電気自動車(BEV)が相次いで市場に登場するなか、より身近な存在となる軽BEVが日産と三菱によって共同開発されました。それが日産「サクラ」と三菱「eKクロス EV」です。サクラは日産の新モデルとして、eKクロス EVはそれまでのeKクロスの派生モデルとしての位置付けです。ここでは、そのeKクロス EVの試乗ポートをお届けします。
【今回紹介するクルマ】
三菱/eKクロス EV
※試乗車:P
価格:239万8000円〜293万2600円(税込)
新型軽EVは「eKクロス」の派生モデルとしてラインナップ
今回、試乗したのは最上位グレードの「P」です。その実車を前にして感じるのは、フロントグリルやエンブレムに多少の違いはあるものの、外観はガソリンエンジン車とほぼ同一であるということです。サクラがウインドウやアウターミラー以外をすべて新設計にしたのに対し、eKクロス EVはちょっと見ただけではEVとは気付かないほどです。
これについて三菱の開発担当者は、「これはSUVをメインにラインアップしている三菱らしいアイデンティティで臨んだ結果」と話します。アウトランダーやデリカなどで培った三菱らしいデザインが好まれている今、そのデザインをあえて主張することでファンの心をつかもうというわけです。その意味で、新たなEVとして位置付けたサクラとはそもそものコンセプトが基本的に違っています。
ところで、eKクロス EVとガソリン車はどう見分ければいいのでしょう。最も簡単なのは運転席側のリアフェンダーにある充電用ソケットの有無です。すれ違うときにこの切れ込みがあればeKクロス EV、なければガソリン車です。これなら簡単に見分けられますね。
そんなeKクロス EVですが、その人気は急速が高まっています。三菱自動車によれば、7月3日までになんと4559台を受注。三菱の販売店は全国に550店舗(21年3月現在)ありますが、なんと1店舗当たり8.3台もの受注を獲得しているのです。しかも千葉県内の某販売店を取材すると「受注の半数は他社ユーザー」と話しており、まさにeKクロス EVは三菱のシェア拡大に大きく貢献していると言って間違いないでしょう。
ekクロス EVは2つのグレードがラインアップされました。標準グレードが「G」で、価格は239万8000円。フル装備の上級グレードが「P」で、価格は293万2600円。なかでも注目なのが標準グレードの「G」で、補助金55万円を差し引いて考えれば、実質184万8000円となります。補助金は登録(軽の場合は届け出)してからの支払いとなりますが、これによって軽自動車の枠内でEVが買えるようになったとも言えるわけです。
セカンドカーとして位置付け、バッテリー容量は20kWhに
では、この価格はどうやって実現したのでしょうか。そのポイントは搭載バッテリーの容量にあります。BEVの航続距離はバッテリーの容量で大きく左右されますが、このバッテリーは高価で、容量を増やせば自ずと車両価格は高くなってしまいます。そこでサクラとeKクロス EVのような新型軽EVでは、この容量を20kWhとしました。これはBEVで先駆けた日産「リーフ」標準仕様が40kWhですから、そのちょうど半分に相当します。
リーフはこの容量で322kmの航続距離を実現していますが、対する新型軽EVは180kmにとどまりました。単純に半分になっていないのは車体重量が軽いことが幸いしているのだと思います。とはいえ、エアコンを使って走行すれば実質120~30km程度となってしまうでしょう。はたしてこの航続距離で不足はないのでしょうか。
確かにファーストカーとして使うには、この航続距離ではどう見ても役不足であるのは確かです。しかもBEVは充電するのに時間を要します。ガソリン車のように数分で満タンにできるわけではないのです。
そこで、新型軽EVはいずれもファーストカーではなく、セカンドカーとして割り切った使い方を提案しています。バッテリー容量を20kWhとしたことで航続距離は短くなりましたが、三菱によれば、軽自動車やコンパクトカーユーザーの約8割は1日あたりの走行距離が50km以下とのことで、大半のユーザーは2日間以上充電せずに走行できる計算になります。
しかもバッテリーの容量が小さければ、それは満充電までの所要時間が短くて済むということもあります。たとえば、セカンドカーとして近所での買い物や送迎を50km程度こなし、夜間は自宅で充電するという使い方を想定すれば、むしろこの少ない容量がメリットをもたらすというわけ。通勤先に充電スポットが用意されていれば、出社している間に充電をしておくという手もあるでしょう。ただ、昨今の電力供給ひっ迫を考えると夜間での充電が望ましいのかもしれません。
軽自動車の領域をはるかに超える上質さとトルクフルな走り
そんな使い方を思い描きつつ、eKクロス EVに乗り込みました。運転席に座って真っ先に感心したのは、フロアにバッテリーを搭載している感じが一切なかったことです。乗降性も自然で、ガソリン車のeKクロスと比べてもほとんど違いはありません。さらに後席も十分なスペースを確保しており、大人4人が乗車しても楽に過ごせそうです。
これを実現した背景として三菱の開発担当者は、「eKクロスの開発時に、バッテリーを搭載することも想定していた」ことを明かしてくれました。なるほど、だからこそ、BEVとしても優れたパッケージングを実現できていたんですね。
内装はダッシュボードにソフトパッドが貼られ、スイッチ一つひとつにまで質感があります。軽自動車特有の室内幅の狭さを除けば、もはや軽自動車とは思えない上質さを感じるほどです。車載ナビも「アウトランダー」などと基本機能が同様なもので、スマホ連携やSOSコールにも対応した先進性に富んだシステムとなっています(“G”ではオプション)。
いよいよ公道へと繰り出します。踏み込んだ瞬間、その力強さが半端ないことに気付きました。それもそのはず、最高出力こそ軽自動車の自主規制に合わせて47kW(64PS)にとどまっていますが、規制がない最大トルクはなんと195Nm(19.9kg-m)! これは軽自動車ならターボ付エンジン車の約2倍に相当します。しかも、これがスタート当初から発揮されるのです。この力強い走りは、もはや軽自動車の領域を遙かに超えているとみて間違いありません。実力としていえば2.5L車ぐらいのレベルはあるのではないでしょうか。
フロアに搭載したバッテリーの効果もあり、乗り心地は常に上質です。BEVだから静粛性も極めて高く、オーディオを楽しむ人にとってもうれしい空間となることでしょう。カーブでは若干ロールがきつめに出ますが、シートがたっぷりとしたサイズで背もたれが包み込む形状なので、コーナリング中もしっかり身体を支えてくれて不安はありません。これなら、たとえ長く乗っても疲れにくいのではないかとも思いました。
路面からの突き上げ感は低速域で少し強めに出ますが、それも不快な印象はまったくありません。とにかく、軽自動車でここまで仕上がったことにBEVならではのメリットを感じないではいられませんでした。
おすすめグレードは「G」。これに適宜オプションを加えるのがベスト
最後に購入することを前提に、標準グレードの「G」と上級グレードの「P」、どちらが良いのかを考えてみたいと思います。
「P」は前述したように。スマホ連携カーナビやSOSコール、ステアリングヒーターなどを装備したフル装備モデルです。そのため、価格は293万2600円と300万円に迫る金額となります。ただ、これでも先行車に自動的に追従して走行するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)である「マイパイロット」は“先進安全快適パッケージ(PKG3)”としてオプションになります。走りの良さや車内の居心地の良さを考えると、ちょっと贅沢してみたくなりますが、考えてみるとそれを享受できるほどバッテリーの容量はないのも事実です。
これを踏まえると、あえて「P」よりも下位グレードの「G」を選び、そこに“寒冷地パッケージ(PKG6)”を装備して、ステアリングヒーターや前席シートヒーター(座面)、電動格納式ヒーテッドドアミラー、リアヒーターダクトを追加。さらにカーナビが欲しければ、ディーラーオプションの手軽な機種を組み合わせることで価格も抑えられます。この組み合わせで補助金を考慮すれば200万円前後に収まるはずです。これなら軽自動車の予算ギリギリで収まり、この「G」こそがeKクロス EVのコンセプトに叶った最良の選択になるのではないかと思いました。
SPEC【P】●全長×全幅×全高:3395×1475×1655mm●車両重量:1080kg●パワーユニット:電気モーター●バッテリー総電力量:20kWh●最高出力:47PS/2302〜10455rpm●最大トルク:195N・m/0〜2302rpm●一充電最大航続距離(WLTCモード):180km
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