【近畿日本鉄道】新観光列車導入や駅周辺の開発計画が進む
ここからは近畿地方を拠点とする大手私鉄の事業計画・投資計画に話を進めたい。首都圏とは異なり、近畿地方の大手私鉄からは単年度の計画は発表されていない。中・長期計画のみとなる。
まずは私鉄最大の路線網を持つ近畿日本鉄道(以下「近鉄」と略)から。同社からは2021(令和3)年5月14日に「近鉄グループ中期経営計画2024」が発表されている。基本方針は「コロナ禍から回復し、新たな事業展開と飛躍に向かうための経営改革」としている。多彩な業種を持つ近鉄グループのプランということもあり、ここでは鉄道事業の一部に絞って見ていきたい。
新車増備計画:注目された新観光列車「あをによし」の導入
「中長期戦略/鉄道」の中で「魅力的な車両開発による観光需要の創出」があげられている。まずは名阪特急「ひのとり」デビュー1周年とし、2021(令和3)年2月で全72両(11編成)の投入が完了した。
80000系「ひのとり」は、名阪特急用に2020(令和2)年3月14日に運行が始まった。余裕を持たせた座席配置で、密を避けたい時代にフィットしたこともあり、好評な運行を続けている。
中長期計画では2022年以降、新たな観光特急の運行を計画中と記されていたが、この最初の列車が観光特急「あをによし」となった。大阪難波駅〜近鉄奈良駅間と、京都駅〜近鉄奈良駅間を往復する。豪華な2人がけツインシートと、3〜4人がけサロンシートといった客席構成がユニークだ。
今年の4月29日からの運行だったが、筆者が走る前に近鉄京都線の沿線で写真を撮っていたところ、複数の人から「今日は『あをによし』が走るの?」と聞かれた。さらにみなが一度は「乗ってみたい」と話していたのが印象的だった。
「あをによし」は運賃+特急料金に加えて特別車両料金210円を払えば乗車できるとあってお得な印象が強い。沿線に住む人が興味を持ち乗ってみたいという列車は、これまであまりなかったように思う。沿線の人が興味を示してくれることは、鉄道会社にとってありがたいことではなかろうか。近鉄が今後、どんな新たな観光列車を導入してくるのか、興味深いところである。
設備投資計画:沿線の複数の駅で再開発が進められる
中期計画の「03重点施策の主な取り組み」では「駅周辺再開発の推進」も取り上げられている。5つの駅をあげているが、奈良線の駅が多く河内小阪駅、学園前駅、大和西大寺駅の3駅で再開発を計画している。
新観光列車「あをによし」が奈良線と京都線を走り、奈良線の複数の駅で再開発を行われることを見ても、近鉄が奈良線をかなり重視していることがわかる。
【阪急・阪神】省エネ電車の導入と梅田エリアの開発
阪急阪神ホールディングスグループからは5月20日に「『長期ビジョン-2040年に向けて』及び中期経営計画の策定について」と題したプランが発表された。阪急電鉄と阪神電気鉄道の2社は阪急阪神ホールディングスグループの子会社にあたるが、両社とも中核企業ということもあり、プランの中でも大きく扱われている。
長期ビジョンの戦略1として「関西で圧倒的No.1の沿線の実現」を掲げている。具体的には「梅田エリアのバリューアップ」、「沿線主要エリアの活性化(千里中央地区の再整備構想)」、「鉄道新線等による交通ネットワーク(インフラ)の整備」の3テーマをあげている。
新車増備計画:阪急・阪神両社で進む次世代型電車の増備
中期経営計画の中の重点施策1として「収支構造の強靭化への取組」の「都市交通」の括りの中で、「鉄道の有料座席サービスの導入 2024年を目途(もくと)」を記載している。これまで有料座席サービスを行う車両を導入してこなかった同社グループ。近畿圏では近鉄、京阪、南海が有料座席サービスを行う中で、貴重な会社でもあったのだが、やはり収益力を上げるためには、有料座席サービスが必要不可欠と見ているのだろう。
また、重点施策4の「SDGs・2050年カーボンニュートラルに向けた対応」にある各事業の今後の主な取組内の「都市交通」に関して「鉄道車両の代替新造(省エネ車両)の推進」を掲げている。
両社はかなり前からこうした取組をしていて、たとえば2013(平成25)年から導入した阪急1000系(ほぼ同形の京都線用1300系も含む)は車体のリサイクルが容易なアルミダブルスキン構造で、客室照明や前照灯類などすべてLEDを採用している。
一方の阪神電気鉄道の各駅停車用の5700系は「人と地球へのやさしさ」が考えられ新造されている。阪急電鉄の1000系・1300系が取り入れた要素を持つ省エネ車両で、旧型車の置き換え用に最近も増備された。
現在では当たり前のように導入される環境にやさしい車両づくりを一足先に進めていたわけで、先見の明があったということなのかもしれない。
設備投資計画:グループの北大阪急行の延伸工事も完了へ
阪急阪神ホールディングスグループは大阪メトロ御堂筋線へ乗り入れる北大阪急行線という鉄道会社の運営も行っている。同グループの計画書には「強固な交通ネットワークの構築を目指して」として「北大阪急行線の延伸」が記されている。北大阪急行線は千里中央駅〜箕面萱野駅(みのおかやのえき)間が工事中で、2023年度中には開業する予定としている。
今年発表された計画では、2023(令和5)年3月開業予定の東海道支線の大阪駅から阪急電鉄の大阪梅田駅にかけて再開発を検討しており、「芝田1丁目計画」と名付けられたプランでは、大阪梅田駅に隣接した大阪新阪急ホテル・阪急ターミナルビルの建替え、阪急三番街の全面改修が計画されている。大阪駅、梅田駅の周辺がさらに大きく変わっていきそうだ。
2031(令和13)年春に開業予定の「なにわ筋線」の新線計画にも阪急阪神ホールディングスが参画している。同新線は大阪市内に南北に延びる予定で、JR西日本、南海電気鉄道と共に将来は「阪急十三方面に分岐する路線(なにわ筋連絡線)について、国と連携しながら整備に向けた調査・検討を進めます」(大阪府ほか5社発表「なにわ筋線の整備に向けて」より)としている。線路幅はJR西日本や南海電気鉄道と異なることもあり、乗り入れは難しいが、どのような路線計画となるのか気になるところだ。
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【南海電気鉄道】高野線向け8300系の導入も始まる
南海電気鉄道(以下「南海」と略)からは3月31日に「新中期経営計画『共創140計画』について」と題する、今年から2024(令和6)年度にかけての3年間にわたる計画が提案された。今の時代に対応していくには「1社単独では難しく、他者との『共創』がより一層重要になってくる」としている。
新車増備計画:8300系の増備さらに新線向け電車の計画も
具体的な車両計画は、同プランに記されていないが、最近の車両の導入を見ると、南海本線で8300系を増備し、さらに高野線へも2019(令和元)年11月からこの8300系6次車の導入を始めた。南海本線に導入された8300系の5次車と比べると15%の省エネ効果があるとされる。この導入により高野線の車歴60年と古強者だった6000系の引退が進められている。
共創140計画には、新車のイメージイラストが掲載されていたが、こちらは「なにわ筋線対応を含めた車両戦略の策定(「乗りたい電車づくり」の実現)」と解説されている。まだ車両イメージの段階で、具体的には明らかにされていないが、なんば筋線への乗り入れを考えた電車と推測されている。
設備投資計画:なんば筋線開通を柱に据えて未来を描く
南海が〝共創〟を掲げたのは、やはりなんば筋線の開業が将来に控えていることが大きいのであろう。なにわ筋線は、新大阪駅から大阪駅(新駅)を経て、中之島駅、西本町駅(いずれも仮称)、この先でJR線と南海線が分かれ、南海の新今宮駅に至る路線として計画されている。開業目標は2031(令和13)年で、共創140計画には「なにわ筋線開業に向けて沿線を磨く10年間」と記されている。具体的な戦略として、前述した新車両に加えて「新今宮駅、中百舌鳥駅(なかもずえき)、およびこれらに続く拠点駅の整備」をあげている。JR西日本と阪急阪神ホールディングスとの共同事業だけに、将来を見据えて、他社との調整が欠かせないものとなっている。
さらに、南海本線・高野線の起点となる南海なんば駅周辺では「エンターテイメントシティ2050Namba」(仮称)という提案がなされている。現在の南海なんば駅の最寄りには、なにわ筋線の南海新難波駅も開業の予定で、この新駅まで含めての「共創エリア」とすることを目指している。
なんばは大阪南の繁華街だけに、今後どのように街の発展を目指していくか、調整役としての南海の存在が重要になるのかもしれない。