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2021/11/28 6:00

展望車の登場でさらに魅力アップした東武鉄道「SL大樹」

〜〜東武鉄道鬼怒川線のSL列車(栃木県)〜〜

 

東武鉄道の人気のSL列車「SL大樹(たいじゅ)」がこの秋に大きく変わった。新たな展望車が連結されるようになったのである。11月に入り2週連続で週末に訪れたが、紅葉シーズンと新型車両の登場が重なり、鬼怒川温泉駅は賑わっていた。

 

登場してから4年。列車も沿線も確実にパワーアップして魅力の度合いを高めている。列車の誕生を含め、改めて「SL大樹」の旅を見直していきたい。

 

【東武SLの旅①】「SL大樹」の生い立ちを振り返る

「SL大樹」は2017(平成29)年8月10日に、東武鉄道鬼怒川線の下今市駅〜鬼怒川温泉駅間を走り始めた。運転開始以来、今年で4年となる。

 

東武鉄道では、運転の開始前から長期にわたりSL列車運行の準備を始めていた。同社がかつてSLの運転を行っていたのは1966(昭和41)年6月まで。すでに半世紀の時が流れ、SLのことを知っている社員はほとんどいない状態から進められた。

 

SL列車の運転を行っていた大井川鐵道ほか多くの鉄道会社に協力を求め、社員を派遣し、運転方法、整備方法を長期にわたって学ばせ、技術を習得させた。そして複数の鉄道会社から車両を購入、または借用し、転車台などの施設も遠方から運び整えるなど、大規模プロジェクトとして計画が進められていった。そして2016(平成28)年12月1日に蒸気機関車C11形207号機を報道陣に公開するまでに至ったのである。

↑南栗橋車両管区に設けられたSL検修庫を前に公開された牽引機C11形207号機。このあと半年以上にわたる試験走行が続けられた

 

公開された後も、すぐには運転開始されなかった。鬼怒川線を使っての試運転、習熟運転が半年にわたって続けられた。そして満を持しての2017(平成29)年8月10日の運転開始となったのである。

↑鬼怒川温泉駅を発車する試運転列車。写真は2017(平成29)年6月4日の撮影。運転開始後、「SL大樹」はさらに進化していった

 

「SL大樹」は、東武鉄道の列車の乗車率を高めるためだけに運転が始められたわけではない。SL列車が走る鬼怒川温泉の人気を取り戻すという大きな使命があった。

 

鬼怒川沿いに温泉旅館が建ち並ぶ鬼怒川温泉。この温泉郷には大規模なホテル・旅館が多い。1960年代の高度経済成長期には社員旅行や団体旅行が大流行し、それに合わせて規模を拡大した宿が多かった。しかし、時代は大きく変化していき、社員旅行・団体旅行はすたれていく。廃業する宿も目立っていった。

 

鬼怒川温泉は日光市の藤原地域にある。藤原地域の「入込客」の推移を見てみると、2010(平成22)年度の237万3390人をピークに、その後、170万人台と落ち込んでいる。こうした藤原地域のてこ入れ策の一つとして「SL大樹」運行が計画されたのである。

 

「SL大樹」の運転が開始された2017(平成29)年度には「入込客」は233万5212人まで復活、以降、230万人前後で推移している。昨年度こそ新型コロナ感染症で「入込客」が減ったものの、SL列車の運転は一定の成果をもたらしたのだった。

↑鬼怒川温泉駅前に設けられた転車台。蒸気機関車が方向転換する時間ともなると、転車台の周りはずらりと見物客が取り囲む

 

SL列車の運転だけでなく、鬼怒川温泉駅の目の前に転車台を設けたのも効果があったのではないだろうか。転車台で行われる蒸気機関車の方向転換作業は鬼怒川温泉の人気のイベントとして定着している。転車台は、通常は駅構内にあり、利用者にはあまり縁のない作業だった。しかし、東武鉄道ではSL列車が走る鬼怒川線の起点、下今市駅とSL列車が折り返す鬼怒川温泉駅の両駅で、観光で訪れた人たちが楽しめる場所に転車台を設け、それをイベント化してしまった。これは実に画期的なプランだったように思う。

 

【東武SLの旅②】SL運転に使われている車両をチェック!

ここで「SL大樹」に使われる車両を整理しておこう。まずは蒸気機関車から。

 

◆蒸気機関車 C11形207号機

↑新展望車を連結して走るC11形207号機。前照灯を上部に付ける独特な姿が特長で「カニ目」と呼ばれ親しまれてきた

 

元はJR北海道で観光列車の牽引用に活躍していた蒸気機関車で、「SL大樹」の運転開始にあたりJR北海道から借用する形で、東武鉄道へやってきた。1941(昭和16)年12月26日生まれで、人間の年ならば今年でちょうど80歳、傘寿(さんじゅ)にあたる。現役当時、北海道では日高本線、瀬棚線などを走っていた。濃霧が多い線区を走ったこともあり、煙突の横に前照灯を2つ設けている。この独特な姿から「カニ目」と呼ばれ親しまれてきた。

 

◆蒸気機関車 C11形325号機

↑2020(令和2)年の暮れから運転が始められたC11形325号機。戦後生まれでC11形の4次形と呼ばれるグループに含まれる

 

栃木県・茨城県を走る真岡鐵道から購入したC11形蒸気機関車で、生まれは1946(昭和21)年3月28日と207号機に比べるとやや若い。とはいうものの誕生して75年になる。誕生時は神奈川県の茅ヶ崎機関区に配置され、相模線や南武線を走った。現役最後には東北地方へ移り、米坂線、左沢線(あてらざわせん)などを走った。引退後は新潟県阿賀野市の水原中学校で静態保存されていた。

 

1998(平成10)年に復元工事が行われ、真岡鐵道ほかJR東日本の路線でSL列車の牽引に活躍した後に、2020(令和2)年に東武鉄道に引き継がれ、同年の暮れからSL大樹の牽引機として走り始めている。

 

東武鉄道ではほかにC11形蒸気機関車の123号機の復元工事も進めていて、将来は3機態勢で「SL大樹」は運転されることになる。

 

次に客車を見ておこう

 

◆14系客車

↑ぶどう色という濃い茶色で塗られた客車編成。国鉄の旧型客車を思い起こさせる懐かしいカラーとなっている

 

↑青色で塗装された客車編成。14系客車を前後に中間には展望デッキ付きの12客車を連結して運転

 

14系は国鉄が造った客車で寝台車、また座席車の2タイプに分けられる。東武鉄道を走る14系は座席車で、JR北海道、JR四国で使われていたものだ。元特急列車用で回転式座席を持ち、簡易リクライニングシート仕様となっている。「SL大樹」は通常、客車3両で運転され、新展望車12系を中間に、前後に14系が連結されて走る。車体色は14系が「青20号」、12系が戦後の客車列車の趣をイメージさせる「ぶどう色2号」と、かつてのブルートレインを彷彿させる「青15号」で塗られ、すべて「ぶどう色2号」に塗られた編成も登場している。

 

◆12系客車

12系客車は国鉄が製造した急行形座席客車で1969(昭和44)年から1978(昭和53)年までに計603両が製造された。その多くがすでに引退となっているが、東武鉄道にはJR四国で使われていた2両がやってきた。今年になり展望車に改造(詳細は後述)され、SL大樹の客車の中間車として連結されている。

 

以下、「SL大樹」の運転に欠かせない車両をチェックしておこう。

 

◆車掌車 ヨ8000形

C11形蒸気機関車の後ろに連結されているのが車掌車ヨ8000形で、東武鉄道路線上では必ずペアを組んで走る。車掌車は現在2両が使われているが、JR貨物とJR西日本で活躍していた車両だ。東武形ATS(TSP)などの機器類を積んでSL列車の安全な運行を手助けする役割を担っている。

↑蒸気機関車の後ろに連結されている車掌車ヨ8000形。SL列車の安全な運転に欠かせない機器類が積み込まれている

 

◆DE10形ディーゼル機関車

↑「SL大樹」を後ろから押すDE10形ディーゼル機関車。写真の1109号機はブルートレインを牽いた機関車と同じ青色塗装で活躍する

 

SL列車の運転を補助的な役割をするディーゼル機関車で、後ろから列車を押す補機として、東武日光駅行きの「SL大樹『ふたら』」の運行などに使われる。最近は、補機を付けずに蒸気機関車の牽引のみで運行される列車も多くなっている。

 

使われるDE10形は国鉄が生み出したディーゼル機関車で、駅構内での貨車の入れ替え、支線での旅客・貨物列車の牽引と万能型機関車として使われてきた。今もJR各社で使われているが、東武鉄道にはJR東日本で働いていた1099号機と1109号機の2両が入線している。1099号機は国鉄時代の塗装、1109号機は、北海道で特急北斗星を牽いたDD51形ディーゼル機関車と同じ青色に金帯の塗装で、鉄道ファンにとっては楽しい車体色となっている。

 

【東武SLの旅③】新しい展望車はどのような客車なのだろう?

ここで11月から「SL大樹」に連結される展望車のディテールを見ておこう。

 

新展望車には前述した12系客車2両が改造されて使われている。まず、ぶどう色の客車が「オハテ12-1」、青色の客車「オハテ12-2」という車両番号が付く。それぞれ車両の約4分の1スペースを「展望デッキ」に改造し、側面を開けて手すりを設け、外気が直に感じられるようにした。

 

この展望デッキを設けた理由として、これまで乗車した人の声の中に「SLが吐き出す煙や、石炭が燃えたにおいを感じたい」、「SLのドラフト音が聞きたい」といった要望があったからだと言う。確かに現代の客車はきっちり窓が閉まることもあり、なかなかSL列車の特長が掴みにくい。

 

筆者の世代から上になるとSLが牽くローカル線の列車ではトンネルが近づくたびに「窓を閉めろ」と声が飛びかい忙しく開け閉めをした。そんな記憶や、石炭を燃やした煙の香りも頭の中にしっかりと刻み込まれている。そうしたSL列車の特長を肌で感じたいという世代も多いのであろう。

↑青く塗られた展望車オハテ12-2は11月13日から正式に走り始めた。「12系展望車就役記念乗車券」も発売されている(右上)

 

オハテ12-1は11月4日、またオハテ12-2は11月13日から「SL大樹」に連結され走り始めている。写真で展望車の特長を紹介しておこう。まずは展望デッキを横から見たところから。

↑オハテ12-2車両の展望デッキ部分を横から見る。上下すべて開いたスペースと上部のみ開いたスペースが設けられた

 

↑連結器側から見た展望デッキ。程よい高さのベンチと壁にはヒップレスト、スタンションポールが設置された

 

↑展望デッキには高さの異なるベンチを用意される。側面には手すりが付き小さな子どもたちでも安心して外の景色が楽しめる

 

↑オハテ12の客席はボックス席で真ん中にテーブルがある。テーブルの横には丸形フックが、座席の肩部分には手すりが付けられた

 

展望車の客席部分は4人掛けのボックス席で、ウッド風のテーブルを真ん中に設けている。上下2段のガラス窓は上のみ開くようにし、客室内でもSLが燃やす石炭の香りがほのかに伝わるように工夫された。

 

【東武SLの旅④】運転区間、運転状況を整理しておこう

展望車が連結されたことで新たな魅力が加味された「SL大樹」。現在どのような時刻、区間で運転されているのか整理しておこう。

 

運行パターンは7パターンがある。7つすべては書ききれないので、細かいところは「SL大樹」の公式ホームページを見ていただきたい。ここでは代表的な運行パターンを紹介しておきたい。

 

まずは平日に多い「運行パターンB」。運行パターンBはSL一両での運行となる。なお東武ワールドスクェア駅の発着時刻はここでは省略した(以下同)。

◆SL大樹「ふたら」71号下今市駅11時28分発→東武日光駅11時51分着
◆SL大樹「ふたら」72号東武日光駅12時33分発→下今市駅12時51分着・13時発→鬼怒川温泉駅13時48分着
◆SL大樹6号鬼怒川温泉駅15時37分発→下今市駅16時14分着

 

↑東武日光駅に到着した「SL大樹『ふたら』」。東武日光から下今市駅への運転はディーゼル機関車を先頭にバックする形で運転される

 

週末や祝日に運転されることの多い「運行パターンD」は次のようなダイヤだ。SLは1両での運行になる。

 

◆SL大樹1号下今市駅9時33分発→鬼怒川温泉駅10時9分着
◆SL大樹2号鬼怒川温泉駅11時10分→下今市駅11時45分着
◆SL大樹5号下今市駅13時発→鬼怒川温泉駅着13時48分着
◆SL大樹6号鬼怒川温泉駅15時37分発→下今市駅16時14分着

 

運転本数が多い「運行パターンE」の場合は次のようになる。「パターンE」の日はSL2両を使っての運行が行われる(時刻順)。

 

◆SL大樹1号下今市駅9時33分発→鬼怒川温泉駅10時9分着
◆SL大樹2号鬼怒川温泉駅11時10分→下今市駅11時45分着
◆SL大樹「ふたら」71号下今市駅11時28分発→東武日光駅11時51分着
◆SL大樹「ふたら」72号東武日光駅12時33分発→下今市駅12時51分着・13時発 → 鬼怒川温泉駅13時48分着
◆Sl大樹7号下今市駅14時55分発→鬼怒川温泉駅着15時32分着
◆SL大樹6号鬼怒川温泉駅15時37分発→下今市駅16時14分着
◆SL大樹8号鬼怒川温泉駅16時43分発→下今市駅17時18分着

 

さすがにSL2両を使って運行される日は本数が増え、かなり賑やかなダイヤとなる。

 

ちなみに、その日に運転されるSLが207号機か325号機かは、ホームページ上の「○月の運転日毎の編成予定はこちら」というコーナーで紹介されているので参考にしていただきたい。ディーゼル機関車が補機として連結されるかどうか、また国鉄色の1099号機か、青色の1109号機かまで分かるので大変に便利だ。

 

【東武SLの旅⑤】運転された4年間で沿線も大きく変わった!

「SL大樹」が運転される前は、鬼怒川線沿線にあまり足を運んだことのない筆者だったが、運転され始めた後は一年に数回は訪れるようになった。まさに「SL大樹」の魅力にはまってしまったのである。訪れるたびに沿線が少しずつ変わってきていること気がついた。

 

東武鬼怒川線には昭和初期に造られた駅や建造物が多く残り、それが長い間、大切に使われてきた。そんな鬼怒川線の鉄道施設7件が「SL大樹」が走り始めた2017(平成29)年の7月21日に国の登録有形文化財に登録された。SL復活運転の目的の一つには「鉄道産業文化遺産の保存と活用」の推進という大事なテーマがあったのである。

↑鬼怒川線の途中駅も徐々にお色直しされている。写真は現在の新高徳駅で、右上が以前の駅舎。きれいに整備されたことが分かる

 

そうした駅に残る文化財の保存とともに、駅がきれいに整備されていった。例えば「SL大樹」が発着する下今市駅。旧跨線橋が登録有形文化財に指定されるが、駅舎は博物館のように落ち着いた趣に整備されている。また新高徳駅はホームと古いレールを使った鉄骨造の上家が登録有形文化財に指定されている。新高徳駅は2019(平成31)年に駅舎もきれいに整備され、おしゃれな駅に生まれ変わった。

 

鬼怒川温泉駅も「SL大樹」の運転開始後にリニューアルされた。栃木県産の杉材を使った造りが評価され、2018(平成30)年に林野庁が主催するウッドデザイン賞に輝いている。構内の跨線橋には沿線の登録有形文化財に関しての案内があるので、ぜひ見ておきたいところ。時間に余裕があれば、駅前にある足湯に浸かっておきたい。

↑リニューアルされた鬼怒川温泉駅。左上はSL列車が運転開始された当時の駅舎。駅前には転車台のほか足湯も設けられている

 

【東武SLの旅⑥】代表的な人気撮影地を歩いてみると

ここからは乗車した時に役立つように沿線の見どころを簡単に紹介しておきたい。また、撮影地として人気のポイントと、車内から楽しめる美景ポイントも触れておこう。

 

起点の下今市駅側から紹介しよう。下今市駅を発車したSL列車は右にカーブして川を渡る。この川は大谷川(だいやがわ)。日光・中禅寺湖が源で、華厳の滝として落ち、日光市内で有名な神橋が上流にある。橋を渡れば間もなく大谷向駅(だいやむこうえき)だ。鬼怒川線は単線のため途中、大谷向駅ほか複数の駅に交換設備があり、特急列車や普通列車と行き違う。

↑「SL大樹」が走る鬼怒川線の路線図。地図内の写真は代表的な人気撮影ポイントで撮ったもの

 

大谷向駅を過ぎると、沿線には水田が点在、また左手には杉林が連なる。この杉林の下を通るのが会津西街道で、今市から旧会津藩の城下町・会津若松まで延びている。そんな風景を見ながらSL列車は走る。

 

間もなく倉ヶ崎SL花畑と名付けられた広場にさしかかる。地域の人たちによって整備された公園で、春には菜の花、夏にはヒマワリ、秋には秋桜が咲き、それぞれの季節には、花の写真とSL列車の写真を撮影に訪れる人も多い。ここではホタルを復活させる取り組みも行われているそうだ。

 

鬼怒川線の沿線は左右両側に架線柱が立つところが大半だが、この花畑のところは片側のみとなっていて、写真撮影には絶好なポイントといえるだろう。もちろん車内から見ても美しい。

↑倉ヶ崎SL花畑の東側には水田があり、春には写真のような水面鏡を生かした写真撮影も可能に。撮影日は2021年5月4日

 

↑倉ヶ崎SL花畑側から望む下今市駅行き「SL大樹」。列車に手を振る光景がよく見かけられる

 

次の大桑駅から新高徳駅までは変化に富んだ風景が楽しめる。勾配区間もありSLが煙を多く出しつつ走る区間でもある。また駅間には2本の大きな川が流れ、渡るSL列車が絵になる。川はまず一本目が小百川(こびゃくがわ)で、この川に架けられた砥川橋梁は登録有形文化財にも指定されている。平行する国道121号の歩道から気軽に写真撮影が可能とあって、訪れる人も多い。

 

さらに新高徳駅の近くには鬼怒川が流れる。鬼怒川橋梁は走る列車の撮影にはあまり向いていないものの、車内から見下ろす鬼怒川と遠くの山並みは新緑と紅葉時期(後述)、特に素晴らしい。

 

新高徳駅の先、小佐越駅(こさごええき)付近からは国道352号が間近を走るようになり、この国道沿いにも人気の撮影ポイントが点在する。

 

東武ワールドスクウェア駅を過ぎ、鬼怒川温泉駅が近づく途中、鬼怒立岩(きぬたていわ)信号場からは複線区間となる。写真撮影や、列車に手をふる人もこの区間は多い。ちなみにこの信号場にはかつて鬼怒立岩駅という駅があった。1964(昭和39)年に廃止となり、今は単線から複線区間へ変わる信号場として残されている。

 

鬼怒川温泉駅がSL列車の終点駅となるが、東武鉄道鬼怒川線の線路は新藤原駅まで延びている。さらにその先は、野岩鉄道(やがんてつどう)、会津鉄道と線路が続く。会津若松駅、また休日にはラーメンの町、喜多方まで行く快速「AIZUマウントエクスプレス」も鬼怒川線を走っている。

 

【東武SLの旅⑦】新展望車が連結されたSL列車に乗車した!

筆者は運転開始以来「SL大樹」の写真を数多く撮影してきたが、乗車したことがなかった。乗車しないことには、どのような列車なのかレポートもできない。そこで展望車を連結したばかりの「SL大樹」に乗車することにした。

 

予約は東武鉄道の駅窓口だけでなく、スマートフォンでも可能だ。ちょうど「SL大樹2号」の2号車「16D」という座席が空いていたのでそこを予約した。座席指定料金は鬼怒川温泉駅から下今市駅間が760円と手ごろだ。運賃は251円(ICカード利用の場合)なので計1011円となった。

 

乗車する「SL大樹2号」は鬼怒川温泉駅11時10分発。早めに乗車したいと考え、鬼怒川温泉駅の3番線ホームに。この日はC11形325号機が青い客車3両を牽いて走る日で補機は付かない日だった。跨線橋を渡り3番線に向かうと、すでにホームは家族連れでいっぱい。みな蒸気機関車を背景に記念撮影で忙しそうだった。そんな熱中する姿を見ながら乗降扉が開くのを待つ。

 

乗車すると自分が指定した2号車「16D」の席は扉をはさみ展望デッキのすぐ裏側だった。調べずに指定したのだが、なんともラッキーだった。

 

中間車となった展望車は4人掛けのボックス席で、グループ、ファミリーにはうってつけだ。今回は1人の乗車ということで心配だったが、向かい側に座られた方々と気軽におしゃべりできて助かった。出発して間もなく展望デッキへ出てみる。展望デッキはすでに多くの人で賑わっていた。

↑オハテ12-2の展望デッキから鬼怒川を見下ろす。紅葉にカメラを向ける人が目立った。窓越しではない景色が楽しめて大好評だった

 

乗車した日は絶好の晴天に恵まれた。風もなく小春日和そのもの。展望デッキに立つと、ガラス窓越しではない〝生の景色〟が楽しめる。鬼怒川橋梁では見下ろす景色が特に素晴らしく、展望デッキは歓声に包まれた。

 

【東武SLの旅⑧】乗車したご家族に話を聞いてみた

筆者の横には宇都宮市に住まわれるOさんご家族が座られた。小さいお子さんが一緒、通路側の席の指定ということで、外の景色が楽しめず。発車後は展望デッキで過ごされていた。運悪く通路側の席の指定しか取れなくても、展望デッキに出れば、外の景色をふんだんに楽しめる。これが展望デッキの良さなのだなと思った。

↑展望デッキで楽しむOさんご家族。小さなお子さん連れだったが、迫力ある展望を満喫されたようだった

 

そんなOさんご夫妻は「今日は、息子が喜ぶかなと急きょ乗ることに決めました」とのこと。

 

「満席ぎりぎりで席を取ることができたのは幸運でした。窓口で購入したら、硬券の切符で日付も自分で印字させてもらえて貴重な体験ができました」。

 

なるほど、窓口で買うと硬券切符が購入できるとは知らなかった。次回はぜひ窓口で購入したいと思った。

 

ただ、「座席や通路が少し狭かった」と感じられたそう。確かにこの日の車内は満席で混み合っていた。また展望デッキそばということで行き来する人も多くて、少し落ち着かない印象があった。

 

「息子にとっては窮屈だったようでご機嫌が悪くなってしまいましたが……、展望デッキでは風を感じながら景色もよく見ることができ、飽きずに楽しそうでした」とのこと。目の前に手すりがあるので、小さい子ども同伴でも安心して乗車できるようだ。

「沿線の方々が、手を振ってくれるのがあたたかくてうれしかったです」と話すように、鬼怒川線沿線に住む多くの人たちが、「SL大樹」を温かく迎えてくれるように感じた。

 

終点の下今市駅まで乗車時間は35分と短めだったが、濃厚な時間を過ごすことができた。小さな子どもたちでも飽きずに楽しむことができるのではと感じた。乗り足りないと思ったら、往復乗車すれば良いわけである。

 

【東武SLの旅⑨】東武鉄道の特急も新しく変わっていく!

最後にSL列車の話題から少し離れるが、東武特急の話題に触れておきたい。

 

東武特急がこの数年で大きく変わりそうである。いま鬼怒川線には100系スペーシアと500系リバティ、またJR東日本の253系特急「きぬがわ」が乗り入れている。500系は2017(平成29)年4月、「SL大樹」と同じ年に生まれた新型特急だ。500系は登場後、徐々に増車されていて、列車本数も増えてきた。

 

既存の100系スペーシアもリバイバル企画が進められている。まずは2021(令和3)年6月5日からリバイバル塗装車両が走り始めた。ジャスミンホワイトを基調に、パープルルビーレッドとサニーコーラルオレンジ、窓部分にブラックラインという100系のデビュー当時のカラーリングで走る。

 

さらに、かつて一世を風靡した1720系デラックスロマンスカーの塗装に変更された100系の新たな塗装編成が12月5日に登場の予定だ。

↑1960(昭和35)年に運転を開始した1720系。12月5日に登場する100系がどのような色になるか楽しみだ 写真提供:東武鉄道

 

さらに楽しみなニュースがある。100系の後継車両となる新型「N100系」が導入されるというのである。登場は2023(令和5)年になる予定で、6両×4編成が新造される。

 

車体色はホワイト。日光東照宮陽明門や御本社などに塗られた「胡粉(ごふん)」をイメージした高貴な白い車体になるという。イメージ図を見ると窓の格子が目立つ。この格子は沿線の鹿沼に伝わる組子、または江戸伝来の竹編み細工をイメージしたものなのだという。近未来的なデザインとなりそうだ。

 

加えて12月に「SL大樹」にも新たな話題が発表される予定とのこと。まだ明らかにされていないが〝鉄道好き〟〝SL好き〟な人には、とっておきのクリスマスプレゼントになりそうだ。

 

4年前に登場した「SL大樹」は確実に進化を遂げてきた。東武特急とともにこれからも目が離せない人気列車となっていることがよく分かった。

↑2023(令和5)年に導入予定のN100系。車体は白、窓周りなどかなり凝った造りの新型特急となりそうだ 写真提供:東武鉄道