軽量なボディゆえにパワーアシストがなくても操作は楽々
最高出力が10.5kWといえば14馬力程度に相当します。これが仮にガソリンエンジンだったとしたら、トルクが出るまでに一定回転数までの上昇が必要となります。しかし、そこは電動車、低速域から力強いパワーを発揮。このパワー感はノンターボの軽自動車をはるかに超えていると感じたほどでした。しかもまったくパワーアシストがない状態で走るものだから、路面からの反応もリニアに伝わってきます。これがまた走りに面白さを加えてくれたのです。
パワーアシストがない? これだけを聞けば市街地では使いにくそうにも思えますが、駆動ユニットがeAccessだけなので車体はきわめて軽く、それだけにアシストなしで操舵しても特に負担が大きくなることはないのです。ブレーキに関しても市街地走行レベルなら特に問題はないレベルにあったと言えるでしょう。また、遮音が一切ないことからロードノイズはダイレクトに入ってきますが、電動車であるがゆえにエンジン音はなし。電子音が若干入ってきますが、それほど気になるものではありませんでした。
ただ、空調がデフロスタぐらいしか備わっていないのは、日本で扱うにはかなり厳しそうです。日本の夏は高温多湿で、冬になれば気温が低くなってきます。夏は窓を開けて走行すれば何とかなるかもしれませんが、冬はおそらくしんしんと冷えてくると思います。しかも窓を閉めきっていれば窓は曇ってきます。だからこそデフロスタが付いているのですが、仮にこの車両が販売するとなれば空調ぐらいは欲しいところでしょう。
とはいえ、このクルマが目指すのはそこではありません。あくまで48Vシステムを採用することで超小型モビリティとしての可能性を模索したモデルなのです。
48Vシステムなら、軽トラのEV化にもメリット大
この日はもう一台の実験車両にも試乗することができました。それはスズキの軽トラック「キャリィ」をベースに、群馬大学「次世代モビリティ社会実装研究センター(CRANTS)」とヴァレオの日本チームがコンバージョンEVとして共同制作した『EV軽トラック』です。こちらはヴァレオの48V電動アクスル「48V eDrive」を、前後の車軸上に1機ずつ配置した4WDとなっており、それぞれの最高出力は15kW(20PS相当)となっています。
この「48V eDrive」はすでに48Vマイルドハイブリッドで採用されたもので、ヴァレオによればシステムとしての信頼性も高く、量産にも向いているとしています。また、ベース車の電動パワーステアリングをそのまま踏襲し、ブレーキのサーボアシストも搭載するなど、こちらは市販を意識した仕様となっているのも注目点です。
試乗してみると意外にも走行音はきわめて静か。加速感は48Vライト eシティーカー以上の力強さがあり、この走りを踏まえ、ヴァレオでは軽トラックの電動化を提案できることが確認できたとしています。特に軽トラックであれば航続距離の長さを気にする必要もないわけで、それでいて駆動システムを一体化できることで軽量化や低価格化も期待できることになります。そうした面で需要は確実にあるとみているわけです。
一時は一世を風靡した48Vマイルドハイブリッドは、完全EVの流れを受けてすっかり影を潜めていた感がありました。ところがどっこい、今回の試乗を通して低速限定のより身近なモビリティとしての用途があることをヴァレオは改めて世に示したというわけです。日本でも超小型モビリティとして導入されれば、電動車の普及により拍車がかかるのではないでしょうか。
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