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2022/11/12 21:00

この時代に増便?平地なのにスイッチバック? ナゾ多き出雲の私鉄「ばたでん」こと一畑電車の背景を探る

【一畑電車の旅⑩】田園風景が広がる雲州平田駅〜園駅間

雲州平田駅を出発すると美田が続く一帯が広がる。筆者は車庫周りを巡るとともに、この沿線では車両の撮影によく訪れる。

 

次の布崎駅付近までは、きれいな単線区間が続く。北側に架線柱が立ち邪魔になるものが少なく車両がきれいに撮影できる。背景には宍道湖の西側にそびえる北山山地の東端にある旅伏山があり絵になる。

↑雲州平田駅〜布崎駅間を走る1000系。周りは水田、後ろには北山山地が見える。同線で見られる架線柱もなかなかレトロなものだ

 

平田船川を渡り布崎駅に到着、そして次は「湖遊館新駅」駅へ。「駅」という文字が最初から入る全国的にも珍しい駅名で、「駅」を駅名表示の後に付ける本原稿のような場合には、駅が重複することになる。

 

同駅は1995(平成7)年10月1日に開業した請願駅で、駅から徒で10分ほどの宍道湖湖畔に「湖遊館」が開設され、新しい駅だったことから今の駅名が付けられた。ちなみに湖遊館には現在、「島根県立宍道湖自然館ゴビウス」という名の水族館がある。ゴビウスとはラテン語でハゼなど小さな魚を表す言葉だそうで、同館では宍道湖で暮らす汽水域の魚たちを中心に展示紹介している。

↑小さなホームと駅舎の「湖遊館新駅」駅に到着した7000系。島根県立宍道湖自然館ゴビウスが同駅の南側にある

 

【一畑電車の旅⑪】一畑口駅での電車の発着にこだわって見ると

湖遊館新駅駅を発車して園駅(そのえき)へ、この駅を過ぎると、右手に宍道湖が国道431号越しに見えてくる。とはいえ園駅〜一畑口駅間で見える宍道湖の風景はまだ序章に過ぎない。

 

北松江線のちょうど中間駅でもある一畑口駅へ到着した。この駅は前述したように、平地なのにもかかわらずスイッチバックを行う駅で、すべての電車が折り返す。運転士も前から後ろへ移動して進行方向が変わる。この駅での電車の動きを一枚の写真にまとめてみたので、見ていただきたい。2本の構内線にそれぞれの電車が入場し、そして折り返していく。

↑一畑口駅9時42分発の出雲大社前行きが入線、9時43分発の松江しんじ湖温泉行きが入線、それぞれ出発までの様子をまとめた

 

土日祝日のダイヤでは一畑口駅で両方向へ向かう電車が並ぶのは1日に2回のみというレアケースであることが後で分かった(平日には7回ある)。こんな偶然の出会いというのも、旅のおもしろさだと感じた。

 

ところで一畑口駅の線路の先、旧一畑駅方面は今、どうなっているのだろうか。

 

一畑口駅の先には200メートルほどの線路が伸びているが、その先は行き止まりで、車止めの先には一般道が直線となって延びている。実はこの道路にも逸話があった。旧路線跡には一畑口駅〜一畑駅間が正式に廃止された後の1961(昭和36)8月に「一畑自動車道」という有料道路が一畑電気鉄道により開設されていたのである。この道路は一畑に設けられた遊園地「一畑パーク」のために開設されたものだった。一畑パークはピーク時には年間12万人もの来園者があった遊園地だったが、人気は長続きせずに1979(昭和54)年に閉園、有料道路は1975(昭和50)年に廃止された。この後に一畑薬師(一畑寺)が同有料道路を買収、出雲市に無償譲渡していた。

↑一畑口駅の先には200mほど線路が残る。車止めの先に戦前までは線路が一畑口駅まで延びていた。現在は一般道となっている(左上)

 

一畑をレジャータウン化する計画は10余年で頓挫し、会社創設時のように再び一畑薬師により助けられた形になったわけである。ちなみに一畑薬師へは一畑口駅からバスまたはタクシーの利用で約10分と案内されている。

 

一畑口駅から先の美しい沿線模様と、大社線の興味深い路線案内はまた次週に紹介することにしたい。

↑一畑口駅から松江しんじ湖温泉駅かけては、宍道湖の風景が進行方向、右手に続く

 

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