【注目の車両&路線⑥】日本海ひすいラインの注目列車といえば
次に日本海ひすいラインの直江津駅〜市振駅間を走る車両を見ていこう。旧北陸本線ならではの車両も行き来している。
○えちごトキめき鉄道ET122形
ET122形は北陸本線をトキ鉄に移管するにあたって製造された気動車で、元はJR西日本が姫新線(きしんせん)などに導入したキハ122形がベースとなっている。前後両側に運転台がある気動車で、ステンレス車両の下部に「日本海の美しい海」を表現したデザインをほどこす。計8両が造られたが、うちイベント兼用車両が2両用意された。
ちなみに、なぜ電車が導入されなかったのか。走る区間の市振駅〜直江津駅間は、市振駅〜えちご押上ひすい海岸駅間が交流電化区間で、梶屋敷駅(かじやしきえき)〜直江津駅間が直流電化区間となっている。えちご押上ひすい海岸駅〜梶屋敷駅間には交流・直流を切り替えるデッドセクション区間がある。
つまり、電車の場合には交直両用電車でなければ走れない。交直両用電車の新造は高価で、しかも最低2両で編成を組まなければいけないという問題があった。交直両用電車に比べれば安めの気動車で、輸送量がそう多くない区間のため単行運転が可能なET122形の導入となったわけである。
ET122形が主力車両の日本海ひすいラインだが、週末ともなるとにぎやかになる。まず413系・455系を使った急行列車が走る。さらに鮮やかな「えちごトキめきリゾート雪月花」も連なるように走るのだ。
日本海ひすいラインを走るのは旅客列車だけでない。貨物列車も走る。日本海縦貫線という貨物輸送に欠かせない路線の一区間にあたるだけに、昼夜を問わず貨物列車が走っている。そして牽引機といえば。
○JR貨物EF510形式交直両用電気機関車
日本海ひすいラインを含む日本海縦貫線を走る貨物列車を牽引するのがJR貨物のEF510形式である。EF510は直流電化区間、交流50Hz、交流60Hz区間が複雑に連なる路線に合わせ、また国鉄時代に生まれたEF81形式の置き換え用として開発された。そして日本海縦貫線では基本番台の赤い車体、愛称「ECO-POWERレッドサンダー」が走り続けてきた。
その後、JR東日本が特急「北斗星」などの寝台列車牽引用に新造した500番台が、客車列車の牽引自体がほぼ消滅したこともあり、JR貨物に売却された。現在は、赤い車両の基本番台と、北斗星仕様の青色、カシオペア仕様の銀色の500番台の3色の機関車が走るようになり、貨物列車好きには楽しい線区となっている。
【注目の車両&路線⑦】日本海ひすいラインで訪れたい駅といえば
トキ鉄の日本海ひすいラインの営業距離は59.3km。その先の市振駅〜越中宮崎駅間に富山県・新潟県の県境があるため、その手前の市振駅がえちごトキめき鉄道と、あいの風とやま鉄道の境界駅となっている。
営業上は市振駅が境界駅となっているが、トキ鉄の普通列車の運行は、2つ先の泊駅までの運行が大半で、その先のあいの風とやま鉄道の列車も大半が泊駅止まりとなっている。あいの風とやま鉄道からトキへ乗り入れる直通列車もわずかにあり、直通列車は糸魚川駅まで走っている。
日本海ひすいラインはほぼ日本海に沿って走るものの、トンネル区間が多い。日本海の風景が良く見える区間といえば、直江津駅側から見ると、谷浜駅〜有間川駅間、青海駅〜親不知駅間の一部、市振駅付近が車窓から海の景色が楽しめるが意外に少ないのが残念だ。
そんな日本海が良く見える区間の中でも、人気なのが有間川駅の近く。同駅は日本海の目の前にあり、列車と海が一緒に撮影できるスポットとあって、訪れる人が多い。
ほかに一度下車してみたいのが筒石駅。トンネル内にある珍しい駅だ。北陸本線は、同駅がトンネル内に造られるまでは、海側に地上駅があった。駅の開業は1912(大正元)年と古い。地上駅だったものの、地滑りが多発した区間で、1963(昭和38)年に民家と列車が巻き込まれる土砂崩れが発生した。その後に、安全と輸送量を確保するために複線の頸城トンネル(くびきとんねる)を掘削し、トンネル内に筒石駅を開業させた。
「えちごトキめきリゾート雪月花」の午前便、午後便とともに同駅に停車、10分弱と短いながらもホームに降りることが可能だ。とはいえ地上の改札口からトンネル内の下りホームまで290段、上りホームまで280段で、エスカレーターやエレベーターはない。かなり〝労力〟を必要とする駅である。とてもえちごトキめきリゾート雪月花の短い停車時間内で改札までの往復は無理だ。
筆者も、JR時代に訪ねたことがあるが、ホームから改札口まで大変な思いをして上り下りした。海沿いにある筒石の集落から約1kmと遠いこともあり、一日の乗車客は20人程度と〝秘境駅〟に近い。とはいうものの〝話の種〟になる駅である。
いま同駅を通る列車は普通列車以外に貨物列車が通過するのみとなっている。JR当時は特急列車がかなりのスピードで走り抜けていた。その通過する時の風圧は予想以上で、ホームと階段・通路の間には頑丈な引き戸が設けられていて、列車通過時に備える仕組みとなっている。
その先の糸魚川駅も一度は訪れておきたい駅だ。駅の建物に併設される「糸魚川ジオステーション ジオパル」には、大糸線を走っていたキハ52-156が静態保存されている。東京・六本木で開かれた鉄道イベントで使われた糸魚川産の杉材を使ったトワイライトエクスプレス展望車のモックアップも、現在は、こちらの施設に展示されている。表を飾るレンガ造りの外装は、かつて糸魚川駅のレンガ車庫だったもので、当時のレトロでおしゃれなたたずまいがよみがえるようだ。
日本海ひすいラインは糸魚川駅から先は3駅ほどだが、青海駅〜親不知駅〜市振駅間は特に険しさが感じられるところ。山が海ぎりぎりまで迫り、狭い海岸線に海側から北陸自動車道、国道8号、日本海ひすいライン、県道525号線の路線が平行して走る。列車に乗っていても、その険しい地形に驚かされる。
今のように交通機関が発達していないころに、同地を通行した人は断崖絶壁が続く海岸に難渋した。それこそ〝親は子を、子は親を顧みるゆとりがなかった〟とされる。それこそ〝親不知・子不知〟の土地なのである。
富山県との県境近くの市振駅付近になると、急に風景が開け始める。普通列車は県境を越えて泊駅まで走るが、市振駅の先に架かる境川が、富山県との県境となる。それこそ〝境(さかい)〟の川なのだ。この先、鉄橋を渡り列車は北陸地方へ入る。この境川の川岸も、すでにあいの風とやま鉄道の路線に入っているとはいえ、なかなかの好スポットといって良いだろう。