賃貸車両とは異なり、前面に「SR」の文字、側面に「芝山鉄道」のシールが貼られる細やかな変更のみで、かろうじて「芝山鉄道」の車両であることが分かる。
興味深いのは芝山鉄道の路線も走るものの、京成金町線(京成高砂駅〜金町駅間)での運用が多い。芝山鉄道と明記されながらも、金町線という東京下町の路線を走る姿もなかなかおもしろい。
◆京成電鉄3600形「標準塗装」「ファイヤーオレンジ塗装」
京成電鉄で編成自体が希少になりつつあるのが3600形だ。3600形は1982(昭和57)年から導入された車両で6両編成×9本の計54両が造られた。今の車両に比べると正面が平坦で、やや無骨な形をしているものの、技術的には界磁チョッパ制御方式、またT形ワンハンドルのマスター・コントローラーを採用している。
長く都営地下鉄浅草線への乗り入れ用などに使われていたが、近年は急速に車両数を減らしている。すでに4両×1編成と、6両×1編成しか残っていない。4両編成の電車は主に京成金町線で、6両編成は赤帯(ファイヤーオレンジ塗装)のレア塗装となり、主に上野駅〜成田駅間、もしくは千葉線の京成津田沼駅〜ちはら台駅間を走っている。
【レア塗装車その⑧】NEVYBLUE塗装は珍しくなくなったものの
◆相模鉄道8000系YOKOHAMA NAVYBLUE
レア&リバイバル塗装の最後に相模鉄道(以下「相鉄」と略)を紹介したい。相鉄のレア塗装といえば「そうにゃんトレイン」も一例としてあげられるが、ここでは異なるレア塗装車に触れておこう。
相鉄ではYOKOHAMA NAVYBLUEという名前の、濃い青色塗装化を徐々に進めてきた。この塗装化を進める上で、希少な“異端”の車両が出てきた。
まずは8000系のYOKOHAMA NAVYBLUE車から。昨年の11月に7000系が引退し、8000系が相鉄電車の“最古参”となった。現在、10両×9編成が走るが、そのうち8709×10がYOKOHAMA NAVYBLUE塗装に変更され、車内外が大きく更新されている。これまでの8000系のように前照灯が先頭車の運転席の窓下中央に付いていたものが、上部に変更されているのがその一例だ。
今のところ8000系のYOKOHAMA NAVYBLUE車両は1編成のみで、今後、8000系は同じように変更されていくのか、気になるところだ。
◆相模鉄道10000系YOKOHAMA NAVYBLUE
YOKOHAMA NAVYBLUE塗装は、まずは試験的に9000系に施され、徐々に編成数が増やされていった。そうした経緯もあり9000系は10両×6編成すべてがYOKOHAMA NAVYBLUE塗装とされている。
またJR東日本埼京線への乗り入れ用の12000系と、20000系もすべてがYOKOHAMA NAVYBLUE塗装とされている。一方でYOKOHAMA NAVYBLUE塗装が世に出る前に登場した10000系、11000系は通常のステンレス鋼の地をいかし、帯を巻く姿となっている。そのなかで異色なのが10000系のYOKOHAMA NAVYBLUE塗装車両で、10701×10の編成のみとなっている。同編成はJR東日本長野総合車両センターに入場して内外の機器なども更新した上で、YOKOHAMA NAVYBLUE塗装に変更されている。
10000系はJR東日本のE231系と同じ基本設計で造られた。さらに長野総合車両センターへ回送されての機器更新ということもあり、12000系と同じようにJR埼京線への乗り入れに備えたものでは、と推測されたが、現在のところ、相鉄線内を走るのみとなっている。
ちなみにこの塗装変更が行われたのち、10000系の別編成も機器更新が行われたが、YOKOHAMA NAVYBLUE塗装には変更されなかった。機器更新など改修が行われる時は塗装変更されると思われてきただけに、ちょっと不思議なところでもある。
今後ともレア&リバイバル塗装車には注目していきたい。関西、東海地方の大手私鉄も取り上げたいと思っている。